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96話 世界島のとある片隅で

―ビートルバム 名もなき町―


 世界島の内陸に存在する名もなき町。

 現代日本で言うと道の駅がありそうなレベルの田舎町。


 そんな町の全てが静止していた。

 

 歩いているおじさんは片足を上げた状態で。

 コップに水を注ぐお姉さんはウォーターピッチャーを傾けた状態で、さらに注がれる水も止まっている。


 凍結しているのではない。

 カジマがとてつもないスピードで走っているために周りが止まっているように見えるのだ。

 ただ走っているのではない。

 アシハラから逃げている。

 ビートルバムを脱退して以来ずっとだが、カジマもただ逃げているのではない。


 超高速で人の間を走り抜けながらカジマはタオユエンで見た光景のことを思い出す。

 

 少し寄り道のつもりで、ルナたちの闘いを見ていた。

 だが、突如やってきたユキノたちが形勢を逆転させた。


 リヴァイアサンを仲間にしたことも驚いたが、なによりカジマを驚かせたのはアキヅキの凶行だった。

 ミリゥの降らせた豪雨の中で成し遂げられた完全犯罪かと思われたが、唯一カジマが目撃していた。


「あの能力……身体変工……いやもっと恐ろしいものの片鱗だ」


 アキヅキがイタミという人間をリセットして全くの別人へと変貌させたこと。

 そして、全くの別人の死体をイタミに変えたこと。

 今思い出しても、冷や汗が出る。


「いったいやつの目的は何なのか。そして、またアシハラが追って来ないね」


 以前フジオウがトールを殺してビートルバムを脱退した時。

 そして、凍ったユンクァンがビートルバムに墜落した時。

 どちらの時もアシハラは対応するためにカジマとの追いかけっこを中止して宮殿に帰ったことがあった。

 おそらくそれと同じ理由。


「今度は何をやっちゃいましたのかね。ありがたく、俺も休憩させていただきますか」


 音速を超える万引きでバゲットサンドをただでゲットし、長い長い減速を経て村の外れにある丘で昼食を取ることにした。


「ユキノが来てからビートルバムが忙しいなって、俺は暇な時間ができてうれしいよ」


 ヤマナミがもうすぐ目を覚まし、フジオウがBランクに昇格する。そしてユキノはミリゥに桃を投げていたのと同じ日。

 世界島の片隅で、カジマはお日様に当たりながらランチタイムを楽しんでいた。


「珍しいね。君が座っているなんて」

「……うぇい、お疲れ。長い会議だったな」

 

 いつの間にか目の前に現れていたアシハラに驚くこともなく、カジマは平然としている。

 バゲットを食べている途中にふと顔を上げたら、そこにすでにアシハラは立っていた。

 相変わらずの全身白の格好。

怒っているのか悲しんでいるのかわからない仏のような表情。

 アシハラがカジマを見下ろしていた。


「ビートルバムから飛んできたんだろ、まあ座れよ。俺は立つから」

「自分が脱退の落とし前をつけさせられるってこと、忘れてるのかな」


 持っていた食べかけのバゲットがアシハラの手に移動している。

 気づいた時にはもう遅い。それがアシハラのチートだ。


 内心、カジマは緊張していた。

 ビートルバムが何をしているのかを聞き出すためにアシハラを待ち構えていたが、油断すれば即仕留められる。


 何せ相手は、正真正銘の時間停止能力者なんだから。


「きみに聞きたいことがあるように、僕にも聞きたいことがある」

「……急いでないから聞こう」

「ユンクァンは僕に、ユキノの手足を切り落としたと言った」

「あいつのチートは【ヒーリングファクター】。欠損だって治るさ」


 ビートルバムに突き刺さったユンクァンは生きていたらしい。ということは、自分がユキノを助けてユンクァンを倒したことをアシハラは知っている。

 俺がエリクサーまで持っていて、かつそれでユキノを助けたことまで知られると完全に敵認定される。

 そう推測したカジマは、【ヒーリングファクター】を理由にして追及を避けた。


「そうかもしれないね。それだけ強くなったなら、タオユエンでの暴れっぷりも納得できる」


「……ルナが負けたんだってな」

「……最近、ビートルバムも跳ねっかえりが多くて困るよ」


 ユキノを手助けしたことをあっさり了承したうえでの返事だったので、アシハラは考えた。

 カジマにはもっと隠したいことがある、と。

 それで試しにタオユエンを話題に出してみた。

 ルナが負けたことくらい耳が速いカジマなら知っていて当然だ。


 ……最近ビートルバムに反旗をひるがえすやつらと新たな接触があったのか。

 カジマが自分からどんな情報を引き出したいのか考える必要がある。


「そうは言っても、俺とユキノとフジオウの3人だろ」

「……そうだね」


 アシハラが肯定した瞬間、カジマの表情がピクッと動いた。

 カジマも自覚して抑えようとしたが隠しきれなかった。


「いったい、何を知っているのかな?」

「……お前が知っていることと同じ」


 アシハラはアキヅキの動向を把握していない、とカジマは結論した。

 このまま静観して自分の目標に集中することにした。

 一方のアシハラは居心地が悪い。

 素直に言わないのはビートルバムに不利益な情報である証左だ。

 

 アシハラは考える。

 ユキノ、ファクトリー、タオユエン、カクラとロンド……。

 

「……アキヅキ?」

「ご明察」


 次の瞬間。

 

 少し離れた森の木々が直線数百メートルにわたってなぎ倒された。

 もうもうと立ち上る土煙が晴れた後に表れたのは。

 アシハラのボディーブローを足の裏で止めているカジマ。


「足が、速くなったね……」

「5秒07……あとコンマ03成長されてたらヤバかったな……」


 アシハラが時間停止能力を使うことを予期して、カジマはすぐさま超速スピードで走って逃げた。

 アキヅキの危険性に気づいていない以上アシハラと会話しても自分のプラスにはならない。

 だからもう終わってもよかった。


 計算外だったのは、アシハラの時間停止能力が成長していたこと。

 最後に食らったときは5秒間だったからそのつもりでいたのに、気づいた時にはアシハラの凶拳が背後に迫っていた。

 ギリギリで防御して、そのまま数百メートル吹き飛ばされた。


「……マコの予知夢にまだ、アキヅキは現れていない」

「そいつはよかったな。ま、今晩見るかもしれないけどな」

「もちろん」

「最後に1つ。ユキノに話してやれよ。あの墓の話」

「なぜ?」


 アシハラが気を取られた瞬間にカジマはその脚力で蹴り飛ばした。

 なぎ倒された木々を地面ごと抉りながら数百メートルにわたって飛ばされるアシハラ。

 

 楕円形のクレーターを作っておきながら、その身体にはかすり傷一つついていない。

 逃げられたというのに、怒った素振りはなかった。

 なぜなら。


「きみと僕の目指すものは同じ。時間を操作してみんなの命を延ばそうとしているから。もっともきみは、時間を巻き戻すつもりみたいだけど」





いかがでしたか。

おもしろかった・続きが気になるという方は、ページ下部の☆☆☆☆☆をクリックして★★★★★にしていただけるとありがたいです。

私たまたま来ただけですねんという方は、また気が向いたら読みに来てください。

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