表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Real~Beginning of the unreal〜  作者: 美味いもん食いてぇ
第3巻 1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

152/1049

21話

 


 §



 ――冬の朝はよく冷える。


 まだ外は薄暗く、ゆるりと太陽が起き始める時間。


 誰かが(かじか)んだ手を擦り合わせ、「は~」、と温もりをはきかけた。


 折り畳まれたバスケットゴールが端に二対。

 壁に沿って置かれた数十台の暖房器具。

 ワックスがかけられた板張りの床は、所々が土に汚れている。


 控えめなざわめきが途絶えない屋内には、避難者用仮設テントが乱立していた。


 場所は、明海大学大体育館。

 現在五百人ほどが生活している明海大学内にて、百人あまりを収容している場所である。


 周りには、歩くのも覚束ない老齢の者から、よれよれのスーツを着たサラリーマン、気の弱そうな青年に、小学校高学年程の年齢まで、老若男女が見て取れる。


 皆痩せてはいるが、明暮食料不足の特区にしては随分とマシ。顔にも生気が宿っている。


 それだけで、ここでの暮らしが如何に安全か、安心かがよく分かる。


 彼等は自分の仕事が始まるその時間まで、再び目を閉じ、いつか帰れる日を夢に見るのだ。




 青年が一人、静かに廊下を歩いて行く。

 各教室で眠る仲間達を起こさないよう、配慮しながら。


 灰色のロングコートに茶色い革靴。装いからくる大人びた風体と、爽やかで端正な童顔が見事なほどに調和していた。


 一度横を通れば女性は振り返り、男は唾を吐く。そんな顔面偏差値上位者の彼は、階段を上り、屋上のドアに手を掛けた。


 錆びた音を上げるドアの向こう側で、一人の男が振り返る。


「どうした、見張り交代か?」


 ジャンパーにジーンズの青年が、持っていた金属バットを肩に乗せた。


「おはよう嶺二(れいじ)。目が覚めちゃってね、朝の空気を吸いに来たのさ」


 そう言って爽やかに笑う彼こそ、逃げ惑う民を纏め上げ、保護し、襲い来るモンスターを退け、この場所を作り上げたカリスマ。


 光明院(こうみょういん) (あらた)である。


 彼は塔の屋上から、大学内を見渡した。


 恋人に造ってもらった高さ六mの土壁が、敷地をぐるりと囲っている。


 内側には、北に体育館。東に男子塔、女子塔。


 男子塔には残りの一般市民と戦闘員が、女子塔にはプライベートを気にする女性が集まっている。


 南に連立して、幼児や乳児を連れた家族が避難している。

 やはりどれだけ優しい言葉を並べても、幼子が放つ騒音は人の心を削る。


 突然の悲劇に見舞われ、心が不安定な避難民なら尚更だ。

 彼等を別々に分けるのは、両者の為になると考えてのことだ。


 そして西にはグラウンド。今は鍛錬の場として使われている。


 今でこそ侵入してくるモンスターは減ったが、大学内の施設も全て無事とは言い難く、各所に戦いの痕跡が見て取れる。


 新はそんな傷痕を再度目に焼き付け、自らの守るべきものを再確認する。


 力を合わせて造り上げた安寧の地。

 若輩者の自分についてきてくれる仲間達。

 困った時に幾度となく助けてくれた友。

 今の自分には、守りたいものが沢山増えた。


 ……そしてそれを認識すると同時に、大切なものを脅かす敵も濃く浮かび上がる。


 新の目が、外壁の外に向けられた。



 コンクリートに覆われた地面には浅く水が張り、草花が所々に小さな丘を形成している。


 樹型のトレントの数は減り、キラキラと揺れる水面(みなも)の下には、錆びた道路標識や折れたトレントの残骸が沈む。


 藻類型は流れに身を任せ、苔型は瓦礫を鮮やかな緑で彩る。


 透き通る水の中で、小魚が数匹、横断歩道を渡っていった。



 人の営みが息を途絶える中、緑は唄い、青は囁き、朝月夜に東雲(しののめ)がたなびく。


 退廃的で、されど情緒的な、美しくも幻想的な世界。


 ……だがしかし、


 次の瞬間小魚は長い舌に絡めとられ、巨大な両生類の腹に収まった。



 美しさに安全は関与しない。どこまで行こうと、世界は強者の為にある。


 樹の上。水の中。丘の上で日向ぼっこ。

 水生に適応したモンスターの数々が、獲物を日夜狙っている。



 §


今日ピザ食お

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] これは893の皆さんが嫌うタイプですね、名前の時点で地雷臭がプンプンしやがる。マサとノエルに喧嘩売って避難所が悲惨なことになる未来が見える見える……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