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Real~Beginning of the unreal〜  作者: 美味いもん食いてぇ
第3巻 1章

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8話

 


 §





「…………ははっ。……ぅえ、ぅぼぇっ……ふぅ、ふぅ……」


 一連の戦闘を木の上から直視していた男は、衝突する埒外の魔力と殺気に晒され、落下した後胃の中の物をぶちまけていた。


 彼女の質量を持った圧力に耐えられる生物は、キュクロプスと東条を除いてこの庭園の中にはいない。


 異様な程の静けさが辺りを包んでいる。

 生きとし生けるものが、息を殺し、命を潜めている。


「ぅっ、おぶぇっ……」


 男は一凛の薔薇を思い出し、又も()()く。

 色々な死に目や死体を見てきたが、あれ程悪意に満ち、害意極まりない殺し方は初めて見た。

 そしてそれを行ったのが、(いたい)()な少女だという事も悍ましさに拍車をかけている。


 何より、その横で笑顔で談笑している彼等が、怖くて、恐くて、仕方がない。


 男は震える手で携帯を取り出し、今日何度目かの番号にかける。


『デカい音したけど、何かあったか?……おい……泣いてんのかお前?』


「もぅ怖いです。帰っていいですか?」


 涙ながらに訴えるも、


『何情けないこと言ってんだ。報告』


「うぅ、はい」


 聞き入れられることはない。


「あの二人、キュクロプスを殺しました」


 携帯の奥から、少しだけ驚いた雰囲気が漏れた。


『……あの単眼の化物か。それはまた凄いな』


「凄いとか言うレベルじゃないですってっ。この数時間で、俺がここにいる理由無くなりましたからね」


『喜ばしいことだな』


「……まぁ、そうですけど」


 良い方に捉えれば確かに、自分は今日を以てこの危険な仕事を引退できるだろう。


『で?どっちが殺ったんだ?二人でか?』


「……少女です。それも、五分とかかっていません」


『ハハっ』


「……笑い事じゃないですって。何なんですかあの二人、魔王か死神の類ですよ絶対」


 男は、(見ていないから笑えるんだ)、と心の中で一人ごちる。


『そうだ。仕事の無くなったお前に新しい任務をやる』


「な、なんですか」


『その二人をここに連れてこい』


「俺の話聞いてました⁉」


 予想外の任務内容に、身体中から冷汗が噴き出る。


『うるせぇな。さっきボスが帰ってきた。会いたいって言ってんだよ』


「嫌ですよ!殺されちゃいますよ!」


『……私がそこまで行って殺してやろうか?』


 ドスの効いた声に、男の身体がビクりと固まる。慣れ親しんだ恐怖。

 しかし先のものと比べれば、心地良ささえ感じる。自分が自分である限り、彼等の指示に背くことなど有り得ないのだ。


「……お母さんに有難うって言っといてください」


 覚悟を決めた男は、綺麗な瞳で空を見上げた。


『やだよめんどくせぇ』


「最後の頼みくらい聞いて下さいよ!」


『うるせぇ奴だなぁ。ったく、あの二人はお前が思ってるような殺戮狂じゃないよ』


「やっぱり知ってたんですか!誰なんですか?」


『動画配信者だよ。(ちまた)じゃちょっとした有名人なんだと』


「は、配信者?……あ、だからカメラ」


『さっきから私も見てるけど、中々面白いぞ。ボスが会いたがるのも分かる』


 この魔境を?娯楽の為に?

 男の脳裏に、楽しそうな二人の姿が蘇る。


(あぁなるほど、狂ってるのか!)


 現実逃避と理解の狭間で、男は納得した。


『とりあえずさっさと連れてこい。私が車で送ってくから場所はここでいい』


「はははっ、分かりました」


『死んだら言えよ。他の奴送るから』


「はははっ、死んだら言えませんよ。だって死んでるんだもの!はははっ」


『……キモイな」


 一方的に切られた電話をしまい、清々しい笑みで歩き始める。狂ってる人間を相手にするなら、自分も狂ってしまえばいいのだ。


 涙が零れそうになるのを必死に堪え、男は過去一番危険な任務に向かうのであった。




(泣きたいっ)





 §


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