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Real~Beginning of the unreal〜  作者: 美味いもん食いてぇ
第3章

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26話

 大半が静かに休んでおり、加えて大量の葉擦れの音で全く気付かなかった。


 彼の身体が硬直し、寒いはずなのに汗が出てくる。


(……まずいぞ、これはまずすぎる)


 何も言わず方向転換し、一旦林に戻ろうとしたところで……、



「あー、……おはようございます」



 自衛用にか、鉄パイプを持った老人とバッチリ目が合った。



「……」


「……」


「……年の暮、ご多忙の中にも活気溢れる日々をお過ごしのことと存じ「分かった分かった、挨拶はそれくらいでええわ」……ます」


 呆れたように彼の言葉を遮り、次いで、その人間として大事な何かを落としてきた様相に目を向ける。


「……新手の変態か、物の怪の類か?」


「れっきとした人間です。唐突で悪いんですが、水浴びれるとこありますかね?」


「ん?あぁ、向こうのテナントに水道がある。お湯も出るからの」


「有難いです」


 ここまで来たら羞恥心など捨てろと自分に言い聞かせ、堂々と歩く。


「っ……その傷、平気なのか?」


「?あぁ、こっからじゃよく見えないんすけど、そんなに酷いですか?」


 背中を見つめる老人は険しい顔をして頷く。


「傷は塞がっているようじゃが、真新しい、何があったか教えてくれぬか?」


 道中真剣な顔で尋ねてくる老人に、彼は少し考える。


「構わないんですけど、……ここってリーダー的な人います?」


「リーダー……、うむ。先に激しい戦闘があっての、今は寝てる。……そこで大分人数も減ってしもうた」


 老人は、悲しそうな、悔しそうな表情を浮かべ、振り払った。


「それは、ご愁傷様です」


「有難う。儂は慣れているからいいんじゃがな、若人には辛い経験だったろう。……それで、リーダーがどうしたのだ?」


「正直後でまた聞かれると思うんで、全員集まってる時に話しちゃいたいんですよね」


「ほっほっ、それもそうだ」


 要するに面倒臭い、と言われた老人は笑って同意する。


 気難しい人でなくて良かった、と安心した。


「浴び終わったら彼女の所に行くと良い。怪我人は彼女が見てくれている」


 老人の視線の先の女性は、既に目を見開いて自分を見ていた。


 言っても血達磨の自分は今、起きている全員の視線に晒されているわけだが、医療従事者の目から見れば尚更ヤバい人間であることだろう。



「分かりました。それじゃぁリーダーが起きたら呼んで下さい」


「うむ、分かった」



 鏡の前に立ち背を向けると、左肩から(へそ)の裏辺りまで伸びる赤い裂傷が見えた。


 痛々しい傷痕ではあるが、血は止まり、思ったより深くもない。


 傷を洗い、血だらけの身体を水で流す。


 そこで、自分の目のピントが合っていないことに違和感を覚えた。


 寝惚けているのかと思っていたが、一向に治る気配がない。


 コンタクトにゴミでもついたかと思い外すと、


 しっかりとピントが合った。


「……まじか、」


 今思えば、一日でこの治癒の速さは異常だ。


 加えて視力の回復。


 一つだけ思い当たる節がある。


 モンスターを倒すと身体能力が上がるという書き込み。


 そもそもモンスターを倒した一般人が少なすぎて、且つ、上がったと言っても誤差程度でしかなかったため、検証保留となっていた事案だ。


 事実、自分の身体から微量な魔力の流れを感じる。


 意識していない、肉体に内包された魔力。


 意識的に使う肉体強化ではない。


 シンプルな身体能力の向上。


 肉体強化をドーピングとするなら、これは筋トレでつけた純粋な筋肉だ。


 今回一気に効果が表れたのは、倒した数の問題か、相手のレベルの問題か。


 恐らく両方だろう。


 最後に戦ったボス狼なんて、序盤に出てきていいレベルじゃないと文句を言いたい程だった。



 ――血だらけになったパンツを洗いながら、昨日の戦いを振り返る。


 勝てたのは百%能力のおかげだ。


 正直言って、自分の能力はかなり強い。


 判明した能力の特性にニヤニヤしつつ漆黒を呼ぶ。


 半径三十㎝ほどの漆黒の球が現れた。


 能力も身体と同じく成長する。


 条件が熟練度によるものか、モンスターを倒すことかは不明だが、どっちにしろモンスターを殺すには能力を使うのだから関係ない。


 洗っても落ちない場所は諦め、タオル用のシャツで身体を拭き、洗ったばかりのパンツを絞り、穿き直して外へ出た。


変態の爆誕。

異常な回復。

みんな大好きレベルアップ。


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