19話
――佐藤の戦いはとても静かに行われていた。
あれから彼はほとんど動いていない。
風魔法の強みは半不可視の長距離攻撃。
練習の段階で、ならば天蓋の中から攻撃すればという案が出たが、そうすると何故か水も風も操作ができなくなる。
これは魔力操作が未熟なせいで、お互いの魔力が衝突することによって起きる現象なのだが、そのことに彼らが気付くのはまだ先である。
普段ひ弱そうに見える彼だが、誰も心配はしなかった。
天蓋に守られていなくても、佐藤は充分に戦えるのだ。
しかし今や、その顔には大量の脂汗が走っていた。
「すぅぅ~~~、ふぅ~~~――」
深く深呼吸をして、精神を集中させる。
ザシュッ「ギェッ」ザシュッ「ギュッ」ザシュッ「グッ」ザシュッ「グィッ」
狙った敵の首が半不可視の刃に切り裂かれ血を吹き出す。
途中までは風の塊をぶつけ敵を飛ばしていた。
しかしそれだと良くて気絶、悪いと再び向かってきてしまう。
大勢の敵に囲まれ、危機的状況へと追い込まれた集中力が、敵を殺すために最も合理的な魔力操作を可能にした。
それからはただ淡々と、眼鏡をかけたギロチンとして敵の命を刈り取っている。
彼の周りには夥しい血と死体が転がり、処刑された罪人の数は二十五を超えている。
断頭台は痛む頭に顔を顰め、次の罪人へと刃を伸ばした。
――ギョロリと赤い目を動かし、辺りの惨状を見渡した。
嘴で捕まえた一匹は丸呑みにし、右足で踏み潰した一匹を啄みがてら、左足の下で呻く一匹を爪で串刺しにする。
狩りは順調だ。
子供達も食事にありつけている。
ここら周辺の生物は弱くて助かる。
身を守る術を持つ者もいるみたいだが、時間の問題だろう。
――それらの元へ、子供達を向かわせた。
――しぶとい。
既に半数の子供達が殺されている。
逃げ惑う人間はもういない。
大方食い尽くし、残るは固まる集団だけ。
しかし、どうしても崩せない。
生意気にも奴らは死に物狂いで足掻き続けている。
これ以上大切な我が子達を殺されるわけにはいかない。
血に濡れた鉤爪が、その腰を持ち上げた。
風の刃。鎌鼬。呼び名は色々あれど、原理を深く考えてはダメですよ?
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