94話 囚われの人魚姫
ウポルさんはことあるごとにアピアとの思い出をパリキール王から何回も聞かされているので、ある程度耐性があります。
人見知りの人魚姫アトランティス・アピアに挨拶をすることになった。
性格なのか何か事情があるのか知らないが、アピアはおどおどしていて。
現代日本風に言うとコミュ障だ。
薄ピンク色の髪に、コバルトブルーの瞳。
上半身の人間の部分はとても砂浜みたいに白くて、顔は庇護欲をそそる困り顔の美少女だ。
ただ、自信なさげに俯いていて。
率直に言ってかなり損をしている。
そんな人魚姫も陸の王女2人が現れたら、顔見せしないわけにもいかないか。
「はじめまして。私は元ロンド王国のロンド・セーレ」
「元カクラ帝国のカクラ・リイだよ」
特にフォーマルってわけでもなく、簡単に自己紹介を済ませる2人。
アピアはうんうん、と頷いている。
眼は合わせてくれないが。
「俺はソングⅡのユキノ。元ビートル人」
元ビートル人ってのは余計だったかもしれないが、遅かれ早かれ言うだろうし。
さて、アピアの反応は。
「ひっ……お、男の人っ……!」
ビートル人って言葉を聞いた瞬間、サーッと顔が青ざめて目がウルウルし始めて。
すごい速さで窓を閉められた。
「ま、これはユキノが悪いわね」
「なんでや!自己紹介しただけだぞ」
「トラウマあるの知ってるでしょ。もっとこう言い方を」
パリキール王が再びノックする。
「ご存じのとおり、我が人魚王国の女性の大半はチュラによって拉致されました。娘がこのように閉じ込められているのも、チュラのもとに行ってしまうのを防ぐため」
「それで、1人別室なのか」
「左様。チュラに操られてしまったら、止められるのは私かウポルくらいしかおらぬ」
この人魚王国の災難は、この世界じゃすでに有名な話のようだ。
セーレとリイが聞いたことある顔をしている。
これまで何度か耳にしたから何となく推測出来ていたけど、事実はこういうわけだったのか。
「アピアよ。ユキノ殿は確かにビートル人であるが、我々の味方だ」
ドア一枚隔てた向こうにいる娘を説得するパリキール王。
説得の甲斐あって、ちらっとだけ窓を開けたアピア。
明らかに俺がいないかを気にしていたので、セーレの後ろに隠れた。
「何で私の後ろ?」
「どうしたもんかな。アキナくらいぐいぐいきてくれればやりやすいんだけど」
あ、そうだ。
ほんとはミリゥにあげる予定だったけど、あいつニコから酒に浸かったフルーツ貰って喜んでいるし。
ということで。
一旦俺はウポルの甲羅から降りて、木陰に置いてあった目当てのものを抱えたまた戻る。
「戻って来ても私の後ろなんだ。ねえ、ほんとなんで?」
「なあ、アピア。お近づきのしるしにこれプレゼントするよ。マンゴーっていう、地上のフルーツ」
「……マン、ゴー?」
「「箱ごと!?」」
ミリゥにあげる予定だったから、1個や2個じゃない。
でかい木箱に詰まった数十個のマンゴーを、箱ごと抱えて持ってきた。
タオユエンに来る目的の1つだったから、セーレとリイの眼の色が変わる。
「もちろん。我がソングⅡと人魚の記念すべき初外交だぞ」
「え~、一個ちょうだいよぉー!」
「っていうか、みんなで食べよ!ね?アピアちゃん」
「あ、は、はい。全然……どうぞ」
セーレとリイのテンションに圧されて、アピアが細い声で了承する。
女子相手だと、多少は人見知りも減るんだな。
「いただきます……え、美味しい……!!」
しっかりセーレたちが食ったのを見届けてから、口に入れたアピア姫は、小さな声でそう呟いて。
あっという間に一個食べ切った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「誰のおじいちゃんかはわかりませんが、安らかにお眠りください。南無~」
「人の背中に拝むな!殺して奪ったわけでもないぞ!!」
クェゼリンがヤドとして背負っている龍の頭骨。
龍の里にいる誰かのご先祖であるこの骨の持ち主を追悼するヒータンと、そんなもんを背中でやられるのが居心地悪いクェゼリン。
「よーい、スタート!!」
「ハイ完成です。何ということでしょう。カスバ宮殿の細部にまでこだわった装飾と曲線美が見事に再現されています。これは私の勝ちにせざるを得ませんねえ」
「ふっふっふ。所詮は人工物。自然の美しさには敵わないさ。僕が砂で作ったのは、南ロンドに広がるオリーブ畑と海のジオラマさ。僕の砂魔法だからこそ描けるこの繊細な色使い。僕の勝ちだ」
