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Real~Beginning of the unreal〜  作者: 美味いもん食いてぇ
3章

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58話

 


 ――談笑しながら食事を終えた三人。

 そろそろ帰ると言う朧を、二人はベッドに寝っ転がりながら見送っていた。


「じゃあ帰ります」


「ん」


「気をつけてなー」


 お互いに淡白な挨拶を交わす。

 朧がさっさと窓から飛び降りようとした時、


「……なぁ朧」


「はい?」


 東条が彼を呼び止めた。


「俺が暇すぎて死にそうな時なら、鍛錬とか戦闘スタイル、一緒に見てやってもいいぜ」


「……どういう風の吹き回しですか?」


「いやなに、恩を売っとこうと思ってね」


 一瞬訝しんだ朧だったが、予てから自分が望んでいた事だ。素直に受け入れることにした。


「じゃあ早速ですけど、俺に足りないものは何ですか?」


「単純に魔力量とスタミナだな。今のままだったら、ミノ三兄弟に殴られたら一撃でミンチにされるな」


「……何をすれば?」


「そーだな。……とりあえずこれから毎日五時間、ぶっ通しで全力の身体強化を維持し続けろ」


「……嘘だろ」


「本当。別にやってもやらなくても自由だけど、まぁできたら連絡頂戴や」


「…………分かった」


 意を決したのか、そう言って朧は窓の外に姿を消した。


 聞いていたノエルが驚いた様に東条を見る。


「まさ変。熱でもある?」


「ねぇよ」


 それも当然。彼女の知る東条は、面倒なことを何よりも嫌う。とりわけモノを教えるなど、最も向いていないことだ。


 しかし東条はそんなノエルを気にした風もなく、天井を眺める。


「ただなー、分かっちまったんだよ俺ぁ」


 ずっと引っかかっていた、心の中のモヤモヤの正体。


 それは、



「あいつ、俺に似てるんだわ」



 鏡に映る自分自身であった。


「あれが?まさに?」


「厳密には、ノエルと出会う前の、佐藤さんや葵さん、凛さんに、紗命とも会う前の俺だな」


 自分一人で全てを敵にまわしていたあの頃に、朧はそっくりなのだ。


「親近感てやつ?」


「そんなところ。何かほっとけなくなった」


「ふーん」


 自分にこんな感情が湧いたことに驚きだが、言ってしまったのだからしょうがない。口に出した以上、きちんと考えてやりたい。


 一人で生きると突き進んでいた自分は、かけがえのない仲間を得て、仲間の温かさを知った。

 そして最後は、大切な者を失う冷たさを知った。


 自分に足りなかったものは明白。


 力だ。


 力があれば、個だろうが群だろうが、双方に道が開ける。


 朧がどちらの道に進むかは分からないが、あの時の自分を鍛えたらどうなるのか、単純に興味がわいてしまったのだ。



 楽しみが一つ増えた。


 東条は嘗て自分に課した鍛錬を記憶から掘り起こしながら、頬を緩めるのだった。




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