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Real~Beginning of the unreal〜  作者: 美味いもん食いてぇ
3章

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55話

 

 バッグから鍋とフライパン、その他諸々を取り出した後、二人してキッチンに並ぶ。


 巨大なワニ足にスパイスを練り込む朧が、中華鍋にドポドポと油を注ぐ東条を横目に見る。


(……何やってんだ、俺)


 強さを求めて遠出してきたのに、いつの間にやら弱みを握られ、今は少女の為に飯を作っている。


 本当に何をやっているのか。

 彼は無心でスパイスを掴み、肉をペチペチした。


 そんな時、


「朧はさ、何で身体強化とか、魔法の使い方仲間に教えないん?」


 沸騰を待つ東条が、椅子に座って彼を見た。


「……別に深い理由はないですね。教えたらあいつは迷わず広めるだろうし、そうしたら治安も崩れる。俺も好き勝手出来なくなる。

 そもそもあそこで過剰な戦力はいらないでしょ」


「死んでほしくない、とかないの?」


「……別にないですね。好きでも嫌いでもないし、そろそろ出ていくつもりだったんで」


「ふーん」


 朧がフライパンにオリーブオイルを垂らす。


「最初からあそこにいたの?」


「自衛隊に拾ってもらおうと渋谷から来ました。でも近づけないわ間に合わないわで、一人で生き延びてた時見つけましたね」


「じゃあ結構恩あんじゃねーの?」


「まぁ確かに強くなる為の拠点が手に入ったのはデカかったです。だから面倒臭い纏め役も引き受けたんですよ」


 朧がワニ肉をサイコロ状にカットしていく。


「モンスター狩に行った後、安全な家で休めるように利用してるってわけだ」


「そういうことですね」


「冷てー」


「あんたも似たような性格でしょ」


 朧は再度肉を揉む。


「毒島がお前のこと、血も涙もない、人間の命になんてカス程の興味もない人間だって言ってたよ」


「……あいつ」


 彼の額に青筋が浮かぶ。


「俺だって目の前に襲われてる人いたら助けますよ」


「ホントかよ」


「ホントだよ」


「勝てるか分からない相手だったら?」


「見捨てます」


「ほらー」


 ワニ肉がフライパンに落とされ良い音を立てる。


「……まさから見て、俺は強いですか?」


「強いね」


「池袋でも生きていけるくらい?」


「んだな」


「……」


「何だよ、予想通りってか?」


「はい」


「可愛くねーな」


 朧は蒸す為フライパンの蓋を閉じた。

 静かな空間に、パチパチという小さな音だけが響く。


「……まさは俺の友達なんですよね」


「そーだな」


「じゃあ戦い方教えてください」


「やだめんどくさい」


「クソが(ボソッ)」


 朧は悔しそうに手を洗う。


「何でそんなに強くなりてぇんだよ」


「……俺の指標だからです。

 モンスターが現れて、強制的に一人になって、俺は恐怖よりも開放感を感じました。

 だからまずは、強くなって一人で生き抜けるようになりたい」


「……肝が据わってらっしゃる」


 朧が蓋を開け、ひっくり返して再度蓋を閉じた。


「背中合わせられる仲間作ろうとか思わないの?」


「中途半端な仲間は足枷にしかならない。少なくともあの中に命を預けようと思える人間はいないですよ。

 まさとかノエルみたいなパートナーは希でしょ」


「……一人が一番、と」


「そうですね」


 東条は遠くを見る様な目で、朧を見つめる。


 心の内がモヤモヤする。何だろうこのモヤモヤは。恋だろうか。


 そんな事を考えていると、


「こっちはもうできますけど?」


 朧が沸騰しまくる油を顎で指す。


 完全に忘れていた、と東条は立ち上がり、エビの殻付き肉片を水でゆすぐ。


 そして、


「問題ない。これで完成するからな!」

「っ……」


 全部纏めて油にぶち込んだ。

 バチバチバチッと途轍もない音の後、プカプカと赤くなった身が浮いてくる。


「うし、」


「……素揚げは粉まぶすんですよ」


「……そんなん素揚げじゃねぇ。これが本物の素揚げだ」


「はあ」


 互いに皿に盛り、完成。


 なかなか良い感じだ。ワニのステーキなど、店で出してもいいくらいの香りを漂わせている。


 美しい盛り付けに、朧の性格が窺える。


「ノエルは食えりゃ何でも喜ぶからな」


「安い舌ですね」


「何言ってんだ、幸せな舌だよ」


 出来上がった料理を持ち、二人は腹ペコ少女の元へ向かうのだった。



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