99話 代わりなんていくらでもいるから
ヒイラギが小学生時代にやったイタズラは主なものとして、先生の給食に下剤を入れる、教室に大量のセミを放つ、銅像を爆竹で爆破しようとする、犬の糞混じりの砂を撒いて同級生を失明させかける、などがあります。
国立公園にもうすぐ到着するって時に、目の前でオレンジ色の爆発が起きた。
かなり高温なのだろう。初めは白色が膨張してすぐに明るいオレンジになって、黒煙と火が立ち上った。
数秒の後に、顔面に熱風が叩きつけられる。
「あっつ!……これ、爆発魔法じゃない。魔力じゃなくて物が燃えてる感じがするもの」
「ってことは、爆発チートの持ち主がいるってことか」
セーレの勘が正しいなら、2人のビートル人のどちらかが爆弾でもぶん投げるチートの持ち主ってことだ。
煙が晴れて、炎の間を右往左往する兵士たちが見えてくる。
かなりの数がいたみたいだけど、これじゃあ烏合の衆だ。
「メッチャやられてるぅ。飛ばすよ」
その惨状を見たヒータンがグッとスピードを上げる。
「破壊が目的か?戦略が見えねえな」
「うぅ~、ひどい!ひどいよ!ニコ!!なんとかしよ!!!」
「えぇ……ヒータンさん、火災の真上で待機してください」
あまりのひどさに目じりに少し涙をためたアキナが立ち上がる。
さすがの運動神経、ヒータンの背中の上でもバランスを崩さない。
ニコはあくまで表情は冷静に消化の戦略を組み立てる。
そしてそれはすでに終わっていた。
「ユキノさん。手を貸してください」
「いいけど……うっ!」
「はいありがとうございます。この鉄球に思いっきり水魔法を込めて下に投げてください」
何も考えず手を出したらびっくりするくらい魔力を取られた。
大量の魔力と水魔法と鉄球。
水花火か。
「流石ニコだな。その作戦で絶対大丈夫だ。んで、傷ついた兵士の回復はセーレとヒータンに任せた」
「おっけー!半径数百メートル一斉回復魔法ね!」
「ユキノさんはどうするんですか?」
「俺は真っ直ぐビートル人をぶん殴る」
俺たちが飛来したこと、向こうにはもう気づかれている。
後ろはみんなに預けて、俺は後先考えずにヒータンの背中から跳びだした。
距離にして数百メートル。
ヒータンに苦情もらわない程度の踏み込みじゃ、絶対に足りない。
だからヒーローの真似するしかない。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「うぇーーーい!!なんと……異世界人を全部燃やしてやりましたああああ!」
「いぇーい」
ヒイラギがスマホカメラに向かって絶叫する。
それに応えてシスウは小さな歓声と指笛を添える。
「お、気が利くじゃん。効果音あるとそれっぽくなるから。欲を言うとテロップも入れたいけど」
さらにヒイラギは燃える火を長く映すように指示した。
シスウは言われた通り、視界に広がる炎を左から右へとカメラに収め、その間を逃げ惑う兵士たちの悲鳴も録音する。
「お前、何でも言われたとおりにやるんだな」
「え?まあ、俺別にやりたいこととかないから。指示がある方が楽なんだよね」
シスウは現代日本にいた頃、主体性がないと指摘されていた。
親や周りが勧めるから大学に行くつもりだったし、第一志望もA判定が出たところから適当に選んだ。
将来の夢は、中学まではサッカー選手だった。
理由はそれがクラスで一番の多数派だったから。
高校生になってからは公務員を目指すことにした。
理由は同じだった。
流行っている女優を見てアニメを見て音楽を聞いて、その時人気のタレントの格好を真似していたらそれなりのスクールカーストに納まることができたが。
シスウはそれら一切をどれだけ摂取しようと、心が突き動かされ感動することなどなかった。
「ふうん。ムカつかねえの?俺とかラクはそう言うのムカつくんだけど」
「体力の無駄じゃん。それに今となっちゃ意思なんてなくてよかったと思ってる。分身みんなに自由意志があると収拾がつかなくなるから」
ヒイラギの撮影係を残してシスウたちは分散して反乱軍たちを相手にしている。
すると撮影係からまた一人が分身して、炎の方に向かって行った。
「誰かが分身しようと思ったみたい。これで512人。あまり増えすぎても身動きが取れなくなるんだけど……ん?」
スマホのカメラをズームしてみて、上空に浮かぶ影がドラゴンだと気付いた。
いつの間にか飛来してきて、火災の上で滞空している。
誰か上に乗っているようだ。
「ヒイラギ。ドラゴンが飛んできた」
「よっしゃー!激レア映像じゃん!100万再生いったなこれ!」
ヒイラギが動画の出来しか考えていない間に。
ドラゴンの上の人物が、何か黒い球体を投擲した。
それはすさまじい威力で落下して、中空で破裂。
飛び出したのは四方八方への滂沱。
大量の水が重力にしたがって、あっという間にゲリラ豪雨になった。
「はあああああ!?!?!?なにしてんだよ!止めろよ!!火が消えんじゃねえかよ!!」
「そら異世界人なら消すだろ」
「チッ!そのどっちにも肩入れしない物言い、ムカつくんだよ!!」
「ってか、ちょっと待て!もう一人、飛んでる……」
ゲリラ豪雨に気を取られて、その上を跳び越えてくる人影に気が付かなかったヒイラギとシスウ。
「飛んでるって、人間で空を飛ぶなんてアシハラさん以外不可能だ!あり得ねえ!!」
「いやじゃあ、あいつは何なんだよ!?」
「……魔力障壁だ……!あいつ空気を蹴ってやがる!!」
そいつは魔力障壁を足の裏に展開して、その反発力で空に浮いていた。
つまり飛ぶのではなく空気を蹴って跳んでいた。
「おいバカ!!ぼさっとしてんじゃねえ!!逃げるぞ!ここにいたら的だ!」
その人影は最後に両足で空を蹴った後、重力の加速を味方につけて2人に向かって直滑降。
地面に激突するなんてこと考えてない速度で突っ込んできた。
「いや、もう遅い。しっかり録画しておくんだな」
命の危機が迫っているというのに、まるでそんなことどうでもいいかのごとくシスウはヒイラギにスマホを返して。
スーパーマンみたいに飛んできたユキノに潰された。
いかがでしたか。
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私たまたま来ただけですねんという方は、また気が向いたら読みに来てください




