36話
なんか21時になってたわ
何度目かの新の炎が大きめの爬虫類を焼き尽くし、嶺二の風を纏ったバットが小動物を叩き潰した。
現在地はあれから一・五㎞程進んで、大学まで残り約半分という所。
東条は綿あめの形が崩れない様に注意を払いながら、道中目にした光景を纏めていた。
まず一番驚いたのは、南に行くにつれ生態系が急激に変化していたことだ。
自分達がいた北側に比べ、樹型トレントの数も少なく、小さい。
反対に苔型や草型など、足元にわさわさしたものが多い。
これはノエルによると、モンスターは強い個体ほど豊潤な魔力を持っていて、死体にもそれは言える。
故にスカベンジャーの中でも大きい個体であるトレントは、より強い個体が多い場所に密集する性質があるのでは?とのことだ。
モンスターを殺して食っていた彼女の言葉だ。信用できる。
そうしてそこから導き出せることは……、
前方から何かが蒸発した音が響く。
東条が顔を向ければ、そこには部分的に溶解した大きな鼠と、手をつき出す新が立っていた。
因みに新は、炎と光の属性を操るダブルだ。希少なダブルという特性だけでなく、『光』という初めて見る属性に心底興奮した。
原理はよく分からないが、周囲の光を収束しているらしいし『光』で合っていると思う。
嶺二は風をバットに纏って戦う戦闘スタイル。高速回転させて敵を切り刻んだり、風の塊を飛ばしたりと、案外器用らしい。
似たような事をする豚をどこかで見た気がする。
姫野さんだが、彼女のcellを聞かされた時はその万能性に驚いた。
俗に言うアイテムボックス。
トラックに轢かれる奴らが総じて持っている便利能力だ。
加えて土魔法も使えるといったもんだから、コロニー維持には姫野さんの存在が不可欠なのが窺える。
そんな彼女は生物を傷つけることが出来ないため、今も自分とノエルの横で戦う彼等を見ている。
甘いとも思うが、補助として充分すぎる仕事をしているし、まぁ良いのではなかろうか。可愛いし。
話を戻すが、トレントの規模や大きさから言えること。
それは、皇居を境として、南と北ではモンスターの強さが異次元に違うという事だ。
東条は先ほど丸焼きにされたデカい鼠を見下ろす。
自分にとっては、今やいてもいなくても変わらないような存在が、この場所では『敵』として認知されているのだ。
聞けばこの鼠でさえ、食物連鎖の中位にいるレベルらしい。ワニや大蛇とかの類もいるらしいが、強さの程度など底が知れている。
そりゃあ身体強化を習得しなくても生き残れるわけだ。
加えて運の良い事に、彼等は過剰な程の戦闘力を有している。
自分に言わせれば、旧快人チームの方がよっぽど命がけのサバイバルをしてるってもんだ。
三人は自分の動画で人型モンスターの存在を知り、その強さと悍ましさに震えたと言う。先ずそこからなのだ。
「そろそろ奴等が寝床にしている近くを通ります。気を付けて下さい」
「「うぃー」」
だから人間同士で争うなんて暇なことが出来るのだろう。これに至っては新達に同情するが、やはりそれよりも前に呆れが来てしまう。
……しかしそんな感情も、目の前に広がる退廃的で神秘的な光景に呑まれてしまう。
「おぉ、こりゃスゲェな」
「ん。なかなか綺麗」
水に浸った、人工物と草花。
森に呑まれたビル群を旅してきた彼等にとって、その光景はまた新鮮で心惹かれるものであった。
興奮したノエルが裸足になり、インナーをたくし上げ水に入る。
水深は彼女の脛上程度、冷たさに慣れるとバシャバシャと魚を追いかけ始めた。
「ノエルさん!危ないモンスターもいるんですから!気を付けて下さい!」
「あははは。ちべた」
ノエル以外は水面から顔を出す瓦礫や丘を伝って先に進む。
その途中、
「ん?しょっぱい」
「え、……ってことは、海水かこれ」
東条が驚きに目を丸くする。
確かに、これほどの水量が留まるなど普通ではない。ここより南は、海面上昇など何らかの作用により浸水している確率が高い。
(何だ?氷山でも溶けたか?)
一夜で日本中に木が生えたのだから、それくらい有り得そうだが……。
考えてみて、
「……ま、どうでもいいか」
この世界でそんな気にすることでもなかった。
木も多くなって二酸化炭素削減にも繋がるだろうし、プラマイゼロだ。こいつ等が光合成を行っているかは知らないが。
「まさ見て!捕まえた!」
ビチビチと藻掻く、見たことのない変な魚を鷲掴みにするノエルに苦笑する。
「食ってみっか」
「食う!」
「「「……えぇ」」」
二パっ、と互いに笑い合う二人であった。




