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Real~Beginning of the unreal〜  作者: 美味いもん食いてぇ
第3章

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35話

 


 ――「おはようさん、……何しとるん?」


 朝早くからストレッチをする東条に、彼女が疑問の眼差しを送る。


「おう、おはよ。今から中に行こうと思ってな」


「……一人で?」


「勿論。試したいこともあるし」


 平然と言ってのける彼には、恐怖心というものが無いのか。紗命は呆れよりも不安が勝る。


「あと一日は食料も持つし、もう少し後でもええんちゃう?そうや、特訓はもうええの?」


「その特訓の成果を試しに行きたいのさ」


「……怖ないの?」


「怖いってより、強くなってくのが楽しいんだよね。……男だから」


 良い笑顔には一切の混じり気が無い。彼の闘争本能を理解することは、並の人間では無理だろう。


「そんなん、あんたくらいやでぇ」


 今度こそ溜息が出た。



「ちょっと身体動かしたいんで中行ってきます」


「……随分軽く言うんだな、君は」


 一応報告しておこうと三人に声を掛けた東条だが、散歩でもするのかというノリに案の定驚かれる。

 だがそう言えども、彼等に東条の行動を抑制する権利はない。


「俺達が口を挟む事ではないが、気を付けろよ」


「うっす」


 それだけ言うと彼は防火扉に向かって歩き出す。しかし、その背中に待ったが掛かった。


「東条はん、うちも連れてってくれへん?」


「え?」


 紗命の言葉に全員が振り返る。


「もう少しで食料も無くなるし、ええ機会や思うねん。東条はんは強いし、中も知ってるさかい安全やん?」


 確かに一理あることはある。彼が返答に困っていると、


「確かにそうだな、なら俺が行こう。正直まだ心の準備ができてなかったが、紗命の言う通り良い機会だ」


 葵獅自ら名乗り出た。


「……葵はんはここで皆を守っとぉくれやす」


「それは紗命の方が適任だろ。残るなら壁を造れる紗命と、一番強い佐藤だ」


「……むぅ」


 ド正論にぐうの音も出ない。彼女にしては珍しいことだ。


 そこに、止めとばかりに東条も追撃を入れた。


「俺も筒香さんに賛成ですね。そもそも荷物持ち帰る前提なら、黄戸菊より断然筒香さんでしょ」


 はち切れんばかりの筋肉が重量を欲して哭いている。荷物持ちにこれほど適任な者はそういない。


「決まりだな。よろしく頼む」


「こちらこそ」


 新たなコンビは握手を交わし、冒険の扉へと向かった。



 歩く葵獅の背中を、恨めしそうに見つめる者が一人。凜がその顔を覗き込む。


「どうしたの?らしくないじゃない」


「……別に、そないなことあらへんです」


「……それにしても、あのフレンドリーな紗命が、彼には名前で呼んでくれって言ってないんだ」


「え?……だって、恥ずかしいし……」


 顔を赤くする彼女に、的を射たりと凜がニヤつく。


「へー、あー、ふーん、なるほどねー」


「なっ、別に他意はあらへんですっ」


「良いのよ良いのよ?恋は女を成長させるのだから!」


「ちょっ!?黙っとぉくれやすっ」


 両手を天に広げる彼女の口を、必死に抑えようとする紗命であった。




 ――「鍵は閉めますので、帰ってきたらノックを三回して下さい」


「分かった」


「ではお二人共、ご無事で」


「あぁ」「うす」


 扉を潜った二人は、鍵の閉まる音を後ろに聞く。人工的な光と、温かい室内が彼等を迎えた。


「さて、行くか」


「了解です」


 葵獅はコートを脱ぎ、東条は布団を剥ぐ。久しぶりの包丁とフライパンの感触に手をなじませた。


「先ずは十階でバッグを拾って食料諸々を詰めましょう。健康雑貨売り場も併設されてるんで、同じ階で済むはずです」


「分かった」


 運の良い事にここは九階。入ってすぐ隣にあった階段を慎重に上る。


「……あれがゴブリンか、」


「三匹っすね。どうします?」


「俺が左の二匹を殺る、右を頼む」


「……了解」


 腰を低くし、脚に力を込める。


「……三、ニ、一、「――ッ」」


 ゴブリンの耳がピクリと動き、此方を見るや、牙を剥きだし向かって来た。


 大地を踏みしめる力が、以前よりも増しているのが分かる。脚が地を蹴るごとに加速し、風が横を通り過ぎていく。


 東条は互いの間隔が一m弱になった所で、漆黒をゴブリンの顔前に顕現させる。先行した身体部分に、スピードを落とすことなく突っ込み、刃を突き立てた。



 心臓を一突きされ動かなくなったゴブリンを後目に、葵獅の戦闘を見学する。


 既に一体は黒焦げになり転がっている。ナイフ持ちを警戒して膠着しているところだった。


「ギアッ「――ふんっ」グゥえっ」


 突き出されたナイフを見送って躱し、ガラ空きの腹に重い一撃をめり込ませる。


 悶えるゴブリンの頭を掴み、燃やし尽くした。


「お見事です」


「ふっ、流石に速いな。次は君の戦いも見てみたいな」


「機会はあると思いますよ?」


「楽しみにしておこう」


 危なげなく狩を終えた二人は、余裕綽々と歩を進めた。



 ――「紗命とは上手くやれているか?」


「そう思いたいっすね。……色々打算的に動いてるみたいっすけど、まぁ美女に振り回されるなら本望です」


 二人はキャンプ用のリュックを幾つも拝借し、雑談しながら必需品を詰めまくっていた。


 東条は消化のよさそうな物や、オムツを物色する。


「ハハハっ、君も大概だな」


「女性は黒に近いグレーくらいが丁度良いんすよ」


「間違いない」


 一つ気付いている事があるとするならば、昨日の食事会は、あの親子に対する自分の同情心を誘う目的があったのだと思っている。


 娘達は元気そうに見えたが、母親は見るからにやつれていた。きっと食事を殆ど摂っていないのだろう。

 近い内中に行くことが予想できる自分の同情心を煽っておけば、その時物資を補給してくれるかもしれない。


 そんな考えが見えてしまうのは、自分の心が汚すぎるせいか。


「……ま、どうでもいいか(ボソ)」


「何か言ったか?」


「そろそろ詰め終わったし、一旦戻りません?」


「そうだな」


 葵獅は前後左右、加えて片手に四つずつリュックをぶら下げて立ち上がる。

 東条は四つで戦える限界だというのに。


「凄いっすね」


「すまんが咄嗟の戦闘は任せていいか?」


「まぁ、そりゃそうっすよね」


 体積が膨れ上がった二人は、収穫物を手に拠点へと戻っていった。




男2人で危険なデート。

彼とて、何も考えていないわけではないのだ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 東条側ならまだ分かるけど紗命が惚れそうなところあったかなぁ…? [一言] 東条と葵結構すき
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