92話 ロックスター、キャバクラに行く
サマルカンはだいたい現代日本でいう中核市くらいのイメージ。
タオユエンは政令指定都市くらい。
―――ビートルバム サマルカン―――
「す、すごいです!おめでとうございます!!Bランク昇格です!!!」
冒険者ギルドの外に横たわったジェネラルリザードの死体を確認したギルド受付嬢が、仰天して叫ぶ。
それにつられて周りの野次馬も雄たけびを上げる。
………………。
「Bランクねえ……」
現代日本でいうスイートルームくらいのホテルの一室。
ランクがCからBへと書き換わったギルドカードを見ながら、フジオウは昼間の騒ぎを思い出していた。
うっかりサマルカン最年少Bランカーになってしまったがために、ギルド内の冒険者たちに注目されてしまったのだ。
フジオウは後悔していた。
目立つような行動をして、ビートル人たちに気づかれると不味いからだ。
フジオウはハッピーな生活を送りたいのであって、決してビートル人たちに復讐をしたいわけではない。
あいつらと縁を切って、自分の幸せを追求する。
それがロックスター、フジオウの目指す道だ。
「も~、人が死ぬ思いして獲得したんですよ!もうちょっと喜んだらどうですか」
ルームサービスが届けてくれた料理を机に並べるラハルは、フジオウがBランクに大して喜んでないことが不満だ。
「あんま目立ちたくはないんだよな、俺」
「はあああああああん!?!?!?」
掴みかかるラハルをかわしながら、フジオウはワインを口に運ぶ。
異世界ワイン。現代日本とほぼ同じ味だ。
「人に注目されることにいい思い出がないっていうか」
「あ~!!それでギルドが主催する昇格祝いパーティも欠席したんですね!!せっかく美味しいお肉やお酒が振る舞われるというのに!!」
「食べたかったのか?」
「……もちのろん!!」
せっかく豪勢な料理が食べられるのになぜ!?という気持ちが表情にありありと浮かんでいた。
一流ホテルのルームサービスだって豪華だが、だからといって断らなくてもいいじゃないか。
「それにしてもご主人、冒険者なのに豪華な食事も周りの称賛も興味ないんですか?リザード討伐のお金も私のものだっていうし」
ラハルの目の前にある報酬は、積み重ねられた金貨。
3年は遊んで暮らせるくらいの金額で、なにより奴隷のものは主人のものなのにフジオウは受け取らなかった。
「いったい何のために冒険者やってるんですか?」
「何のためって……」
異世界と言えば冒険者だろって思ったからと答えるわけにはいかない。
だけど、ロックスターになりたくて冒険者になったのは事実だ。
「高い酒といい女、金のネックレス。メルセデス……」
「めるせです?よくわかりませんけど、ちゃんと欲望はあるんですね。安心というか残念というか……」
いかにも冒険者らしい俗な動機が聞きたかったような態度をしていたのに、ラハルの顔は嬉しそうじゃない。
「そうだな。俺は、ロックスターになるために冒険者になったんだ。このクソみたいな日常にサヨナラして、上へと昇っていく」
「へー。ご主人にもそんな気持ちがあったんですねえ」
「だから、キャバクラに行こうと思うんだ」
「うんうん……へ?」
突如フジオウの口から出たキャバクラという言葉が理解できず、ラハルは固まる。
めるせです、と同じ謎の方言だろうか。
「訳せてるのかな。キャバクラ。きれいな女たちが酒を注いでくれて楽しくお話しできる……」
「知っとるわ!それくらい!!」
「お、そっか。じゃ、そういうことで」
「まてぇ!おい!!」
おもむろに立ち上がったフジオウの脚にラハルがしがみつく。
「何でお祝いパーティ中に行くんですか!!別に終わってからでも明日からでもいいでしょ!!」
「だって早くいかないと閉まるだろ」
「夜になったばかりですよ、閉まるわけないでしょ!そんな役所じゃあるまいし!!」
