33話
――紗命は三人を集め、バレていた事やその他諸々を話した。
「そりゃぁ、警戒もするわね」
「一人好きなのは人柄や思うけど、距離は縮めれた思いますわぁ」
話してみれば何てことはない、気さくな青年だった。
「同居人だ、俺達も歩み寄らないとな」
「そうですね」
話も終わり、去り際、紗命は男二人に聞いてみる。
「お二人は他人の魔力、感じれる?」
「いや、俺は無理だ」
「私も。確かに五感が鋭くなったような気はするんですが」
両者共にノーだ。しかし欠片は掴んでいる気がする。
「……東条はん的に言うたら、経験値の分散てとこやろか。聞いただけなら、狼の方があの鳥より強そうやったし(ブツブツ)」
思考の海に潜る紗命に、三人は置いてけぼりを喰らう。
「魔法とかcellって、奥が深いんですね」
「そりゃそうよ、あたし自身よく分かってないもの」
「あぁ」
そっちに関しては点でダメな三人だった。
§
「はぁっ、はぁっ、やっべぇこれっ、めっちゃ疲れる、んぐっ――」
真冬だというのに、パンツ以外全てを脱いだ東条が、滝の様に汗を流しながら荒い息を吐く。
気付けば夜の帳が下りていた。点々と差し込む月明かりが、幻想的に木々を照らしている。
彼の行っていた肉体強化の修練は、過酷を極めるものであった。
原理としては、大気中に漂う魔力を己の身体の中に取り込み、限界の腹五分目くらいで止め、外に漏れださないよう気を引き締め、体内に循環させる。これの繰り返し。
自分の魔力許容量は感覚で分かるのだが、溜めようとすればするほど、薄ら寒い悪寒のようなものを感じる。限界はまずいという本能の警鐘だろう。
そしてこれは彼の知らない事だが、風や火などの属性魔法は、体外の魔素を自分を通して色を付け、そのまま外に出す行為だ。身体の中に留め、循環させるという過程がない。
一手間も二手間もある肉体強化は、それだけに高難易度の魔法なのだ。
余談だが、凜が見た赤や青の魔力や、東条が感じた気配や覇気などは、身体中に定着した操作不可能な魔力だ。
これが素の身体能力を向上させ、魔法に色を付ける変換機構の役割を果たしている。
これらを動かすことは、人間が神経や臓器を動かすことと同義。故に無理。
力を抜いた東条は、ぐで~と木に凭れる。
朝から比べれば大分様になったと感じるが、それでも二分程度が限界。ここに戦闘中の集中力が加わるのだから、実戦になれば一分弱の切り札としてしか使えない。
「……要練習だな」
夢のある鍛錬に、目を閉じた。
異世界系の物語だと、いつの間にみんな使える肉体強化。
彼だって使いたい。
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