表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Real~Beginning of the unreal〜  作者: 美味いもん食いてぇ
3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

185/1049

53話

 

 ――「捕まえた?」


「たぶん」


 依然生命反応が何も感じ取れない為、そこにいるかどうかも分からないのだ。


「死んでないよな?」


「……たぶん」


 組まれた手の上に移動した二人は、大きな指に耳をつけ中の音を聞こうとする。


 静まり返った内部に、幾許かの心配が湧き上がる。


「お、俺知らないからな」


「不可抗力」


「過剰暴力だよ」


 二人でワタワタと罪の擦り付け合いをしている、そんな時、突然足元が少し揺れた。


 よく聞けば、連続する重音が小さく響いている。


「……殴ってる」


「殴ってるな」


 自力で抜け出そうとしているのか、それなりの力でぶん殴っているのがよく分かる。


 どのような状況であれ、生存は確認できた。一安心だ。怪我してたら自己責任ということで。


 ノエルは小さな穴を空け、中を覗き込む。


「お前は包囲されている。姿を見せろ」


 するとすぐに一人の男が虚空から現れ、観念したように手を上げた。


「大人しくする、出してくれ」


 抵抗する気もない、と朧はひらひらと白旗を振った。




 二人はとりあえず通気性が良くなってしまった部屋を変え、床に転がるそれを見下ろす。


 何を隠そう、頑丈な蔦で簀巻きにされた朧である。


「初めまして、ではないか。まさです。動画投稿者をしています」


「ノエル。好きな食べ物はラーメン」


「……朧 正宗です。好きな食べ物は麻婆豆腐、です」


 突如始まった自己紹介。

 状況も相まって、朧の頭に疑問符が浮かぶ。

 まずは謝罪、次に命を要求されると思っていたのだが。


 兎にも角にも、と朧は簀巻きのまま正座になり、頭を下げた。


「勝手について来たりして、申し訳ありません」


「認めたぞ。ストーカーだ」


「警察警察」


「ちょ、待ってくれ、下さい!」


 クールな顔に汗を垂らし必死になる彼を、二人が冷めた目で見つめる。






 …………『はい、こちら警察。どうしました?』






「繋がってる⁉」


「ストーカーにあってる」


『相手が誰か分かりますか?』


「ちょっと‼お願いします!許してください‼」


「まさ」


「何で⁉」


 騒ぎ散らす男二人に呆れ、ノエルは電話をぶっちする。


「はぁ、取り乱しすぎ」


「何で⁉ねぇ何で⁉」


「はぁ、はぁ、助かった」


 詰め寄ってくる東条を無視し、彼女は朧を再び転がし踏みつけた。


「何で追ってきた?正直に言え」


 自分を見下す冷眼に、彼はびくりと固まる。


「と、飛んでいくお二人が見えたので、興味本位で後を追いました。戦い方を生で見たくて」


「何で姿を消した?」


「自分の力が、お二方に通用するか確かめたくて……」


 結果こうなってしまっているが、と朧は自嘲気味に床を見つめた。


 そんな彼を東条が笑う。


「まぁ、事実俺は全く気付かなかったしな」


「……正直、何でバレたのかが知りたいです。教えていただけませんか?」


 彼はノエルを見上げるが、ノエルはその頬をぐりぐりとスリッパで踏みつけた。


「立場を弁えろ。質問するのはノエル」


「ふ、ふぁい」


「……でも答えてあげる。

 その能力、頻繁に息継ぎが必要。だと思う。

 ノエル達と同じ道を通った上で、出たり消えたりしてたら、流石に気付く」


 朧は彼女の感知範囲の広さと、何より自分の能力の弱点まで当てられたことに瞠目した。


「百mも空いていたのにか……」


「ノエル達が、どんな場所で生活してたと思ってる。それくらい余裕」


 彼女の言葉に呆気にとられる朧は、東条に目を移す。お前もそうなのか、と。


「ん?俺?無理に決まってんだろ。こいつがヤベェだけだ」


 笑って否定する東条に、彼は一安心した。


 そして改めて理解する。自分が如何に能力に頼っていたかを。彼等との間に、どれだけの差があるのかを。


「……俺もまだまだだな」


 朧は澄んだ瞳に窓の外の青い空を映し、再び一から努力しようと決めた


 しかし、


「浸ってるとこ悪いけど、ノエルはお前を消すべきか悩んでる」


「っ……そこを何とか」


「お前の能力、危険すぎる。本気で隠れられたら、ノエルにも何もできない。闇討ち、暗殺、懸念が増える」


「そんなことしませんよ」


「お前がするかどうかじゃない。ノエルが気にするかどうかが問題」


「っ……」


 しごく冷めたその瞳が、雄弁に物語る。


 脅しや揺さぶりではない。彼女は本気で迷っているのだ。


 彼女は、人の死に躊躇いがない。


「ん。やっぱり殺そう」


「ま、待ってくれ、何か」


「ノエルの警戒のリソースを人間に裂きたくない。面倒臭い」


 面倒臭い、ただそれだけ。それだけで命を奪うには余りある。


 締め付けが強くなる蔦に、いよいよまずいと朧の額に玉の汗が浮かぶ。


 そんな時、


「落ち着けって」


 静観していた東条が立ち上がった。


「前も言ったろ。そう簡単に人を殺すもんじゃねぇって」


「でも」


「でもじゃありません」


「……むぅ」


 東条はノエルの脇に手を入れ、持ち上げてベッドに座らせる。


 次いで転がっている朧を椅子に座らせた。


「あ、ありがとうございます」


 冷静に努めようと息を吐く彼の肩を叩き、正面に座る。


(イケメンだしクールだし、何か虐めたくなるな……)


「実害無さそうだし、俺としては別にこのままバイバイでもいいんだけどさ。実際にこうして俺達をストーキングしてるだろ?


 動画投稿者としてはネタの横取り的な面でも怖いし、何より俺達は、プライベートを他人に侵害されるのが好かない。な?」


「はい……」


 自分の黒い顔を指さし、プライベートに気を使っている事を示す。


 なんたって相棒が大蛇なのだ。そんなこと絶対に知られてはならない。



「てことで仲裁案なんだが、お友達にならないか?」


 彼は黒い顔の下で、ニッコリと微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] モンスターよりよっぽど人の方が恐ろしいと思うけどな
[一言] 主人公甘すぎ。もう一回大事な人殺されなきゃわかんないかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