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Real~Beginning of the unreal〜  作者: 美味いもん食いてぇ
5章 白い獣は神の使い

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64話

亜門覚醒

 

 ――「……」


 白猿は一度攻撃を止め、近づいて来る一匹の銀狼を眺める。


 小石の中でも、この敷地内で一番大きな小石だ。下の奴らでは手に負えないだろう。


「……――(殺せ)

「ゴ」「オ」


 直立で待機していた二匹の将軍が一度跪き、時計台から飛び降りる。


 白猿は片手間で爆撃を放ちながら、観戦の態勢に入った。



 地面に亀裂を入れ、目の前に着地した二匹に、亜門は足を止める。


「……デカいな」


 体高は三mを超え、はち切れんばかりの筋肉は猛々しく脈動している。


 強い。

 一眼で分かるその威容は、邪魔だと一蹴するには大きすぎた。


「ゴォオ」


 一匹は全身に炎を纏い、ファイティングポーズをとる。


「オォ」


 もう一匹は地面から大剣を生み出し、柄頭に両手を預けた。


「……フゥゥ」


 亜門は短く呼気を済ませ、左脚を大きく引き、左手を軽く地面につける。


 炎将軍が両腕の炎を滾らせ、脚を引く。

 地将軍が大剣を引き抜き、脚を引く。

 亜門が右手の爪を剥き出し、脚に力を込める。


 瞳孔が細まり、牙を噛み締め、唸り、


 ――刹那


「――ッ‼︎」「「――ッ!」」


 踏み抜かれた地面が吹き飛び、三匹の姿が搔き消えた。


「シッ‼︎」


 亜門の超速の爪撃は、炎将軍にガードされる。

 同時に内側に身体を回転させ、右斜め上から迫る大剣を躱し、片手を地面につき炎将軍へ蹴りを放った。


「ゴゥッ」

「――っ、ッ」


 蹴りを半身で躱されるも、迫る炎の拳を逆足で蹴り飛ばす。

 腕の力だけで後方に飛び、振り抜かれる大剣をスレスレで躱した。


「オォオッ」

「グルルッ」


 一瞬で接近した地将軍の横薙ぎを上体を反らして躱し、続く切り上げを身体を捻りサイドステップで躱す。


 右左上左右下――地を抉り空を裂く連撃を、躱す、躱す、躱す。


「――ルゥッ」

「――ォオッ」


 二度目の横薙ぎに合わせ、刃を爪で砕きにかかった。

 しかし、


「つぅっ」


 大剣が大破すると同時に、自身の爪も砕け散る。


「ゴウオッ!」

「――っ」


 そこに地将軍を飛び越え、炎将軍が鉄拳を放つ。

 既で躱すも、拳は地面に突き立ち、爆砕、粉塵が撒き散らされた。


 三角耳をピンと立て、音と魔力を探る。

 そして見つける、炎の気配。後ろから振り抜かれる手刀に合わせ、裏拳を打ち込んだ。


「ゴア⁉︎」


 左頬にクリーンヒット。

 身体を捻りそのまま右ストレートを顔面に打ち込み、左ボディ、二連蹴り、右アッパーで仰け反らせ、空いた首に貫手を放つ。


 が、


「なっ⁉︎」


 炎将軍は仰け反ったまま、突き出された亜門の腕をがっしりと掴んだ。


 直後、右の視界の砂煙が揺らめき、気づいた時にはもう遅い。

 地将軍が振り抜いた六尺棒に、側頭部を撃ち抜かれ吹っ飛ばされた。


「ガっ、ぐっ、ハっ(……っクソ、視界が)」


 地面を転がり、跳ねて四足で着地。

 折れた牙を吐き捨て、揺れる焦点を気合いで定める。


 ぼやける二体は未だ余裕の表情。

 血を吐き捨てる炎将軍など、連打を当てたはずなのに涼しい顔だ。タフさが今まで会ったモンスターの中でも頭一つ抜けている。


 ダメージで言えば、攻撃したはずの自分の方が致命的。炎将軍に触れた箇所が、軒並み焼け爛れてしまっていた。


(……仕方ない、か)


