95話 Mr. Brightside
アピアの通知表
長所:歌が上手い。
がんばってほしいところ:積極的な発言
2021/8/31)話数間違っていたので修正しました。
「出せえええ!!このクソったれの檻を、解きやがれ!!!」
さっきまでのもじもじっぷりがウソみたいに汚い言葉を吐きながら、額を玄関に打ち付けている。
鈍い音が響いて額が割れて血が吹き出しても、勢いは止まらない。
「おい!アピア!止めろ!!死ぬぞ!!」
とっさに窓から手を入れた。
だが。
「うるせえええええええ!!!私をチュラのところに連れていけ!!!!」
不用意に入れた指に思い切り噛みつかれ、そのまま食いちぎられた。
さらに指先を吐き捨てられるというオマケ付き。
「ユキノ殿!!」
「いってえ!……まるで、アピアが乗っ取られてるみたいだ」
チュラのところに連れてけなんて、どう考えてもこいつの本音じゃない。
「左様……!チュラのチート、それは海の生物を意のままに従えるというもの。先ほど、アピアを洗脳する力が飛んできました。その余波で我々も苦しんだのです……!」
「アピアだけを……?」
「すでに人魚王国の女性たちはほとんどすべて洗脳され、チュラのもとへと行ってしまいました……残るは、アピアただ一人」
チュラってやつのチートはマインドコントロールか。それもアピアだけを対象にした性欲に正直な能力。
そのせいで、アピアがこんなに傷ついているのか。
髪を振り乱して壁をかきむしり、何度も頭を壁に打ち付けている。
喚き散らすその姿は、とても人魚姫とは思えない。
道理でこの小屋、ガラス窓がないわけだ。
「聞きたいことは山ほどあるけど。ニコ!」
「だいたいわかってますよ。魔力をたくさん借ります」
異常事態に酔いもすっかりさめて、全員が小屋の周りに集まっていた。
全部話さなくてもニコは意図を察してくれていた。
「2人とも、いったい何を……」
ニコは片手を小屋に触れさせて、もう片方の手で俺の手を握る。
直後、強烈な虚脱感。
こりゃ大仕事だ。
なんせまさにサザエさんのエンディングみたいに、屋根や壁がグニャグニャ跳ねている。
「アピアを止められないのなら、この檻を柔らかくすればいい!」
壁や床が頑丈な鉄だから、アピアが傷つく。
だからそれらをスポンジやゴムで覆ってしまえばいい。
「完成しました。原料が少なくてとても苦労しました」
ニコがふうっと息を吐く。
アピアは相変わらず暴れているが、さっきのような鈍い音はせず、ぼふっというくぐもった音が聞こえるだけだ。
「半分、解決ってところか」
「後の半分は、わたしがやる」
ヘロヘロになったニコに代わり、窓の前に立ったのはリイ。
洗脳には洗脳で対抗だ。
「青の魔眼!!全ッ開!!」
その眼を見た人間の感情を強制的に平坦化する青の魔眼で小屋の中が照らされる。
どうなっているかはわからないが、小屋の中が静かになったように聞こえる。
やがて青の光が消える。
でも、リイの表情は浮かない。
「……これ以上押さえつけたら、洗脳を弾き返せたとしてもアピアの精神が壊れちゃう。えげつないよ、チュラのやつ」
「出せええ!!!」
根競べに、優しい方が負けた。
「出しやがれえええ!!こっから……ダセ……だ…………」
だが、アピアの体力も限界だった。
倒れ伏したアピアを、セーレの鎖が優しく包み込んで回復させた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「アピアの暴力は日を追うごとに激しくなり、ついに私の力でも抑えつけることが困難になってしまいました。何より……」
「チュラに、トライデントを盗られた」
俺の推測に、パリキール王は目を見開く。
「どうしてそれが分かったのか!?」
「だってそれ。人魚の王が持ってる三叉の槍にしては、あまりにも威光がないっていうか」
最初ミリゥの上に乗ってるパリキール王を見た時、持っている三叉槍はてっきりトライデントかと思っていた。
だが、特に天変地異が起きるわけでもないし、クェゼリンも普通に声で読んでたし。
