76
――『簡単にですが見させていただきました。正直驚くべき内容ばかりで、何と言えばいいのか……』
後ろから微かに大人達の騒がしい声が聞こえている。今頃国の緊急対策チームはてんやわんやだろう。
『いくつか質問構いませんか?』
「ん」
――それから数時間に渡る質問攻めにノエルが嫌々ながらも答え、終わる頃には日が傾きかけていた。
『それで、身体強化の行使方法なのですが、実際に見せ合った方が分かりやすいとのことでしたので』
「ん~~~‼……疲れた。休む」
「わっ(ボソッ)」
『え、あの』
スマホを東条に投げ渡し、有栖を連れ教室の端に行き寝っ転がるノエル。有栖に膝枕をさせ、彼女は頭をジャンパーで包み静かな寝息を立て始めた。
「ど、どうすれば……(ボソッ)」
「……自由過ぎんだろ」
東条は頭を抱えるが、思えば今日は確かに色々あった。
その上数時間に渡り国との交渉に意識を裂いてくれたのだ。とりあえずノエルは有栖に任せ、スマホを耳に当てる。
「すみません代わりました。ノエルと一緒にいる、まさという者です」
『まさ、様。あの、失礼ですが、お顔の黒い方でしょうか?』
「そうですそうです。巷ではカオナシと呼ばれているらしいですが」
『失礼致しました。お名前をお伺いするのは初めてでしたので、本名をお教えいただいてもよろしいでしょうか?』
「嫌ですね。それより身体強化の件ですが、実際に見ながら教えたいので、ビデオ通話にしてもらってもよろしいでしょうか?」
『……承知致しました。専門の者に変わるので、少々お待ちください』
数秒後、画面が切り替わる。
『……初めまして。陸軍所属の、亜門 誠一郎という者です。我道に変わりまして、ここからは私がお相手させていただきます。……』
「はい。宜しくお願いします。……」
画面を隔て、互いの目が数秒交差する。
「……では、始めましょうか」
『……そうですね。ご指導宜しくお願いします』
そして何事もなく、身体強化のレクチャーが始まったのだった。




