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Real~Beginning of the unreal〜  作者: 美味いもん食いてぇ
2章

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26話

 


 ――瓦礫が多く危ない為、普段は立ち入りを禁止している区域にある校舎の一角。

 半壊した講義室に、五人の男女が集まっていた。


「さっきまた飯でトラブってたぜ?」


 机に胡坐をかく嶺二は、かったるそうに先の揉め事を報告する。


 檀上に立つ新はその報告を聞いた後、少し考えてから口を開いた。


「分かった。明日にでも遠征に出よう。メンバーはいつも通り、俺と嶺二、胡桃(くるみ)の三人で行く」


「分かりました!」


「……はいはい」


 嶺二ともう一人、それなりに広い講義室にも関わらず、新のド真ん前に座る女性が元気に返事をする。


 緩いカールがかかった髪、赤子の様なきめ細やかな肌を持つ、常に上品で優しい笑みを浮かべる彼女。


 胡桃を一度目にした者は口を揃えてこう例えるだろう。お嬢様、と。


「馬場さんと正宗(まさむね)は、戦闘員を纏めて皆を守ってくれ」


「あいよ」


 溌溂と返事をする女性は立ち上がり、伸びを一つ。

 その身長はかなり高く、百八十㎝はある。スタイル抜群の身体にはすらりとした美しい筋肉が付き、鼻上のそばかすがキュートである。


 そんな彼女ともう一人。


「分かった」


 ツーブロックと目元が隠れる程度に伸ばした黒髪、落ち着いた色の服を着た高校生。

 一見クールな彼も立ち上がり、さっさとと部屋を出て行こうとする。


 そんな彼を、新が呼び止めた。


「正宗、後で皆で配置確認するから、十五時に会議室に来てくれ」


「オーケー」


 ひらひらと手を振って扉を潜った彼を除いて、教室には四人が残る。


 正宗の淡白な態度はいつものこと。しかし今日も今日とて、それを受けた新の顔はみるみると悲しみに曇っていく。


「……ん~。結構長い間一緒にいるけど、まだ距離がある気がする」


「普通に一人が好きなんだろ。お前みたいな、皆大好きお友達精神の奴の方が希だからな?」


 嶺二は呆れ気味に現実を教えてやる。世の中、誰もが友達を欲しがっているわけではないのだ、と。

 しかし、


「だけど、そこが新さんの魅力だと思います!」


「有難う胡桃。俺は諦めない」


 すぐに胡桃にフォローされ、彼は理想の中に戻ってしまった。


 嶺二は再び溜息を吐く。


 二人の脳内がお花畑なことなど、二ヶ月前から知っている事だ。只々真っすぐで、悪を嫌い、好意を振りまき続ける。


 お花畑と言われても仕方ない性格の二人だが、そんな甘い考えを補って余りある人格と能力を持っている。


 現に彼等二人がいなければ、このお花畑を具現化した場所は出来ていないのだから。


 それを美徳だと分かっているからこそ、嶺二も強く言えないのだ。


「馬場さぁん、俺いつもこんなバカップルについてってるんすよ?仕事交代しません?」


「遠慮しとくよ。糖尿病になっちまう」


「酷い言い様だな……」


「バカップル……(ポっ)」


 自分のポジションに不満を漏らす嶺二を、馬場は快活に笑う。


 そして、ふ、と思い出したように新を見た。


「あぁ、そうだ。正宗だけど、あいつ普段からふらっといなくなること多いだろ?」


「……言われてみれば、確かに」


「この前見張りしてた中に、外で正宗っぽいの見たって奴がいてね」


「外って、壁の外で?」


「ああ」


 新は顎に手を当て訝しむ。

 壁には出入口が無い為、外に行くにはいちいち胡桃に開けて貰わなければならない。


 内側に彼女程の土魔法使いはいないし、魔力が繋がっているから外から干渉されれば即座に分かるはず。

 目を向けて確認するも、彼女は首を横に振る。


 正宗は確かにここの誰よりも身体能力が高いが、六mの垂直の壁など越えられるものだろうか?


 身体を動かしたいならグラウンドに行けばいいし、そもそも危険を冒して外に行く理由が分からない。


()()と繋がってたりしてな」


「……冗談でもそういうことは言わない方が良い。二ヶ月一緒に過ごした仲間だろ」


「わりぃわりぃ」


 顔を顰めて咎める新に、嶺二は手を上げて謝る。


 彼等の言う、奴等。それは大学付近に居座る、半グレやヤクザくずれのアウトロー集団の事だ。


 奴等は大した意味もなく大学内の避難民にちょっかいをかけては、不安や恐怖を煽る。


 他人の不幸を笑いものにする、新が最も嫌悪するタイプの人種だ。


 そんな奴等と正宗が繋がっているとは、彼には到底思えなかった。


「……でも分かった。一応彼の動向には俺が目を光らせておく」


 今まで何度もやってきた纏め役達の話し合いは、不穏な気配を残して終わった。




 時刻は十五時。


 校内放送で集められた、総勢三十人前後の戦闘職。

 年齢は十六から三十代程が多いか。やはりというか、男女比は男性に偏っている。


 各々が自分なりの武器を持って、仲のいい者同士で固まっている。


「明日、俺と胡桃、嶺二の三人で物資調達に出る。近辺は大方行き尽くしたし、奴等に荒らされてるから、表参道の辺りに行こうと思ってる」


「ヒュ~、デートには最高の場所だ」


 新の説明に、大柄な紫髪の男が茶々を入れる。彼の周りで小さな笑い声が起きた。


「情事に付き合わされる嶺二も大変だな。ハハハ」


「……黙れ毒島(ぶすじま)


 嶺二にギロリと睨まれた彼は、反省した様子もなく肩を竦める。


「続けていいか?……朝十時に出て、なるべく暗くなるまでには帰ってくるつもりだ。

 皆にはいつも通り、壁を越えてくるモンスターを駆除してほしい。守りを固める為に、全員に配置についてもらう。配置はこうだ――――」


 明日の作戦について、細かく説明していく彼であった。



 §


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― 新着の感想 ―
[一言] 頭の中花畑カップルどっちが死んでもおかしくないなこれ。女の方は死んだほうが良い目に遭うかもだし。森みたいに死亡フラグが立ってそう。
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