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Real~Beginning of the unreal〜  作者: 美味いもん食いてぇ
2章

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37話

 

 ――「おー、あれか」


「(もむもむ)」


「ノエル、ちゃんと焼けているかい?お腹痛くなったりは」


「ん。うまし」


 東条は見えてきた大学の塀に感嘆し、ノエルは綿あめの串に突き刺した焼魚に舌鼓を打ち、新は自分の焼いた奇妙な魚の安全性を心配する。


「本当かい?……もし安全なら、大幅に食糧事情が改善するな」


 顎に手を当て考える新に、嶺二と胡桃が嫌な顔をする。


「食えるとして、食いたがる奴がいるとは思わねぇぞ」


「掃除機みたいな顔してました……」


 あーだこーだとガヤガヤ話し合っていると、遂に目の前に塀が迫ってきた。


 胡桃が手を翳すと、うにょん、と入口が開く。


 その先には、新の連絡で既に集まっていた大勢が、興奮したように五人の、主に二人の到着を待ち侘びていた。


「おぉ、大層なお出迎えだな」


「二人が来てくれるって連絡を入れたからね。結構君達のファンは多いんだよ」


 何だかむず痒いというか鬱陶しいというか、変な気分になる。

 隣のロリっ子は当然だと言わんばかりに胸を張っているが。


 三人に促され入口を通り、中に入った……瞬間、

 東条の目と一人の青年の目が交差した。


 向こうの彼も東条を見て、厳密には東条とノエルを見て目を見開いている。


(……へ~、ここで一番強いの新だと思ってたけど、そういう事でもないのね)


 不気味な漆黒に見つめられてか、彼は眼を逸らしてしまった。


「……まさ、あいつの魔力なんか変。薄い」


「分かってる」


 そんな二人に気付き、新が同じ方向に顔を向ける。


「凄いな。見ただけで分かるのか?」


「と言うと?」


「彼は朧 正宗(おぼろ まさむね)。俺達と同じ、ここを纏めてる一人だよ。もう一人いるんだけど、多分子供達と遊んでるね」


 五人で五百人を纏めているとは、何ともハードそうな職場だ。


「なるほど。で、これからどこ行くんだ?」


「そうだな、それを子供達に届けるついでに、彼女に会いに行こうか。その後は夕食だけど、食べるだろ?」


 新が綿あめを指さす。

 食事は自分達で用意するからいいっちゃいいのだが、食料事情を動画にすれば再生数が稼げると前に知った。

 初日くらいご馳走になっておこう。


「そんじゃ頂くよ」


「分かった」


 東条はちらほらと鳴るシャッター音を鬱陶しく思いながら、先を歩く三人についていった。


 

 ――ドアを開けると、大勢のちびっ子が元気良く各々の好きなことをしていた。


「ここら辺の教室には、幼稚園高学年から小学校低学年の子とその親御さんを集めてる」


「いちいち年齢ごとに分けてんのか?」


 崩れた場所もそれなりに散見できるが。


「いや、分けてるのは乳児とここくらいだね。他は大体同じ場所に集まってもらってる」


 なるほどいい考えだ。こんなのが毎日隣ではしゃぎ回っていたら、自分なら気が狂う。


(早くこの場から出たい)、と東条が考えていると、彼の持つ綿あめに気付いた子らがわらわらと寄ってきた。


「うわっ、顔くろ!」


「わたあめだ!」


「新にいちゃんこんばんは!」


「こんばんは~。この人が皆に綿あめくれるんだって」


「「「わー!」」」


 思ったよりも元気な子供の活気に当てられ、東条は一歩下がる。


 そこからはただ、迅速に、事務的に、機械的に綿あめを配る人形と化した。


 ――「はい。はい。はい。はい。はい。はい。――」


 子供の包囲網から抜け出した馬場は、新と話しながら東条を見る。


「彼等、あの動画投稿者だよね」


「はい。ちょうど此方に向かっているところだったんです」


「そりゃ運が良かった」


「まったくです」


 苦行を終わらせ、よっこらせと立ち上がった東条に、彼女は労いをかける。


「まささんって言うんだね。あたしは馬場 菫(ばば すみれ)ってんだ。礼を言うよ」


「いえいえ。お安い御用です」


「そうかい」


 馬場は一度東条から視線を外し、綿あめを分け合う彼等を見つめる。その目に映るのは、母の様な慈愛と、言い様のない憐憫。


「あの子達の中には、親を失った子や、トラウマを負った子が沢山いる」


「……」


 確かに、元気な子に隠れて、暗い目をした子供達が何人もいる。


「あたしはそんな子をほっとけなくてね、纏め役なんてめんどくさいことやってんのさ」


 二カっと笑う彼女に、東条は理解する。彼女は子供限定の纏め役なのだろう。誰も彼もを救いたいより、こちらの方が好感が持てる。


「子供は好きかい?」


 投げかけられる質問に、東条は自信を持って答えた。


「嫌いですね」


「なははっ、見てりゃ分かるよ」


 溌溂とした彼女の笑い声が、室内いっぱいに響いた。



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