「じゃあ、ラハルも来るか?」
「はあああああああああ!?!?!?」
衝撃のあまり脚を上り、フジオウに抱っこされるような状態になって絶叫するラハル。
人より長めの犬歯がよく見える。
「きらびやかに着飾った女性に取り囲まれる私を想像して御覧なさいよ!!なっさけないなぁもう!泣けてきます!!」
「じゃあ、お留守番な」
「ひええええええええ!!!」
「だからこれ。【鋼の身体】」
「ほぇ?」
フジオウが手にしていたのは、あの時と同じ紫色の煙。
【ロックスター】が奪ったスキルをラハルに譲渡するつもりのようだ。
「戸締り気を付けろよ。少なくとも、その辺のキャバ嬢なんかには勝ってるんだから」
「え、え、そんな、へへへ。……ってうぉい!!」
煙を吸った瞬間、防御力が強化された実感がラハルの身体に充満する。きっと、チンピラのナイフくらいじゃ傷1つつかないだろう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
1時間後。
「こんな酸っぱいブドウジュース飲んで、何が楽しいのやら」
フジオウの飲みかけのワインを飲んでは止めて飲んでは止めてと繰り返しながら、そんなことを呟いていると。
玄関の扉が開いてご主人が帰ってきた。
「え!?はやっ!!」
「ただいま……」
キャバクラの平均利用時間なんてラハルは知らないが、それでも一時間で帰って来るのは早すぎる。
身体に女性用の香水をまとわりつかせたフジオウは疲れ切った顔でベッドに倒れこんだ。
「キャバクラ、全然楽しくねえ……」
「ぶっ!!!」
フジオウの感想を聞いてラハルが吹き出す。
先ほどまでのシケた顔から一転して、楽しそうだ。
「話、盛り上がらなかったんですか?」
「そもそもの形として、俺から話振らないといけないんだよ。トークに嬢たちが相槌を打って、俺が気持ちよくなるっていうシステムだから」
「へえ。じゃあBランク昇格自慢すればいいじゃないですか」
「そんなもん会ったばっかのやつに言ってもな、と思って」
現代日本の大人たちが熱心に通うキャバクラ。金持ちの象徴みたいなイメージがあったので異世界で行ってみたフジオウだった。
けれど、キツイ酒と香水、けばけばしい光、そんな派手な雰囲気に馴染めなかった。
なにより隣に座る嬢たちに変に気を使ってしまったのだ。
酒で気が大きくなればよかったのだが、あいにくジェネラルリザードから奪った【毒耐性】によってフジオウはアルコールが効かなくなっている。
「いひひひひひひひ!!!」
ラハルがあまりに笑い転げているのがフジオウは気になった。
ワインのボトルを持ち上げてみると、結構減っている。
それにラハルはすっかり犬耳の先っぽまで真っ赤になっていた。
「おまえ、酔ってるだろ」
「酔ってないです。私が酔うわけないじゃないですか。ははははははは、やめてください!香水臭いですよ~!」
「お前が絡んできてんだ、よ」
酔うとラハルはとんでもないウザ絡みをしてくる。
新たな発見であった。
ベッドの上でじゃれ合っていると、ラハルのポケットから何かが落ちた。
「なんか落ちたけど」
「ほ?ああ、これは、ギルドの壁に貼ってあった素人新聞です。なんかカクラの方で事件が起きたらしいですよ。では、おやすみなさい」
さんざん楽しんで、一層酔いが回ったらしい。ついに眠ってしまった。
何でそんないかにも思想の偏ってそうな社会不適合者が書いたであろう文章をはがして持ってきたのか。
そんなことを聞くより先に、その内容に目が行った。
「『タオユエンで反乱 カクラとロンドの姫様とビートル人が協力!?』って……」
なんだよそれ。
いかがでしたか。
面白かった・続きが気になるという方はページ下部の☆をクリックして★に変えてくれるとありがたいです。
私たまたま来ただけですねんという方は、気が向いたらまた読みに来てください。




