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Real~Beginning of the unreal〜  作者: 美味いもん食いてぇ
第3章

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37話

 


 ――「バカっ、どんだけ心配したと思ってんの!」


「……すまない」


 上半身裸で汗だくの男二人が、女性二人の前で正座している。


 夢中になりすぎた東条と葵獅は、連絡を入れるのも忘れ陽が落ちるまで鍛錬に耽っていた。


 残留組は気が気ではなく、人員を絞り、彼等の救出作戦が持ち上がったほどである。

 その中に「良い汗を流した」、と笑顔で帰って来たものだから、凜のこの剣幕も納得できるというもの。


「……あんたもよ?桐将はん」


「はい。ごめんなさい」


 葵獅の影に隠れていた彼も、少女の怒気によって炙り出される。


「……帰りを待ってる人がおること、忘れんといて」


「……それは、どういう」


「……蕾はん達がお礼言いたいって心配してはったって意味や」


「あぁ、……」


 ――解放された二人は、何はともあれ道中沢山の人に礼を言われた。


 東条自身驚く人の集まり様だったが、彼はそれだけの事を行ったのである。

 加えて昨夜の微笑ましい光景も、彼の取っつき難さを緩和していたりするのだが、心汚い東条がそのことに気付くことはない。


「本当に有難うございます」


「いえいえ、必要な物があったら言ってください。無理しない程度に取ってくるんで」


 中くらいのバックを抱えた蕾が、頭を下げて礼を言う。


「お兄ちゃん、ありがとうございます」


「良いってことよ。沢山食って沢山寝ろよ?バイバイ」


「バイバーイ」


 手を振り、その場を後にした。


「……ズボン、おめでとさん」


「おう、これでようやく人らしい生活が出来るってもんだ」


「ふふっ、てるてる坊主と大差なかったもんなぁ?」


「違ぇねぇ」


 二人して東条が人になった喜びを讃える。


 軽口を言い合う彼等の間には、探る様な、付かず離れずの空気が流れていく。


「……黄戸菊さ、さっき俺のこと名前で呼んだよな?」


「……うちのことも紗命って呼んどぉくれやす。……皆そう呼んではるさかい」


「……分かった」


「……」


「なんか恥ずいな」


「あんただけや」


「そりゃ悲しい」


 笑い合い、消えゆく白い吐息は、寒さなど気にならないほどに温かかった。




 §




 八階、レストラン街にある肉料理専門店。


 奥のソファーに、どっかりと腰掛ける者がいた。


 体長は三mはあろうか、丸太の様に太い腕と脚に、脂肪で丸々とした腹。しかしよく見ると分かる。脂肪の下には、装甲の如く筋肉がこれでもかと張り巡らされている。


 体色はどす黒い緑。醜悪な顔に、半身を出した装い。


 そして、壁に立てかけられた大戦斧。


 肉塊を骨ごと噛み砕きながら、跪く二匹を睥睨(へいげい)する。


 この二匹も普通のゴブリンとは違った。


 一匹は体長二m弱、筋肉は盛り上がり、より人型に近い形をしている。

 もう一匹はそれほど大きくないが、体色が赤みがかっている。


 ゴブリンなのであろう巨漢が、つまらなそうに食べかけの肉を投げ、二匹が恭しくそれを拾いその場を去った。



 そこら中に(うごめ)くゴブリンは、自分達で狩ってきた魔物を食ったり、食べ粕や骨を取り合っている。


 並び立つ部屋にある食料に手を出すのは、たとえ上位種の二匹であろうと許されない。全てが王の食料なのだ。


 それでもゴブリンとは、元来自分のことしか考えない生き物である。食料に手を出す者も当然いる。

 そういった者に待つのは、死、のみ。ゴブリンの社会は、完璧なまでの恐怖政治。上位者に従えぬ者は、容赦なく殺される。



 二匹ともこの程度の食料で足りるはずもなく、普段は下層階で狩りをしていた。


 上層に見張りを出してはいるが、もれなく殺されている。先日登って行った獣のこともある。安全を考慮して、上層に自ら手を出すのは控えていた。


 しかし、と筋肉ゴブリンは思う。


 ここまでくる間も、この階層を巣にすると決め根絶やしにした時も、蔓延(はびこ)っていた種は異常に弱かった。

 加えて、ここに来てから、沢山殺し、沢山強くなった。

 王を殺し、自分が王になることはまだできないが、


 ……そろそろ上層に手を出してもいい頃だろう、と。



 §


男と女。


ヤバいやつら。


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