 今の自分と同等の敵が二体。このままでは……勝てない。


 亜門は一度目を瞑り、大きく息を吐き出した。


 身体の力を抜き、もう一人の自分に、身体を、意識を、全て委ねていく。


 そして始まる、肉体の変化。


 筋肉が膨張と収縮を繰り返し、体躯は三mを超える。


 自己治癒によって傷跡が完治、血と土に汚れた毛は生え替わり、銀の輝きを更に強める。


 手の爪は相手を切り裂く事に特化し、二倍の長さに。


 見開かれる瞳孔からは、意思の光が消えた。


 今の亜門では、百%解放したcellを制御できない。しかし訓練によって、時間制限付きで力を引き出す事を可能にしたのだ。


 リミットは五分。

 その間彼の意識は無くなり、敵味方関係なく目に入ったモノを殲滅する。


 解除後は代償として、数時間肉体の自由が効かなくなってしまう。


 所謂、最後の切り札。計算されたcellの暴走である。


「グルルルルッ」


 亜門、否、銀狼は、目の前の二匹を餌と認識し、涎を滴らせる。


 銀狼の豹変具合に足を止めていた二匹も、再度警戒を強めた。


 刹那、銀狼の姿が消えた。


「――ッ⁉︎」「――ゴっ、ガ⁉︎」


 遅れて、先まで銀狼が立っていた場所が陥没、炎将軍の脇腹が血を吹いた。


「――ルッ」「ァアアッ‼︎」


 超低姿勢で接近し、脇腹を切り裂き、続く二撃目を辛うじて躱される。


 しかし炎将軍が放つカウンターにカウンターを合わせ、回し蹴りでその巨躯を蹴り飛ばした。


 校舎の一つをぶち抜く炎将軍を他所に、横から迫る六尺棒を屈んで躱す。


 回転と攻撃を繰り返す棒の軌道を完全に見切り、突きを放たれた瞬間、懐に潜り込み遠心力を利用して爪を横に薙いだ。


「――ォッ」


 地将軍は棒を手放し、後方に跳びながら極限まで腹を凹ませる。

 皮膚をなぞり赤い線を残していく爪を見ながら、冷や汗を飛ばした。マズい!


