5話
――「ふぅ」
「できたか?」
「ん。そっちは?」
「完璧」
ノエルは立ち上がり、土の棒で串刺しにしたコカトリス、だったものを肩に担いだ。
首と尻尾を落とし、逆さに吊るし、羽を毟り、内臓を取り除く。初めての下処理ではあったが、上手くできたのではないだろうか。
その証拠に、見た目はよく見る食用の鶏だ。サイズ感がおかしいだけの……。
「よいしょ」
ドスン、と支えに置かれ、東条が用意した巨大な焚き火の上に掲げられる。
チャッカマンでトレントに火をつけるのは、中々骨の折れる作業だったのだろう。
黒い顔に慣れた今、ノエルには漆黒の上からでも精神的な疲労が見て取れる。
しかし準備は終わった。あとは回しながら待つだけだ。
「どれくらいかなー?」
「結構かかるだろ。火力もまああるし、気長に待とうや」
「ん~」
ぐるぐるぐるぐる――
「まさの黒いので回せないの?」
「無理無理。持ち上げる、とか握る、とか、簡単な操作しかできないのよ」
「ん~」
ぐるぐるぐるぐる――
「こ~たい~~」
「まだ五分だぞ。……たくっ」
寝っ転がってブローチを弄っていた東条は立ち上がり、駄々をこねるノエルと場所を交代する。
あと何分かかるのか……。腹の虫を聞きながら、彼は獣の唸り声をBGMに作業に入った。
ぐるぐるぐるぐる二十分後――
「……モンスター襲ってこないな」
「あれだけ殺せば身の程を知る」
「それもそうか」
パチパチと油の弾ける音を聞きながら、漂ってくる香ばしい香りに二人の涎が湧き出る。
鼻が良く、且つ彼等に襲い掛かるような怖いもの知らずのモンスターが、この香りに引き付けられないわけがない。
しかし準備から今まで、唸り声を上げるだけで一向に飛び掛かってこない。なぜか、
理由は然して単純。
二人の周りを、無造作に積み重ねられた死体が円状に囲っているからだ。
引き裂かれ、撲殺され、原形を留めていない同胞の死体が、壁となり生き残ったモノを阻んでいた。
要するに、見せしめである。
貴様らも近寄ればこうなる、という、弱者への警告。
三大欲求という本能を上回るだけの、恐怖という本能を、新たに刻み込んだのだ。
「おなかすいた~~」
「うん。そろそろ、できたかなっ」
死体から溢れる膨大な血に囲まれ、濃厚な鉄臭さの中、食事に笑顔を向ける彼等は、はなから常人の感性など持ち得ていない。
「上手に焼けましたー!」
「たー!」
煌めく黄金の油が滴る巨肉を、天に掲げ東条は叫ぶ。一度はやってみたかった、狩猟者の夢である。
「はやくはやくっ」
キラキラと目を輝かせ飛び跳ねるノエル。
「おし、かぶりつけ!」
「やった!」
大口を開けジャンプし、
直後、
「あばふっ」「うおっ」
突如真下から土柱が生え、ノエルは顎を強制的に閉じられ吹っ飛び、東条は飛び退き肉を守った。




