48話
「……普通に好きになってくれよぉ」
「ふふっ、否定しなさいよ」
後ろ手をつき天を仰ぐ東条を見て、紗命は可愛らしく笑った。
「……お淑やかな京都美人はどこ行った?」
「京都弁、可愛いから使ってるけど……実際ノリなのよね、合ってるかも分からないし」
理想の女神像がガラガラと崩壊していく。
「……その様子だと、やっぱり惚れてはくれなかったかぁ、秘密ばらすの早まったかなぁ。
……でも抱きしめられた時耐えられなかったしなぁ。……ふふっ」
トリップする紗命を横目に、東条は頭を抱える。
「……いや、あぁ、どうしよ、でもここで渡さないと男として……(ボソボソ)」
「何よボソボソと」
「…………ぅしっ」
決意したように、服の内ポケットに手を入れた。
「これ、お前に似合うと思って……今渡さないと男として負けた気がするから」
差し出された掌の上にあるのは、美しい紫色の、菊の花を模ったブローチ。
何日も前に葵獅との探索の際、偶然見つけた物だ。
タイミングが分からず、ずっと渡せずにいたのだ。
「……綺麗、……私に?」
「あぁ」
「嬉しい、……ん」
「?なん……あぁ、後でセクハラとか言うなよ」
突き出された鎖骨辺りに、ブローチを止めた。
朱い襟元に、本紫色が良く映える。
「……ほれ。これ制服だけど良いのか?」
「良いの、ふふっ、似合う?」
「当たり前だろ」
「……ふふふっ、やっぱり桐将も私の「断じて違う」早いわよ」
間髪入れずに一刀両断された紗命が、不満に頬を膨らませる。
「だってこのタイミングで渡してくるなんて、そういうことでしょ!?」
「いつか普通に渡そうと思ってたんだよ!したら何か良い感じの雰囲気になったからっ!
ここで渡さなきゃ男が廃るだろっ!」
「責任取りなさいよ!」
「重いよ!?」
「そんなのさっき分かったでしょ!」
「そうだった‼」
一進一退の攻防を繰り広げ、互いに息が切れる。
言い合い、罵り合う二人の姿は、場違いなほどに青い春がよく似合う。
――未だ彼等は死地の中。
血生臭く泥臭い、戦場の中。
されど恋する乙女は、この一時を菊色に染めた。
恋にも色々な形がある。
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