19話
――二人は用意された浴衣を羽織り、豪勢な食事を和気藹々と食べた後、今は案内された部屋でふかふかのソファに横になり寛いでいる。
契約はノエルにより無事結ばれた。
利益の譲渡は却下。
与える資源、情報や素材で勝手に利益を上げろと一蹴した。
流石ノエル。
藜組は工場を幾つも所有しているらしく、モンスターを使った製品の開発を試してみたいという話だ。
流石に武器防具の類を作れる工場は無いと思うが、危ないことはしないで貰いたいものだ。
とりあえずインフラが死んでいる山手線内では渡すのも一苦労なため、素材の換金はこの場所から出た後、本格的に開始する予定である。
それまでは目ぼしい物だけ拾ってくれればいいとの事だ。
それはともかくとして、
「国から話来てるって何よ?俺知らんかったぞ」
彼女が言っていた口座の件。自分の知らないところで何が進んでいるのか気になる。
「今後の為に情報くれってメール来た。とりあえず口座作れって言っといた」
「お、おう」
お偉いさんもさぞ彼女の好き勝手具合に悩まされている事だろう。
ノエルが眠そうに枕を抱きしめる。
「詳しいことは電話するーて言ってた。明日くらいにかかってくると思う」
「おけー」
毛布を掴み、ノエルに被せる。
「……そういえば、感情が見えるとか何処にいるか分かるとか、あれ本当?」
「全部嘘。ふぁ~」
……まったくこいつは。
ヤクザ相手にパチこける少女なんて、世界中探してどれだけいるか。
東条はもぞもぞと毛布を被る彼女に苦笑する。
今日一番の功労者は、間違いなく彼女だ。
「……お疲れさん」
静かに寝息を立てる彼女をそっと漆黒で包み、彼は浅く目を閉じた。
§
「それで?まさはどうだった、合格か?」
夜の月明かりが差し込む執務室にて、三人は静かに酒を煽っていた。
色っぽい唇をグラスから外し、紅が藜に尋ねる。
「……今まで沢山の人を見てきたけど、あれ程親近感が湧いたのは始めてだよ。
とてもいい目をしていた。もう俺は彼と親友になりたい」
「そんなにかい」
興奮する藜に紅も目を丸くする。
長年共にいる彼女とて、彼がここまで反応するのを見たことがない。
「あ奴の身体、俺ら以上の傷ものだった。
……ボスが気に入ったってことは、親か、友か、恋人か、つまりそういう事だろ」
笠羅祇がウイスキーを煽り、理解の目を宵闇に向ける。
「あの年で別れを知ってるのかい。……酷な世の中になったね」
「はっ。世界を見りゃそんなガキ溢れかえってる。誰しもが平等になっただけさ」
紅の言葉を笠羅祇が鼻で笑う。
世界を回り、現実を目にしてきた彼だから言えることだ。
しかし藜は、そんなものではないと首を振る。
「……あの目は、そんな生温い色じゃなかった。絶望して、絶望して、それでも抗い続けた先にある色だ」
藜は思う。――自分と同じだ。
藜は感じる。――初めての共感を。
「……とても、綺麗だった」
彼が風呂で見た東条の目は、纏いつく漆黒の様にドス黒かった。
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