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91話 side ビートルバム 女子たちのお茶会

(知ってる天井だ)


 ここはビートルバムの宮殿。

 毎朝、起きたら目を覚ます自分の部屋の天井だ。

 私は自分のベッドで目を覚ました。


 頭を起こして、自分の身体に包帯が巻かれていることに気づく。


(あ……私、負けたんだ)


 ヤマナミは眠る前のことを思い出す。

 タオユエンの反乱軍ほぼ全員を【ロック】し、仲間のビートル人たちをモニタリング。それでも最後には敗北し、別荘の下敷きになってしまった。


 AWLが助けに来たときには魔力は枯渇していた。

 彼に抱えあげられた時には、すでに意識を手放していたように思う。


「アッ。ヤマナミちゃん、起きたノ!」


 ベッドの下からウララの声が聞こえる?

 どうしてかと思ってヤマナミが下を見ると。


「え!ヤマナミさん!ね、ねぶくろ!?」

「イエース。ヤマナミちゃん、3日寝てたよ」


 寝袋を着たまま芋虫のように身をよじって器用に立ち上がり、ほっとしたような顔でヤマナミを見つめるウララ。

 もぞもぞと腕を出してジッパーを下ろして寝袋から脱皮すると、揺れる髪から甘い香りが漂ってくる。


 漂わせている自覚なんてないままウララはベッドの端に腰かける。

 無意識に下ろしたウララの手がヤマナミの手に重なるかと思ったが、ギリギリ触れあわなかった。



「そう、ですか。イタミが……」

「うん……」


 タオユエンでの敗北について、ヤマナミはウララから聞いた。

 2日あれば現地人100万の反乱軍なんて容易く制圧できる。

 

「ナメてたわけじゃないですよ」

「そう。計算外だったのは、ユキノ」


 突如現れたユキノとその仲間たちによって戦局が一変。


「リヴァイアサンまで出て来るとは思わなかったヨ」


 他人事みたいな口ぶりだが、後頭部を強めに掻いている。

 自分最強の一撃さえ不発に終わったことがウララには屈辱だった。

 

