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Real~Beginning of the unreal〜  作者: 美味いもん食いてぇ
第3章

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31話

 

「どう見る?」


 東条の姿が見えなくなり、葵獅が口を開く。


「一人が好きなんやろうなぁ。……笑顔でゆうとったけど、用がある時以外は好きにさせろってことやろぅ?」


「……彼を当てにすることはできないのでしょうか?」


「まぁ、利己的ってだけで排他的ちゃうお人やさかい、協力はしてくれはるんちゃいますか?ねぇ凜はん?……凜はん?」


 今まで一度も発言しなかった凜に話を振るが、蛇に睨まれた蛙の様に動かない。


 その手には汗が滲んでいた。


「どうした凜?具合でも悪いのか?」


「ううん。……ちょっと、怖くなっちゃって」


 大きく息を吐く凜に、紗命が興味深い視線を向ける。


「……どないな風に見えはったん?」


 凜は自分の能力を隠していた。東条が聞かなかったのも幸いして、最後まで言わずにすんだ。

 その理由は、


「……真っ黒だったのよ、顔も見えないくらい」


 赤でも青でもない、どす黒いほどの黑。


 まるで人間の罪を有色化したかの様な色が、彼の全身を形作っていた。


 人+黒で好印象を持つ者はいない。加えて、人は完成されたグループに異物が入るのを嫌う。大人も子供も差異はない。


 ――誰もが黙る中、見計らったように紗命が口を開いた。


「……彼のこと、うちに任せて貰えへんやろか?」


「危険じゃないか?」


「能力なんて分からへんことだらけ、無駄に考えてもしゃあないです。それに、殿方の扱いには慣れてるし、拘束には水が一番やからなぁ」


 正論ではあるが、幼気な少女に任せていいものか、と男二人は思案する。


「そんな難しい顔しいひんで下さい。悪い人には見えへんかったし、いざとなったら皆で袋叩きにすればええんよ」


 三人とも、酷いことを快活に言う少女に絆されてしまう。


「……分かった、頼めるか?」


「おおきに」


 トコトコと花ちゃんの元へ向かう彼女に念を押す。


「……紗命、何かあればすぐに言ってくれ」


 紗命はクルリと振り返って敬礼のポーズをとった。


「がってん承知のすけぇ」


「む」「む」


「……おい」


 男二人の体たらくに、呆れるしかない凜であった。




 §




 それから四人は皆を集め、話し合い、互いの生を喜んだ。


 生き残った人数は三十四人。大半が喰われてしまった。


 しかし、団結力は以前と比べ物にならない。


 見張りの当番表を作り、武器になりそうな物を搔き集め、一人一人に配る。女子供関係なく。


 彼らはもう弱者ではない。


 外からの救援など期待していない。


 自分の命は自分で守るしかない。身をもってそれを知った。


 彼等はこの世界で生きる資格を得たのだ。


 そんな彼らを引っ張る四人のリーダーが、


 今日、生まれた。




 ――星が瞬く夜空の下、一杯だけ酌み交わす二人を、月は静かに照らしていた。


「どうだ、仲良くやれそうか?」


 林を見ながら葵獅が笑う。


「……どうでしょう、彼からは何か距離感の様なものを感じます。……正直、苦手なタイプです」


「ハハハっ、お前もそんなことを言うのか。てっきり誰にでも尻尾を振るのかと思ってたぞ」


「……酷い言い草ですね、」


 半眼で睨む佐藤を無視して、葵獅は酒を煽る。


「まぁ、一人でいれる力があるなら、他は余計なものとして割り切るのも道理だ。否定はできん」


「強いんでしょうね、身体も……心も、」


「こんな世界だ、普通は出来んがな」


 佐藤は自分の中に巣食う命題を、カップに揺れる月へ投影する。


「……考えてたんですが、私も、ここにいる仲間の為なら、他の人達を犠牲にするのを厭わないと思います。命に価値を付けるという点では、何も変わらないのかもしれません」


 ちらりと佐藤の横顔を見るが、そこに悲観的な影はない。ある種の覚悟に似た男らしさが垣間見えた。


「ふっ、……世知辛い世になったな」


「全くです」


 汗をかいたカップを、互いに軽く合わせた。




 ――己がために他を殺す者と、


 ――他がために己を殺す者達、


 ――ただ偶然の邂逅に、彼等は何を見る。



青、赤、そして黒。これらの違いとは?

夜空の下の、戦場で約束した1杯。

人とは複雑怪奇なり。


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