表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Real~Beginning of the unreal〜  作者: 美味いもん食いてぇ
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/1049

20話

 

 ――「ふぅッふぅッふぅッ、無事か佐藤っ‼」


 攻撃の勢いが弱まったのを認め、敵から眼を逸らさずに叫ぶ。


 しかし葵獅の声音の中に心配の色はない。


 今の今まで後ろから敵が来ないのは、信頼する仲間が背中を守ってくれているからだ。


 そんなことは分かっている。分かっているが、仲間の無事は返事で持って確認したい。


「――っ‼はいッっつぅ」


 後ろから聞こえた力強い声に身体が反応する。


 直後頭の中を走る激痛に顔を歪め隙ができるも、なぜか敵も襲ってはこなかった。


「紗命はっ‼」


「お陰様でぇ」


 いつもと変わらぬ口調に思わず笑ってしまう。


「あと何匹いるっ‼」


「……三十弱ってとこやろかぁ、」


「……多いな、……持つか?」


「どうやろ、うちん前に佐藤はんが倒れそうやけどなぁ、」


「……怪我したのか?」


「いんや、恐らく魔力の使い過ぎちゃうやろか。くたばってる敵はんの数で言えば、葵はんの倍近くはあるわぁ」


「……ほぉ」


 一瞬の驚きの後、葵獅の口角が獰猛に持ち上がる。


 これは競争ではない。命がけの防衛戦だ。


 しかし、元より戦いの職についていた自分が、まさか倍の差をつけられてるとは思わなかった。


 称賛と同時に、闘争心に薪がくべられる。


「佐藤ッ‼返答はいらん‼敵はあと半分だ‼絶対に倒れるなッ‼終わったら飲むぞ‼」


 葵獅とて頭痛に侵されていないわけではない。常人なら頭を抱えて(うずくま)る程度にはきている。


 声を上げれば当然痛む。無理やり筋肉で押さえつけているに過ぎない。


 しかし、既に限界を超えて戦っている仲間へエールを送らずにはいられなかった。


 そこに発破が加わったのも、彼らしいと言えば彼らしい。



 ――佐藤の脳は極限の痛みと集中力に、不必要な情報をカットしていた。


 今は目の前の敵のことだけで精いっぱいだった。


 気を抜くとすぐにでも倒れてしまう。確信できる。


 今までこれほど頑張ったことがあるだろうか、ないだろう。これからですらない気がする、いや、もしかしたらあるのかもしれない、こんな世界だ。


 あぁ、


(……つらい)


 もういいじゃないか、そんな弱音が持ち上がって来た時、


 仲間からの声が届いた。


 不思議とその声は彼の極限を邪魔することなく、暗い気持ちを優しく燃やしていった。


 ――少し経つとまた声が届いた。その声は先ほどとは違う。猛り、燃え盛る業火だ。


 この気持ちに気付けないほど、馬鹿じゃない。


 この気持ちを無下にできるほど、男が廃れてはいない。


 何より、飲みに誘われてしまった。


 眼鏡を正し、自然と笑みが浮かぶ。


 気合一喝。


「――ッはいっ‼」


 消えかけのマッチにガソリンをぶっかけた。



 ――背中に打ち付ける眼鏡の一喝に苦笑する。


 返答はいらんと言ったのに聞いちゃいない。後ろから、くすくすと可愛らしい笑い声も聞こえた。


 気持ちの換気は十分だ。もはや負ける気がしない。


 誰もがそう思う中、



 暗闇が動いた。



 ――「……?」


 最初に違和感に気付いたのは紗命だった。


 操る水に抵抗を感じる。


 その力は徐々に、徐々に強まっている。


 誤差の範囲だった抵抗が、ほんの数秒で確かなものとなった。


((……風?))


「――ッ‼」


 佐藤と葵獅、二人の後ろ髪を撫でた強風が霧散するのと、


 前方の暗闇がぶれるの、


 紗命が水の形態を変え、眼前に壁の様に展開するの、


 全てがほぼ同時に起こった。


 ヒュゴォッ――


 水の壁に強風が叩きつけられる。


 水面は大きく揺れているが、攻撃性は低いらしく耐えられる範疇。しかし、


 ――風が止まない。


 予め母の攻撃の予兆を感じ退避していた黒鳥が、がら空きとなった後方から猛然と襲い掛かった。


「「――ッ‼」」


 突如出現した水壁に気を取られるも、迫る危機が二人を現実へ引き戻す。


 少なくなったとは言え、天蓋がなくなったことで無差別に襲いだした黒鳥を、二人が必死に食い止める。


 その光景を見て、紗命は心の中で盛大に舌打ちをした。


 強風は今も尚続いている。


 一般人を守ろうと天蓋に戻せば数秒も耐えられない。


 今の紗命の力では、手持ちの水全てを使った壁でようやくタイだ。


 それに加え魔力がガンガン削られている。


 あとどれくらい持つかも分からない。


 紗命は暗闇から現れた巨鳥を睨みつけた。


ボス狼は風塊、巨鳥は突風。魔法の使い方も千差万別。


面白いと感じたら、評価とブックマークをお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