「それで、これからどうなるんですか」


 ヤマナミの不安そうな口調が含むニュアンスは。

 課された任務に失敗した私たちは、と、これからのビートルバムはの2つ。


「ひゃぁあ……ダイジョブ、私たちはダイジョウブ。別に追放もされない」


 子猫のような目で自分を見つめるヤマナミに、ウララはつい優しい口調で答えてしまった。

 ウララが隣にいるとかすんでしまうが、ヤマナミも美人である。美女というよりかは可愛い方だ。


「ビートルバムも滅んだりしないヨ。私たちも負けることは初めてじゃない」

「よかったぁ」

「でも……」


 ウララがビートルバムの今後について話そうとしたとき、部屋の扉が静かに開いた。


「あ、目覚めたんだ。元気そうじゃん」

「アキヅキくん」


 タオユエンから唯一無傷で還ってきた少年は相も変わらず爽やかな青空色のシャツだ。

 元気そうなヤマナミを見て嬉しそうな顔をしたアキヅキは、ベッドに腰かけたウララと目が合うと少し驚いた。


「こんにちは。そっかそっか、ウララさんの分も買ってくればよかったな」


 アキヅキの手に握られていたのは、ロイヤルミルクティー。

 現代日本でもおなじみのボトル缶。


「オキヅカイナク。私、売ってる紅茶は飲まないノ」

「こだわりっすか」

「私のチャイ飲む?」


 寝っぱなしも体に良くないということで、リハビリも兼ねてウララの部屋まで移動することになった。

 3日ぶりの部屋の外だけど特に変わったところはない、というのがヤマナミの印象だった。


「イタミくんのこと知ってるの?」

「もちろん……残念だよね」

「うん……」


 歩き始めてしばらくして、ヤマナミからイタミについて話を振ってみた。

 アキヅキのリアクションはいかにも悲しそうだった。

 まさに助けられなかった自分を悔いている、といった表情だった。


「……ヤマナミちゃんが寝てる間に、セブンのみんなが会議したよ。ルナも参加しての会議。ユンクァンはいなかったケド」

「もしかしてユキノが倒したんですか!?」


 ヤマナミの勘は、ウララとアキヅキの2人に揃って否定される。


「ははは、死んでないよ」

「負けはしたの。でもそれ以上に……」


 通路を曲がると景色が変わる。

 ここを曲がるとまた長い廊下が続くんだよな、というヤマナミの予想は覆ることとなる。


「え……なにこれ?」

「これが理由」


 目の前にあるはずの宮殿が崩れ去っていた。

 本来なら長い通路がずっと延びていて、その横に40番台の人と従者たちが集まるだだっ広いピロティ的な広間があるはずだ。

 それが崩落して、目の前に広がっているのは瓦礫の山だった。

 

 いったい何が、とあちらこちらを見まわすヤマナミの目に、氷の欠片が映った。


「凍らされたユンクァンが凄い力でここまで飛ばされて、ここに墜落したの」

「凄い力って……」

「わかんないヨ。でもこの世界の文明力じゃできないはず」

「それでユンクァン、メッチャキレてたよ。誰よりも自分に。だから」


 ビートル人の身体能力なら、これくらいをジャンプで超えるのは容易い。

 水たまり感覚で飛び越えるウララとアキヅキに続いて、ヤマナミもジャンプ。


「だから?」

「宮殿を出て行った。ユキノを始末するまで帰って来ないってさ」


 これがヤマナミの寝ている間に起きたことの1つ。

 ユンクァンの家出。


「そして、敵国認定」

「敵、国?」


 あともう少しだけ歩けばウララの暮らす10番台の棟に着く。

 そんな道中でウララから語られたもう1つ。


「ユキノを敵として私たち総出で仕留めに動く。っていう今後の方針は分かるんですけど、国?」

「そう。あいつ建国したんだってさ」

「建国ぅ!?」


 ビートルバムはユキノを敵として認定、見つけ次第始末せよ。

 それがセブンの出した結論だった。


 そんなユキノが建国?

 もしかして、突然デパートの屋上に掲げられた旗のことだろうか?

 相変わらず女子より女子みたいな顔したユキノが掲げた旗。

 薔薇と龍が描かれていたな、とヤマナミは思い出す。


「いろいろと詳細は不明だから引き続き調査中。現場にいた僕たちも、ユキノたちの関係まで見る余裕はなかった」

「着いたヨ」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ウララのチャイはシナモンが効いていてエキゾチックな美味しさ。確かにこの味を知ってしまったら市販の紅茶なんて飲めない。

 なのにアキヅキは一杯だけ飲んで席を立ってしまった。


 僕が混ざるのはいけないと言っていたけど、どういうことだろう?

 やっぱり女子2人の間に男1人というのは居心地が悪いのだろうか?


 というヤマナミの疑問も、ウララとおしゃべりを続けるうちに頭から消えていった。


「アララ、いつの間にか夜になっちゃった」

「そうですね。楽しかった。またしましょうね、こんなお茶会」

「うん。灯りついてるけど、暗いから気を付けてネ」


 通路に等間隔でランプが灯っているとはいえ、すっかり暗くなった宮殿は昼間とは別世界だ。


「めっちゃ暗い……あ、スマホのライト」


 スマホを掲げてライトを点けと、長い通路が丸の形に照らされる。


「ま、多少マシ……早く帰ろ」


 そうやって急ぎ足で歩いていた時。

 その丸の縁に一瞬だけ。


「え!!?!?」


 もう一度照らしても、姿は見えなかった。

 それはあまりにも不釣り合いな人物だった。

 だが、ヤマナミはどうしても見間違いとは思えなかった。

 見たものが見たものなだけに、得体の知れない恐怖が全身を駆け巡る。


「ウソ……ウソ……あり得ない。どうして」


 この宮殿に、車いすに乗ったおばあさんがいるの?



いかがでしたか。

おもしろかった・続きが気になるという方は、ページ下部の☆を★に変えてくれるとありがたいです。

私たまたま来ただけやし、という方はまた気が向いたら読みに来てください。

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