 しかし銀狼は地将軍の手放した棒を引っ掴む。身体を半回転させ踏み込み、


「ゥルッ」

「ゴォオオっバガッ⁉︎」


 大跳躍してきた炎将軍に叩きつけた。棒が砕け散ると同時に、再び吹っ飛んでいく炎将軍。別の校舎に、また一つ大きな穴が空く。


 獲物は手負いから。

 後を追おうと脚に力を込め、しかし寸前で横に駆ける。


 元いた場所を、巨大な石矢が打ち砕いた。


「ォオオ‼︎」


 巨大な土弓を構える地将軍が、駆け回る銀狼へ矢を射りまくる。

 地面が破裂し、校舎が削れ、同胞であるはずの猿とゴリラが、流れ弾を食らい爆散していく。


「ハッ、ハッ、ハッ」


 銀狼は地将軍の周りを回りながら、徐々に距離を詰めていく。


 矢を射った瞬間一気に加速、背後を取り、飛び掛かろうと狙いを定めたところで、


「ゴォアア‼︎」


 何度も吹っ飛ばされ青筋を浮かべた炎将軍が、着地と同時に地面を殴りつけ爆砕した。


「……グルルルル」


 再び距離を取られた銀狼は、何度も狩りを邪魔され怒り唸る。


 しかし怒っているのは向こうも一緒。炎将軍が腕の炎を滾らせ、正面から突撃してきた。


「ゴォオ‼︎」


 振り抜かれる拳に合わせ、爪を振り抜く。

 回避は、ない。殺った。銀狼はそう確信するが、


 しかし、


「ルァ?」


 炎将軍の身体を両断するはずの鋭爪は、炎を纏った片腕に減り込んだまま止まっていた。


 反対の爪を振り抜き攻撃するも、見切られ手首を掴まれる。


 抜けない爪、ジリジリと焦げていく腕、銀狼に焦りが生じる。


 強化を両腕に集中した炎将軍は、自傷覚悟で決着をつけに来た。


「ゴォオオオオ‼︎」

「グルァアアア‼︎」


 爆発的に燃え上がる豪炎が二匹を包む。

 最大火力で自分ごと燃やし始めた炎将軍に、銀狼は暴れまくり抜け出そうとする。


 一撃一撃が必殺の威力を誇る蹴りを滅茶苦茶に浴びせるも、炎将軍は盛大に吐血するだけで絶対に手を離さない。


「グルガ⁉︎」


 そこに追い討ちの様に飛来する三本の石矢。一本は躱すも、肩と腿に激痛が走った。


 そして膨れ上がる炎将軍の魔力。


「――ッ」


 銀狼は抜け出すのを諦め、全魔力を防御に回した。


 瞬間、――大爆発。


 大気が震え、校舎丸ごと一棟が消し飛んだ。


 爆心地から昇る、小さなキノコ雲。誰もがその威力に息を呑んだ。


「ォオオ……」


 地将軍は弓を構えたまま、鋭い目つきで煙の中を睨みつける。

 倒れてくれ、死んでくれ、そう願いつつも、弓の弦を引き絞る。


 そして徐々に見え始めるシルエットに、地将軍は舌打ちした。


「……」


 腕をだらりと垂らす銀狼の全身は、見るも無惨な大火傷に覆われてしまっていた。


 ワナワナと震え出す彼が思うのは痛みか、恐怖か、


 否、


 自分が傷を負ったこと、それも、自爆などというつまらない技で、狩るはずだった命を横取りされたのが、何よりも苛立たしく、屈辱であった。


 故に、


「ガルロァアアアッッ‼︎」


 キレた。


 人を捨てた人狼の怒りのツボなど、予測できる筈もない。


 銀狼から爆発的に迸る魔力の本流に、地将軍は息を呑み矢を放つ。


「――⁉︎ッッ」


 しかし次の瞬間、地将軍の目に写るのは目前まで迫る破魔の鋭爪。


 弓でガードするも、一撃で切り裂かれ胸から血が吹き出す。


 バク転、バク宙、その際地面から双剣を錬成。追撃を入れる銀狼に突貫した。


「オオオオオオオオオオッッ‼︎‼︎」

「ギャルァアアアアアアッッ‼︎‼︎」


 そこからは最速と最速のぶつかり合い。


 途轍もない数の残像が空気の圧を作り出し、連続する衝突音は一本の線となる。


 地面が波状に切り裂かれ、罅割れ、砕け散り、その礫すらも切り裂かれ塵と化す。


 地将軍の腹が斜めに裂かれる。

 銀狼の胸が真横に裂かれる。

 地将軍の耳が吹き飛ぶ。

 銀狼の耳が欠ける。

 地将軍の顔面が斜めに血を吹く。

 銀狼の脇腹が血を吹く。

 地将軍の肩が削れる。

 銀狼の腿が削れる。

 地将軍の指が宙を舞う。

 地将軍の右腕が飛ぶ。

 地将軍の左腕が飛ぶ。――


「ガロロロロロッッ‼︎」「あぎゃばギグぎゅげアビュバビュちゅ――


 滅茶苦茶に、グチャグチャに、粉々に、まだ、まだっ、まだッ、身体が残ってる!


 皮が、肉が、臓物が、骨が、切り裂かれ、切り裂かれ、切り裂かれ、頭部を空中に残したまま血の霧が散布されていく。


 振り抜く爪に手応えがなくなった瞬間、銀狼は白目を剥く血将軍の頭部を鷲掴みにした。


 首から下は既に無く、真っ赤に染まる地面が広がっているのみ。


 ――汚名返上。殴殺遂行。完全勝利。


 銀狼は歪んだ笑みを更に歪ませ、広がる蒼穹を勢いよく仰いだ。



「アォォオオオオオオオン‼︎」



 大学を超え、彼方まで響き渡る雄叫びは、清々しい程の快楽に汚れていた。


ボロボロの銀狼が睨む先は、時計台の上。

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― 新着の感想 ―
[一言] 時間制源付のcellの暴走か。 今のマサがcell暴走したらどうなるのか。気になるな。
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