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90話 トノサマガザミ

 槍を突き付けて入るが、人魚のおっさんとミリゥは敵ではないらしい。

 おっさんはミリゥに対し敬語を使っていたからだ。


 だから近づいて話を聞けば事情を教えてくれると思った。

 見た目明らかに年上で、それに人間の上半身は鍛えられていてムッキムキだったので、敬語で丁寧にいくことにした。


「あの~どうしたんですか?ミリゥが何かしたんですか?」

「む。何だお主。地上人のくせに、海の言葉が使えるのか」

「ああユキノさん!!お見苦しいところを見せてしまって恥ずかしい……!」


 低姿勢で話しかけた俺をミリゥは縋るような目で見つめ、おっさんは警戒した面持ちで槍を向けてきた。

 槍を握る前腕には太い血管が浮き上がり、肩の筋肉が盛り上がっている。板垣退助みたいに髭をたくわえ、なにより頭にはキラキラ光る王冠。

 十中八九、人魚の国の王様だ。


「え~っと、王様。差し支えなければ俺の友達を叱っている理由を教えてほしいんだが」

「陸の人よ。これは海の問題だ。悪いが教えることは出来ん……友達?」

「え?ああ、俺とミリゥは友達だ」

「それは真か?ミリゥ殿」

「真ですわ。私とユキノは友達。友達と書いてライバルと読む、そんな熱い関係ですわ」


 そんな熱い関係だとは知らなかったが、友達なら教えてくれるだろう。

 早く丸く収めないと。

 ミリゥとさえ初対面の上、この会話を意味不明の雄たけびとしか聞けないアキナがさっきから俺の後ろで震えている。


「……ユキノというのか、陸の人。いや、ビートル人よ」

「ん?」


 空気変わったな。

 それも、とてつもなく悪い方に。


「確かに俺はビートル人だけど、今は違う。この話長くなるけど……」

「ええい!問答無用!!手の番号がワシに見えないとでも思ったか!!」


 豹変という言葉がぴったりなほどに、人魚のおっさんは激怒した。

 瞳の奥でビートル人への憎悪が燃えていた。


 またなんかやっちゃってんのか、あいつら。


「落ち着いてくれ!俺はビートル人だけどビートル人じゃない!!ミリゥも、ほら、なんか言って」

「パリキール王!!ユキノはいいビートル人なんですの!!チュラと一緒にしてはいけません!!」

「すでにミリゥ殿は洗脳済みというわけか……!!世界の海から人魚を奪うだけでは飽き足らず、ついにリヴァイアサンにまで手をかけるとは!!!」


「ユキノ!!なんか、人魚さんすっごく怒ってるよ!!??」

「ちょっと離れてろ。おっさんがブチギレてる理由はだいたいわかった」


 俺たちの海語?リヴァイアサン語?がわからないアキナが動転して俺の裾を引っ張ってる。


 それと、人魚でもおっさんでもなく、パリキール王だ。

 そんな王様の口から出た「チュラ、洗脳、人魚」。

 チュラとかいうビートル人が人魚にしたことが俺の想像通りなら、怒る理由も無理はない。


「だから誤解を解く。ピンチになったら助けてくれ」


 パリキール王が三叉槍を振り上げる。


「私が直接手を下すまでもない!!いでよ、クェゼリン!!!」


 王の叫びとともに槍が輝き、地面が揺れる。

 砂浜が丘みたいに盛り上がって、お出でになったのがスカルドラゴン。


 いや違う!

 巨大なヤドカリだ。

 

 背負っているのは龍の頭骨。

 本体のヤドカリはロブスターみたいな赤色で、何より目を引くのは巨大な鋏。

 当然切れるんだろうが、このデカさじゃ切れ味なんて議論する前に。

 振り回すだけで凶器だ。


「お任せください!!パリキール王!!!あなた様の呼び出しならどこにいても聞き取りましょうぞ!!!」


 声の渋い、忠誠心の高いヤドカリさんだ。


「ユキノさん!クェゼリン殿はパリキール配下の中でも指折りですわ!!油断なさらぬよう!!」

「りょーかい!!確かに、忠実なしもべって感じの話し方してる」

「そこの陸人。きさま、我らの言葉が扱えるのか!?」


 俺が海語を使えることに驚いているトノサマ


「惑わされるな!そやつはビートル人!!不可解な力を持ってって当然!!」

「貴様もチュラと同類か!!!」


 俺がビートル人だと分かった途端、クェゼリンは鋏を容赦なく振り下ろしてきた。

 かわすことなく両手をクロスさせて受け止める。


「何で逃げないのさあ!!ユキノおおおおおお!!!」

「ユキノさん!」

「フハハハ!チュラより脆いぞ!!あっけない!!」


 トラックが壁に衝突したみたいな衝撃音が辺りに広がる。

 そして聞こえる勝ち誇ったクェゼリンの声。

 多分、パリキールもニヤついてんだろう。


 現代日本にいた頃、プロレスごっこしてパイプ椅子で殴られたことがあるが、そんなもんとは比べ物になんねえ。

 けど。


「ぬぅ……!?潰れていない……?」

「誰が……!!」

「それどころか、立っていやがる!!」

「誰がチュラより脆いって!!!」


 おっけぇ。

 持ち上げられる。

 ボロい平屋よりでかいオオヤドカリを、鋏を掴んで宙に浮かせられる。


「む!む!足が……浮いて」

「ああ腰がいてえええ!!!」


 数トンは下らないクェゼリンの体重に俺の腰が悲鳴を上げる。

 だが、よし。治った。

 もう二度と腰痛なんか起きねえ。


 喋ったどころか会ったことすらないが、俺がチュラより弱いわけねえだろ!!

 クェゼリンを垂直まで持ち上げたら、後は投げおろすだけだ。

 最後は脚に力を込めて跳躍、俺の体重も重力に乗せて。

 クェゼリンを背中から叩き落とした。


「うぇええええ!!反り投げ!!」

「まさか、クェゼリンが陸人に投げられる……だと……」


 さっきの鋏振り下ろしよりもデカい衝撃が辺りに広がった。

 見るとクェゼリンを中心にクレーターが出来て、ヤドが地面に突き刺さっている。

 ドラゴン背負ってたのは都合がよかった。


 みんな信じられないといった顔をしているが、一番は投げられた本人だ。


「何という……ヤドの骨が刺さって……動けん!」

「当然、投げられたくらいじゃダメージなんてないよな。ひっくり返ってもらうのが目的だったからいいんだけど」

「貴様!俺に情けをかけたのか!!」

「いや……なんていうか……話の通じる相手を殺すのは、気が引けるんだよ」

「な……」

「これでわかったろ。人魚洗脳してハーレム作るようなそんな異世界での欲望に正直な輩と俺を一緒にするな」


 しかし。

 こんなこと言ってるようじゃ、せっかく異世界来たっていうのに俺冒険者出来ねえじゃん。


「「ユキノ(さん)って、強いんだあ(ですわぁ)!!」」




いかかでしたか。

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