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93話 アトランティス・アピア

「BBQ!!BBQ!!やっきにく!!牛ぃ!!」


 アキナがお皿とお箸を振り回しながら、バーベキューコンロの周りではしゃいでいる。

 

「あっという間だった……彼女は一体?」


 一瞬にして建設された海の家に、パリキール王が唖然としている。


「ニコっていうドワーフ。俺の友達」

「どもどもはじめまして。私はニコと申しまーす」


 お前、酔うと饒舌になるんだな。

 昼からサングリア造りに勤しんでいたニコは、アキナが呼びに行った時にはすでに出来上がっていた。

 顔が赤くなってるわけでもろれつが回らなくなっているわけでもないのは、さすが酒に強いドワーフ族。

 ただ、ずっと酒樽を抱えて飲む手を止めない。


 ニコがグラス片手に建設した海の家で、俺は親睦会を開くことにした。


 どういうことかというと。

 クェゼリンが負け冷静さを取り戻したことで、パリキール王は俺の後ろに隠れていたアキナに気づいた。

 アキナの服に縫い付けてあったカクラの紋章が目に入って、俺も怪しいやつではないと判断したらしい。


 おかげで長い俺の身の上話を聞いてもらえた。

 ミリゥとアキナの援護もあってパリキール王の態度も軟化し、海面の下に待機していた配下も含めての親睦会BBQをすることにした。

 

「ミリゥ様に桃をあげにいくって聞いてたけど」

「うへー、ホントにいらっしゃるなんて。絶対アキナの嘘だと思ったのに。これはこれは、すいませんこんな格好で」


 仕事終わり。

 少しくたびれた顔と服のセーレとリイだったが、パリキール王を見るや姿勢を正して王族同士の挨拶を済ませる。


遅れてヒータンが飛んできて、その背中にはソコルル。

 あれ、ロウセエネさんは?

 

「僕もよく知らないが、反乱軍の中に身元不明の少年が紛れ込んでいたらしい。知っている人がいないかロウセエネも聞いてみるそうだ」


 ふうん、大変なんだな。


「それで、アキナちゃんがいきなり走ってきたと思ったら、BBQするって呼び出し。こういうことか」

「うおおおお、遺骨!!!このモンスター、遺骨背負ってるよ!?誰のおじいちゃんだ!?」


 ぎっしり食材を積んできてくれたソコルルと、クェゼリンのヤドに興味が湧いて絡んでいっているヒータン。


「驚いた……今度は龍とドラゴニュート……」

「うん、友達」

「そうか……この世界の人が、友達か」

 

 ビートル人がこの世界の人間を友達だと見做しているのが感慨深いらしい。


「あれ?てか、陛下一人で来たのか?」


 今回ミリゥのもとに来た目的は、あいつがこの前の戦争時に海流をめちゃくちゃにしたせいでこの海岸一帯のモンスターが大迷惑したかららしい。

 「つい頭に血が上ってしまいましたの。反省しておりますわ」とか横から言ってきたけど、だいぶ派手なやらかしだったようだ。


 海を治めているのがミリゥで、海の生物を治めているのがパリキール。

 というわけで、クラーケンやシーサーペント、巨大クラゲとかはパリキールにまずクレームを入れた。

 パリキールとミリゥは同格の王なので槍持って追い回しても問題なし。


「いや、そうだな……」

「なんか、歯切れ悪いな。別に一人でもいいっていうか、まあ、こういう時って知り合いいた方がいいよなって思っただけ」


 初対面の人しかいないBBQに独り突撃するって中々ハードル高い。

 王様なら社交の場数は踏んでいるから大丈夫だと思ったんだけど、やっぱり仲いいやついないと心細いのだろうか。


「そういうことではない。ないのだが、ふむ……お主になら紹介しておくべきか……」


 なんか乗り気じゃないのが気になるが、とりあえず一名追加だ。

 お皿お皿。


「ウポルよ!出てまいれ!!」


 パリキールが部下の名前を呼ぶと、海面から上がってきたのは。

 デカい亀さん。


「…………ミリゥ殿へ説教するだけにしては時間がかかっていると思っていましたが、どういう状況ですか?」

「もうその件は済んだ。ウポルよ、アピアは元気か?」

「答えるわけにはいきません。陛下の後ろにいる少年は、ビートル人ではないですか?」


 屋形船くらいある巨大ウミガメさんから殺気が飛んでくる。

 赤い甲羅に赤いヒレ。現代日本でもおなじみの外見だが、眼光は鋭い。


「お主では勝てぬぞ。クェゼリンが投げ伏せられた」

「何ですと……!?」

「確かに彼はビートル人だが、我々の味方だ。あちらにおられる、カクラとロンドの姫たちがその証拠」


 パリキールが示す先には、楽しそうに肉をつつき合うセーレたちの姿。

 あ、ニコが柄にもなくはしゃいでる。

 あれは酔いがさめた後で恥ずかしくなるパターンだ。


「ニコちゃんの新たな側面を垣間見たわ」

「っていうか、ユキノ。あれ、亀さんなんて優しいもんじゃないよ。玄武だよ」

「え、マジ?四聖獣の?」


 さすが、海の王が従えているだけあって、格の高いモンスターのようだ。

 で、四聖獣は肉食うのかな。


「いや、ウポルではない」


 紹介したいという人物は、ウポルの背中にいた。

 ウポルの背中にちょこんと載せられたサザエさんのEDみたいな家。

 

 その家の窓からこちらを覗く少女がいた。

 不安そうに、薄ピンク色の髪がひょこひょこ動いている。

 頭頂部しか見えない。


「紹介されたくなさそうなんだけど」

「そういうわけではない。アピアは、少々人見知りでな」


 アピアっていうのか。

 パリキールについていって家の前まで来る。

 玄関にしては呼び鈴もないし、ドアノブはとってつけたような簡素なもの。

 ただ、小窓がついている。

 猫が通るような押し開き式の小窓が、顔の高さのところに付けてある。

 ガラスじゃないから室内は透けて見えないけれど。


「アピアよ。陸の友人を紹介しよう。きっとお前の良き友人となるだろう」

「はい、お父様」


 板垣退助みたいな髭のいかついおっさんのパリキール王が、猫なで声でドア越しに呼びかけるから誰かと思ったら。

 人魚姫か。


 アピアがドアの前まで来るのが気配で分かる。

 やがて、ガチャっと鍵の開く音がして。

 小窓がすっと開いた。


「は、はじめまして。に、人魚王国の王女、アトランティス・アピアと、申します。よ、よろしくお願いします……」

「「「……よろしくお願いします」」」


 誰とも目を合わせず、おろおろとした口ぶりで定型文の挨拶を早口でまくし立てる。

 いまのでよくわかった。こいつ、人見知りだ。





いかがでしたか。

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私たまたま来ただけですねんという方は、また気が向いたら来てください。

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