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続々と集まって来た人間達に囲まれるのを嫌い、東条とノエルは大学に背を向ける。
「まさ、もういいの?」
「ああ。悪いな、心配かけた」
「全然」
歩き出そうとして、そうだ、と振り返る。
「朧、こいつの怪我だけど」
「モンスター倒させれば勝手に治るでしょ。まぁ、あんたのせいで動くかどうかも怪しいですけど」
既に気絶しており、胡桃に抱かれている新を、朧は半目で見る。
「分かってんならいいや。じゃな」
「じゃな」
「はいはい」
そこで背中に衝撃が走る。
「まささん!カッコよかったっす!」
「お前、あれ見てその感想出てくるって、ヤバいぞ?」
「何でっすか?」
本気で首を傾げる殴打娘に、東条も頬を掻く。そこにリーダー女性とジャンパー女学生も寄ってきた。
「私達はまささんに救われたんですよ?拗らせド陰キャたらしのまささんの優しさは、肌身で感じています。あれ程怒ってたんです、きっと何か理由があったんでしょう?」
「やっぱり大人の女性はいいですね。包容力が違う。……あと自分で言っといて何ですけど、そのあだ名やめません?」
「ふふっ、嫌です」
(美人だぁ)
東条がポヤポヤしていると、
「あ、あの、まささんっ」
今度はジャンパー女学生に呼ばれる。
「どこか行ってしまうんですか?」
「おう。俺の本職は冒険だからな」
「そ、そうですか……」
露骨に悲しむ彼女に笑みが漏れてしまう。
「またいつか会えるかもしれないし、そん時はよろしく頼むよ」
「は、はいっ。必ず!……あとあの、これ、良かったら受け取って下さい!」
一通の手紙を渡される。
「これは……。こんな公共の場で、勇気が凄いな」
「後で読んでください!」
顔を真っ赤にしながらも、真っすぐに見つめてくる彼女に、東条の心が痛む。
彼女の好意には既に気付いている。自分としても、その気がないのに思わせぶりな態度をとるのは嫌だ。
「悪いけど、これは受け取れないよ。俺の心は今、他の女性の場所にあるんだ。嬉しいけど、ごめんね」
心を鬼にして、断ろう。
「それはノエルさんの事ですか?」
「え?い、いや。違うけど」
「遠距離恋愛ですか」
「まぁ、そんなとこかな」
「じゃあ条件は一緒です。後で読んでください!」
周りの女子達からも黄色い声援が飛ぶ。
彼女の覚悟を前にして、東条は放心した。
清楚な顔して、とんだ猛獣を内に飼っていたらしい。いや、女は皆猛獣か。
「ふぅ……、強かな人だな」
「私、まささんのこと、好きですから」
「――っ」
またも黄色い、最早金色の声援が飛び交う。
これ程の誠実さと度胸を見せられて、はいそうですかで終わるなど、男の名折れだ。思わせぶりにならず、此方の誠実さを見せる方法は……。
(……カメラは、ないな)
東条は周りに携帯を構えている人間がいないのを確認し、
一思いに鼻から下を露わにした。
半分とは言え、彼の素顔を見た誰もが驚愕に目を見開く。ノエルでさえも。
「名前は?」
「あ、あ、風代 涼音です!」
「そうか、風代、俺は一途なんだ。他の女に振り向くことはないと思った方が良い。それでも良いのか?」
「はい」
「そうか、せいぜいがんばれよ」
「はいっ、ぁ」
微笑みを最後に隠れてしまった口に、風代は露骨に残念がる。彼女は少しポーカーフェイスを覚えた方が良いかもしれない。
「それじゃあ皆さん、またいつか、何処かで」
去って行く彼等に、やれやれと手を振る馬場。
ぶんぶんと手を振る殴打娘。
微笑むリーダー女性。
そっぽを向く朧。
気絶する新に、歯を食いしばる胡桃と、二人に寄り添う嶺二。
陰からこっそり手を振るすらいむ。
新をボコボコにしたせいで、自分達に敵対的な視線を向ける者も少なくない。
しかしそれがどうした。他人の目を気にするほど、自分達は暇じゃない。
最後に、手を振るJKの横で、ニヒルな笑みを浮かべサムズアップする毒島に苦笑し、二人は大学を後にした。
§
風代は東条が去って行った方角を、ほけー、と見ながら、彼の口元を思い出す。
(…………包容力、鍛えよ)
季節は晩冬。彼女の元には、一足早い青い春がやってきた。
§
最後は爽やかに終わろうぜ!w次で3巻ラスト。19時ら辺に投稿するぜ。




