43話
「「「ギゲァッ‼」」」
「「「――ッ!?」」」
入口から溢れる約三十匹の増援。
まるで機を見計らったかのようなタイミングに、屋上の誰もが一瞬の虚を突かれた。
「狼狽えるな‼隊列を組み直せ‼」
若葉の掛け声で槍隊が一列に並ぶ。彼等一人一人、まだ体力には余裕がある。葵獅もその援護に向かった。
……そう、突如現れた大群に目が行くのは自明の理。忍び寄る敵意になど、誰も気付かない。
紗命の真横から、物凄い速さで影が飛びかかった。
「――ッ、えぅっ――」
水壁で防ぐ、が、赤い肌をしたゴブリンが両手を水に突っ込む。
途端、魔力の反発が強くなり、一気に押し返された。
(ッ奪われたっ!)
そう分かった時にはもう遅い。
「――っ紗命ッ‼」
凜の叫び虚しく、少女は水球に囚われてしまった。
咄嗟に跳ね起き、赤肌に殴りかかる。しかし、
「テメェっ‼ぐっ」
ゴブリンとは比べ物にならない速さと力で蹴り飛ばされ、凜の身体がくの字に曲がる。
「っ凜!?」
「ゲホっ、紗命、を」
地面を転がる凜に、葵獅が驚愕。次いで曝け出された非戦闘員に、若葉が瞠目した。
一瞬で形勢をひっくり返した赤肌は、紗命を閉じ込め既に逃走を図っている。
その速さは普通ではなく、間違いなく肉体強化が施されている。
赤肌は作戦の成功に頬を歪めた。
同胞が近々戦争を仕掛けるのは分かっていた。
ならば自分は、その隙をついて手柄を取ってしまえばいいだけの事。
影でずっと狙っていたのだ。集中力が瓦解する機を。
そして観察する中で見抜いた。
敵の陣形の要は、この女だ。この女さえ消してしまえば、あとは数で圧し潰せる。
奴が死んだのは予想外だったが、競争相手がいなくなったのだ、此方としては好都合。
念の為一時離脱し、この女を始末して、更に待機している増援を加えこの場所を蹂躙しよう。
木を伝い、割れた窓から上階へ戻ろうとしたところで、
「――ッグゥ」
風刃が眼前を横切った。
赤肌は煩わし気に水球を作り、佐藤に放つ。その隙に窓の奥に飛び込んでしまった。
彼のなけなしの魔力では、相殺するので精一杯。上階に行こうにも間に合わない。
佐藤は焦り首を振り周りを見る。
「抜けられたら終わりと思え‼葵獅殿っ、紗命嬢をっ!」
「分かってるッ‼」
円を作り非戦闘員を守る彼等。若葉と葵獅には邪魔するよう指示が入っているのか、複数のゴブリンが足止めに入っている。
葵獅は蹴散らして進むが、場所が遠い。
これでは間に合わないっ。
「――っ東条さん‼紗命さんが連れ去られました‼上です‼」
格好つけて戻ってきた矢先にこれだ。面目もクソもない。
彼のすぐそばにはエスカレーターがあった。どうにか間に合ってくれ、と、
ボロボロの男に全てを託した。
誘拐、ダメ絶対。
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