BBQしている時に一瞬杖に使ったのを見て、これレプリカだなって確信した。
「大した観察力だ……その通り。我が王国の至宝はチュラによって奪われている……。それも、実力行使でだ」
洗脳チートを使うことなく正面突破で城に押し入り、宝物庫からトライデントを持ち去った。
それもたった1人で。
「トライデントを手にしたチュラは、ついに人魚王国に侵攻をかけた。私はウポルと共にアピアを守りながら脱出。人魚王国は今チュラのもの……!!」
「……トライデントの能力って」
「持ち主の意を海の生物に伝えることができる」
なるほど。自分の能力に対抗されるアイテムか。
「トライデントを失ってはチュラの洗脳から我が娘を防ぐ術はない。海にいる限りチュラのチートからは逃れられない。だから私は、アピアをこの小屋に閉じ込めたのだ」
パリキールの顔は苦痛に歪んでいた。
そりゃ、自分の娘を監禁するなんて児童虐待を疑われるような話なんかしたくないか。
小屋の中からすすり泣く声が聞こえてきた。
正気に戻ったアピアが、うずくまって泣いている。
さて。
せっかくの親睦会が非常に重苦しい空気になってしまった。
ミリゥもアキナも沈痛な面持ちで砂を見つめている。
だから、一旦お開きにしよう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ゆ、ユキノさん……いるんですか?」
「起きたのか。みんなで話し合って、交替で見張りすることにしたんだ」
窓の向こうから、俺の気配を感じ取ってか細い声が聞こえる。
泣いているうちに眠ってしまっていたアピアが目覚めたようだ。
この砂浜で起きているのは、俺とアピアだけ。
ウポルも頭を甲羅に引っ込めている。
俺が窓の外にいるとわかったアピアはにわかに落ち着きを失くしはじめた。
「あ、あの……その、ゆ、指!わたし、その、ユキノさんの、指を……も、申し訳ありません!!」
洗脳されている間のことを思い出してパニック寸前になって目じりに涙を浮かべながら謝罪するアピア。
「き、傷つけたうえに、守ってもらうなんて。わ、私、私、どうお返しすればいいか……」
「うおい!傷ついてないから気にすんな」
食いちぎられたはずの指が治っていることを見せようと窓から中を覗き込んだら、土下座していたからあわてて止めた。
「あれ?指が……」
「【ヒーリングファクター】。それが俺のチート。指なんて秒で生えるし、睡眠も秒。だから、気にすんな」
「そうなんですか。よかった……よかった?え、も、もしかして、失礼?」
正解ではない気がするが失礼ではないからセーフ。
「それにもう俺と人魚王国は友好国だし。アピアはもうみんなと友達だから適当に喋ればいい」
「友達……」
「誰も友達に見返りは求めない」
ちなみに、人魚王国と友好を結んだのは本当だ。
俺がソングⅡをハートランドに建国していて、ドラゴンとカクラとロンドから承認されていることをパリキールに話したら、人魚王国も承認すると言ってくれた。
ただ今の状態じゃ効力はないとも言っていたが。
「……私は、お、お宝も何も王国に置いてきちゃって何も持っていません……そ、それでも……」
万が一断れたらを想像して、アピアは言うのを怖がっているようだ。
断るわけないし、何より言いたいことは察しがついているんだけど。
ただこういうのってやっぱ言われてからじゃないと動けないんだよな。
「私を……私を、助けて、くれますか……?」
「当然っ!」
俺は海の家で待機しているセーレたちに合図を送る。
アピアが言いやすくなるかと思って、実は嘘をついていました。
誰も寝てなんかいない。
頭を引っ込めているとは言ったが、ウポルも寝てなんかいない。
みんな、アピアのその言葉を聞くために待っていたのだ。
いかがでしたか。
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私たまたま来ただけですねんという方は、また気が向いたら読みに来てください。




