16話
――四日目
§
――「お、あった」
彦根は大学を囲む壁に小さく描かれた、抽象画の様な物を見つける。
(まったく、ブラシがけなんて久々だよ)
水をつけゴシゴシと擦る彼の元に、部下からも連絡が入る。
『隊長、α隊も見つけました』
『此方Δ隊。我々も見つけました』
「んーなるほど、ノエル君の推測は概ね当たりかな。……分かった、継続して大学周辺の抽象画を消してってくれ。普通科と輸送科の人達にも応援を頼むから、一班に一人は君達が入る様に」
『『『了解』』』
彦根は先ほど亜門経由でノエルから通達された、猿の情報を思い出す。
・本作戦に支障をきたす存在。『猿』の判明。
・茶、赤黒、白斑の階級と、大まかな強さ。
・コボルトが使役されている可能性。
・呪術的な画を媒体に、瞬間移動の様な能力を行使している可能性。
・大学の近くにも、抽象画が描かれた石が仕掛けられているかもしれない。
とのことで、大学防衛組である彦根隊に、周辺の調査が任された。
そして現在、その読み通り、抽象画がいたるところで発見されている。といったところだ。
彦根は苦い顔をする。転移や瞬間移動といった能力こそ、今最も敵対したくない能力の一つだからだ。
「……だからこそ、この画を消さなきゃって話なんだよね。うし、いっぱい見つけるぞー」
彦根は次なる抽象画を求めて、壁や石や地面、トレントの幹に至るまで、隈なく探していった。
――夜の帳も降りた頃。
救助活動を終えた各隊は、大学に帰還し明日の脱出の為の英気を養っていた。
「こちら亜門です。只今救助作戦を終了し、帰還しました」
『おう、お疲れさん。負傷者は?』
「いません」
『そりゃ良かった。それで、何人救出できた?』
「合わせて三十二人です」
画面の奥の岩国は、予想していたとはいえ、その絶望的な数に顔を顰める。
『……そうか。……山手線内の定住者は三十万人を越え、通勤通学を含めた流入人口は、一日三百万を超えるらしい。
……加えてあの日はクリスマスだったからな……クソっ』
「……大臣、お気持ちは分かりますが、今は生存者がいた事に喜びましょう」
『……そうだな。すまない』
岩国は頭を振り、苛立ちと悲観を抑え込む。
『了解した。その人数なら、今到着している分の車両で足りるだろう』
「はっ。第一陣は先頭車を私が先導します。七十mおきにAMSCUの隊員を配置しようかと」
「ああ、それでいい。間は合流した部隊で埋めてくれ」
「はっ」
『それと、ノエルさんが言ってた猿。そっちはどうだ?』
「はっ。彦根隊により周辺の調査を行ったところ、多数の画が確認されました。粗方除去はしましたが、万が一があるかもしれません」
『そこだけはな、分からない事が多すぎる』
「はい」
『最善を尽くす以外、今のところは方法がないからな。……遂に明日だ、気張れよ』
「はッ」
「では明日の作戦は、〇八:〇〇より開始する。通達しておくように」
「はっ。了解しました」
事後報告を聞き終わった岩国は、疲れた様に背を凭れる。
「そういや、作戦中、黒玉は見つかったか?」
クリスマスの日、モンスターを産み落とした全ての元凶。
あの黒玉は危険地帯にて必ず目撃されていたが、モンスターを排出した後は、必ずその場から跡形もなく消えていた。
日本中がモンスターで溢れかえってからは、その出現も確認されていない為、今では検証しようにもできないのが現状なのだ。
モンスターが出きった為消失した。と見る自称評論家もいるが、規則性も性質も何も分かっていない為、警戒するしかないのだ。
「いえ、過去出現が確認された場所にも行きましたが、それらしきものは」
『そうか』
「ただ、出現場所は魔素濃度が他より高い、という共通点がありました。誤差ではありましたが、一応報告をと」
『……ふむ。分かった。伝えておく』
「はっ。それでは私はこれで」
『ご苦労だった』
「失礼します」
§
ちょっとテストヤバくて卒業危ういから更新不定期になる




