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Real~Beginning of the unreal〜  作者: 美味いもん食いてぇ
終章

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124/1049

48話

 


 ――「どうするよ?今日中にドーム行っちゃう?」


 落陽の光を反射し、淡いオレンジ色に輝く小雨の中を、二人は南に向かって進む。


 今から走れば、陽が落ちるまでには到着できるが。


「ん~疲れた~」


「主に精神的にな」


「おんぶして」


「振り落としてから引き摺り回して良いなら喜んで」


「ぶー」


 駄々をこねるノエルを断固拒否し、飛び乗ってこようとする彼女を幾度となく叩き落とす。


 ここで甘やかしてしまっては碌なモンスターにならない。


 彼女の為を思った愛の鞭なのである。

 決して怠い、めんどくさい等とは思っていない。


「……ドームに温泉ある?」


「ん?あるぞ。めっちゃいい感じの所」


「スーパー?」


「スーパーだ。この前の所よりデカいぞ」


「おー」


 途端に輝きだすノエルの瞳。

 先日の体験で風呂の良さを知ってしまったか。


 スーパー銭湯を所望する辺り自分と似てきているが、良い傾向ではある。


「どうする?」


「競争しよ」


 カメラをしまい、リュックの紐を閉めるノエルが、全身に魔力を漲らせる。


「いいね。荷物よこし、ハンデだ」


「……舐めてると痛い目見る」


 そう言いつつも素直にリュックを渡す彼女。


 きちんと自分と東条の力量を把握してる証拠だ。


「っし。スタートはもう少し行った辺りな。多分ベっさん今帝大だろ」


「ん。わかた」


 先程通ってきた帝大周辺には薄く霧がかかり、見る限りここよりも雨脚が強い。


 雨の降り方に規則性は無いように思えるが、ベヒモスが雨や霧と共に移動している事だけは確かだ。


 帝大には大量のトレントが生えていた。大方飯を求めて歩いているのだろう。

 何をするにしても、なるべく離れておきたいのが本音だ。


 彼等は身体を(ほぐ)しながら、スタート位置まで南下した。




 ――現在地から西に向かって一直線に駆ければ、丁度ドームに当たる。


「cellは禁止。怪我しない様に安全第一で」


「おけ」


 両手を付き、クラウチングの姿勢を作る。


「号令よろしく」


「……よーい」


 最高練度で練り上げられた魔力は、自らの力を誇示しない。


 風一つ起きない空間にはしかし、近寄りがたい静かな覇気が、……二つ。


「ドンッ」「――ッ」


 瞬間、同時に蹴り抜かれた地面が(えぐ)り飛んだ。


「――ははっ」


「だはははははッ――」


 徒競走なんていつぶりだろうか。


 風よりも速く風を切る感覚に、腹の底から笑いが漏れてくる。

 たまには何も考えずに身体を動かすのも、気持ちいいものだ!


 途轍もない速度で木々を縫い、枝を飛び越えていく二人。


 障害物が多いせいで、トップギアを出せないことが歯痒い。


 ノエルは小さい身体を生かし、するりするりと抜けていく。


 対する東条はそれなりの身長に加え、バカデカいリュックを背負っている。

 小さめのトレントや蔦状のトレントは、へし折り引き千切り駆けていた。


(クソっ、ハンデなんてつけなきゃよかった!)


 などと心の中で愚痴を吐くも、そうも言っていられない。


 視界に入る東京ドーム。

 施設内に入ればその時点で決着だ。


 そして最悪なことに、


「――っな」


「勝った!」


 東条の前に広がる、渋滞した車と木のバリケード。


 反対車線を走るノエルの前には何もない。



 勝負は見えた。



 ……そんなことを考えているだろうあの小娘に、一泡吹かせてやろうじゃないの‼


「邪魔だゴルァアッッ‼」


「わっ⁉あははははっ」


 態勢を低くし加速する東条は、真正面から衝突。


 全てを蹴散らし、破壊し、暴走したダンプカーの如く突き進む。


 常軌を逸した脳筋さと、車が空を飛ぶ荒唐無稽な光景に、堪らずノエルも吹き出してしまった。


「――ッおっらゴールゥゥゥ‼」


「――っあははっ、負けたー!」


 勢い余って店舗とアトラクションを破壊し、盛大なブレーキ痕を残しガッツポーズする。


 そんな彼の胸に、一瞬遅れてノエルが飛び込んだ。


「結構楽しかったな」


「ん。またやろっ」


「障害物がない場所でな。……頭痛くねぇか?」


「ん。全力じゃないし。余裕」


「言うねぇ」


 ……自分ははっちゃけすぎて少し痛かったりするのだが、言わないでおこう。


 上機嫌で目当てのスーパー銭湯に向かう二人。


 そんな彼等を優しく照らす落陽は、先ほどと殆ど位置が変わっていない。


 それもそのはず。



 彼等は約一・五㎞の距離を、一分以内で爆走したのだから。



 ――「「たのもー!」」


 風呂の扉を勢いよく開け、いるであろう先客に挨拶する。


「「「きゅあ!」」」


 昨日ぶりの愛らしい小動物は、尻尾を上げ彼等を快く歓迎した。


え、電話来ないんだけど……。まさかまたバイト落ちた?俺そんなに社会不適合者?

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― 新着の感想 ―
[一言] 僕もこの夏休みにバイト始めようと思いましたが2回連続で落ちましたよ
[一言] 美味いもん食いてぇ。 貴方は今、順調に神への道程を歩いているのです。って、バイトの話だった!!就職じゃなかった!!お祈りされてなかった!! ......貴方は今、順調にベストセラー作家の道程…
[良い点] 楽しく読ませてもらってます。 彼女とかできたのちに全滅した後はどうなることかと思いましたけど。。。。。 かわいい魔物が気になる(笑) [一言] バイトドンマイです。 自分もなかなかバイト…
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