22話
「あっ」「花ッ‼」
その中には紗命と仲良くしていた女の子の姿もあった。
母親の悲痛な叫びが響く。
彼女は怪我人を庇おうとして、風に身を許してしまったのだ。
紗命の腕は植物用のネットに絡められている。
ぼやける思考の中、必死にしがみついて耐えていた。
しかし彼女を救った張本人は、
「凛ッ‼」
葵獅が叫び駆けだす。
しかし、遠い。
「ッ……!っ」
宙に投げ出された凜は共に飛ばされた幼女を見つけ、空中で腕を伸ばし胸に抱き寄せた。
「グゥっ……大丈夫かい?」
「うん……ありがとっ……」
「ふふっ、強い子ね」
――凜は幼女が前を見ないように、抱いたまま起き上がり、
羽を広げ構える巨鳥を見据えた。
落ちた場所が致命的に悪かった。五mも離れていない。
加え、強風は一瞬しか吹かなかった。
自分達が宙を舞っている間に突進のチャージは完了している。
逃げる時間などない。
――不思議と心は穏やかだった。
「ふぅ」
一息つき、彼女の目つきが変わる、
自慢の三白眼で敵を睨みつけ、彼氏譲りの獰猛な笑みに中指を添えてやる。
「くたばれクソ野郎」
「ギィェェエッ‼」
「逃げろォッ‼凛ッッ‼」
肉弾が打ち出された。
――折れた嘴が目の前まで迫る
愛しい彼の声が聞こえる
泣きそうな声だ
彼の泣くところなんてめったに見れない
……見たいなぁ
それで、いっぱいいじって、いじった後に一緒に笑うんだ
……私、良い彼女だったかな
……まだ、一緒にいたいなぁ
「……ごめんね、葵」
――「やめ、ろ」
佐藤はその光景を、ただただ横から見ていることしかできなかった。
風には巻き込まれなかったが、攻撃をした後から身体が動かない。
人が埃の様に飛び、塵の様に殺されそうになっているのに、身体が動かない。
大切な人が倒れたまま動かない。
大切な人が泣きそうになりながら走っている。
大切な人が死を前に笑っている。
(やめろ、)
一番大事な時に、何もできない。
(やめろ、)
一番立たなければいけない時に、立つことができない。
(止めろ)
私は……私は、何の為にここにいる。
(止めろ)
私は彼らと何を約束した。
(止めろ、)
守れ、守らなきゃならないんだ、これ以上、失ったらダメなんだ。
これ以上はッ、
止めろ、(止めろ、やめろ)「止めろ、やめろ、止めろ」(止めろ止めろ)やめろ「やめろ止めろ止めろやめろやめろ止めろ止めろ、止めろ――」
「止めろオォォォォッッ‼」
「ギェッ!?」
巨鳥の身体がビタリ、とその場に固定された様に、止まった。
2人目の能力者。
彼の力は、果たして…。
面白いと感じたら、評価とブックマークをお願いします!!