「「さあ、セーレ(さん)。どっちの勝ちだ(ですか)!?」」
「うわ、酒臭っ。でもどっちの砂も素敵ね~」
砂でどれだけ美しいジオラマを作れるか対決を繰り広げているニコとソコルル。
最初は平和に2人で砂のお城を作っていたはずなのに、酒が進むにつれて勝負になっていた。
そうか。ドラゴニュートも酒に強いのか。
セーレはようやく半分飲んだくらいだけど、すでに足元がおぼつかなくなっている。
あんな状態で砂のジオラマ鑑賞して大丈夫か。
「あ」
ソコルルのジオラマにつまずいて、とっさにセーレの城に手をついた。
すげえ大怪獣。
「……私、ほんとに反省しておりますのよ。何せ私はリヴァイアサン・ミリゥ。海を統べる女王ですの。自分の過ちを認めて先に進む。これこそ王の道ですわ」
「ハイ……はい……たしかに」
「それにしてもビートル人は腹立たしいですわ。あなたたちの国にしたことも然り、私の海を汚しました。しかも私の目の前で。流石に私も頭に血が上ってしまいましたけど。私、ホントに反省しておりますのよ。何せ私はリヴァイアサン・ミリゥ。海を統べる女王ですの。自分の過ちを認めて先に進む。これこそ王の道ですわ」
「そうですね……王の道……なるほど」
「ウポルも彼奴らの顔は覚えておくべきですわ。特にあの氷女。きっと海の生物にも被害を与えますことよ。でも憎しみ合うのはよろしくなくてよ。間違いの後に必要なのは反省……」
「あれ、亀さん困ってる?なんかわかんないけど、やっちゃえやっちゃえ!!」
話している内容は分からないけどとにかくウポルがミリゥに困らされていることだけは雰囲気で分かったアキナが見当違いのアドバイスを叫んでいる。
もう何回目かもわからない同じ話だけど、ウポルは指摘することなんかできない。
なんせくどくど肩に寄りかかってきて管を巻いているのは海を統べる女王、リヴァイアサン・ミリゥ!なんだから。
泥酔上司に絡まれるサラリーマンみたいに耐えるしかない。
「うふふ……」
こんな風に過ぎていく宴を人魚姫は小さな窓から覗いて小さく笑っている。
彼女なりに楽しんでそうでよかった。
「ユ、ユキノさんっ」
「ん」
「お、お酒……お酒、強いですね」
「そうだな。俺、酒に酔わなくなったな」
さっきからずっと飲んでいるけど、【ヒーリングファクター】のせいか、イッキしてもなんともない。
「あ、あの。ゆ、ユキノさん、はここにいて、楽しいですか?」
「え?」
「だって、私、お話、得意じゃない、から……」
「そうか?ペースは遅いけど、その分言葉が丁寧で聞き心地いいぞ」
「ひょぇっ!?!?」
いきなり大きな声で驚かれて、窓の下に引っ込まれてしまった。
そんな変なこと言ったか?
結構楽しく聞いていたんだぞ、アピアの話す海の底あるある。
「アピアこそ、俺といて楽しいか?なんか、男苦手みたいだったけど」
「いえ、あ、お、男の人は、苦手ですけど、ゆ、ユキノさんは、だいじょぶ、です」
大丈夫らしい。
見た目で初めて得したかもしれない。
「うひょ~。優しくてかっこいいですな~。罰として、はいこれイッキ」
「何の罰だよ」
屋根の上にいるリイから大ジョッキが渡される。
そう、実は俺とアピアの二人っきりじゃない。
小屋の上にリイとパリキールがいて、基本は別だがたまにトークが4人になったりしていた。
その時。
パリキールが耳を抑えた。
「うぐぅっ!!なんということだ!!嫌がらせのようなタイミング!」
「え?どうしたの王様!?」
見ると同じようにウポルもクェゼリンも顔をゆがめている。
そしてミリゥも。
「ユキノ殿!その窓を閉めるんだ!!」
「全く神経が逆なでされますわ!!」
パリキールとウポル、そしてミリゥの異常事態にみんなが一気に緊張状態になる。
ただその原因が、俺も含めて誰もわからない。
「窓って……いったい何が……」
「チュラのチートだ……!お主らが持っている常識外れの能力……!!」
「チュラ……!?おい、アピア……!!」
次の瞬間、小屋の中から鈍い音が響いて。
俺はアピアがなぜこんな独居房みたいな小屋に閉じ込められているのかを理解した。
「うあああああああああああ!!!てめえええええ!!!こっから、こっから……出しやがれええええ!!!」
喉が裂けるような叫び声を上げながら、アピアが壁に頭を打ち付けていた。
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