11話
――「まさかお二人が発電所に向かおうとしていたとは、驚きでした」
「私も藜組の方々がそこを守っているとは思いませんでしたよ」
皇居前発電所は、皇居に隣接する最新型ソーラーパネルを設備した超大型発電所である。
山手線範囲内を賄えるだけの電力を、この場所だけで供給している。
現代人の一人として、それ以上に、この中でサバイバルを生き残った者として、電気の存在が途轍もない助けになったのは言うまでもない。
勿論この場所に来るまでに、断線し暗闇に呑まれた場所は幾度も見た。
トレントの枝葉がうまい具合に電線と接触せず、電気が東条の元まで届いたのは運によるものだ。
一部を除き、モンスターが公共施設に興味を示すことが無かったのも大きい。
しかしもしこの場所を守っている人間がいるのなら、自分は必ず礼を言うべきだ。
東条は予てから、その思いをずっと胸に抱いていた。
「そこはその方がお一人で?」
「そうですね。戦闘は姉御、幹部がほぼ一人で請け負っていますね。というよりも、私達下の者では彼女の邪魔になりますから」
康は彼女の恐ろしさを思い出し、カラカラと笑う。
本部が別にあるとすると、その女性は一人でライフラインを任されていることになる。
察するに、相当の実力者なのだろう。
「いったいどんな力を使うのか、とても気になりますね」
「はははっ。流石にカメラの前では、それも私の口から言うのは憚られますね」
「それもそうですね。申し訳ない」
――三人で雑談を交わしながら、西に向かってひた進む。
「そういえば平塚さんも、よく私を見つけられましたね。迷わずこちらに向かわれてたようですし」
「いえいえ、偶然ですよ。あれだけ大きな音を立てれば、誰でも気になりますって」
「ハハハ、確かにはしゃぎ過ぎました。……平塚さんはよくここの見張りを?」
「……えぇ。怖い上司に無理矢理、ですかね」
康はやれやれと言ったジェスチャーをつけ、笑顔で答える。
「それにしてはモンスターから全力で逃げていましたけど、いつものことなんですか?」
「まさか。私は遠くから、発電所に近づくモンスターがいないか見る役目です。これで」
そう言いポケットから出したのは、市販の双眼鏡。
「……組織って大変なんですね」
「まったくですよ」
警戒するのもめんどくさくなってきた東条は、元より自分の柄ではない、と探りを入れるのを止めた。




