89話 マンゴーと人魚のおっさん
第5章開幕です。
「う~~~ん!!この甘美な味、病みつきになりますわ~!!」
すでに3個目となるタオユエン産の桃を頬張り、ミリゥが跳ねる。
「確かにうまい。まるで元いた世界の味だ」
ピンク色の皮に、チクチクする産毛。素手で食うと手がねちゃねちゃになる。
まさに桃。
現代日本の夏でよく食うフルーツに異世界の海神が舌鼓を打っていた。
タオユエンからルナたちを追い出して数日。
俺は今、ソコルルに言われてミリゥに感謝のお供え物をしているところだ。
ソコルルがミリゥに雨を降らしてもらうために桃で釣ったらしく、しかもその時に俺の名前を使ったから俺が直接渡しに行くこととなった。
なので俺は朝から桃を片手に浜辺までやって来て、ミリゥに献上している。
献上というか、動物園でワニに餌あげてる感覚というか。
「ありがとなーミリゥ。お前の雨がなかったら俺たち全滅してた」
「それほどでもなくってよ。あれくらい私にとっては桃のタネを噛み砕くより容易」
「あの規模の攻撃がねえ……ほい。これでラスト」
俺を丸かじりした巨大な口に手のひらサイズの桃を投げ入れる。またしても身悶えしながら味をかみしめるミリゥ。
「いつの間にこのタオユエンの街にこんなおいしい果物が実るようになったのでしょう。名残惜しいですわ……次はいつ食べられるのでしょう」
「街がこの調子じゃあな……。他のフルーツがないか聞いてくる」
しょんぼりしているミリゥを背にコロアネデパートに向かう。
道中、色んな人間から声をかけられた。
てっきり卵でも投げられるのかと思ったら、男からは握手を求められる。それも腕相撲みたいなかたちで握り合う力強いやつ。
どうやら反乱軍だった人たちらしい。AWLが俺を振りほどこうと街中をワープしたおかげで、俺がルナに勝利したと知れ渡った。
「正直、勝利した気はしないんだけど」
「はっは!!見た目と同じく控えめなやつだな!だが、お前は姫様たちと同じく間違いなくこの街を救った英雄さ!」
ライオンの獣人にそう言われて背中を叩かれた。
力強っ。
女の人たちは遠巻きに俺を見るだけだ。それも遠くで頬を赤らめてもじもじしているだけ。
「俺がビートル人ってこと知ってんのかな」
「知らないだろう。知ったところで手のひら返しすることもないだろうが」
コロアネデパートのロビー。
やってくる部下たちにあれこれ指示を飛ばすロウセエネはそう答える。
すいませんね。街の復興作業中にお邪魔して。
「構わないさ。ミリゥ様と会話できるのは君だけなんだ。桃はもうないが、さっきマンゴーが届いた」
オレンジ色に輝く太陽の果実。ミリゥならマンゴーも気に入るだろう。
ロウセエネに貰ったマンゴーを木箱に入れて再び港へと向かおうとしたら、通りがかりのおっさんに台車を貸してもらった。
「あーーー!!!いたいた!!ユキノーーー!!!遊ぼおおおおおおおおおお!!!!!」
木箱を載せて台車をガタゴト押して広い街道の端を歩いていたら、誰かが俺を呼ぶ絶叫が聞こえた。
誰の声かと思ったら、アキナか。
現代日本でいうと中学生くらいの女子がこちらに向かって走ってきた。
Tシャツに下はハーフパンツという夕方に犬散歩させているJCみたいな恰好しているが、カクラ帝国の皇女だ。
「遊ぼ!遊ぼ!野球!野球!お姉ちゃんたち忙しくて遊んでくれないから暇なの!」
「お前、復興手伝わなくていいのか」
セーレとソコルルは傷ついた反乱軍の人たちを片っ端から回復させているし、リイはヒータンと一緒に瓦礫の撤去作業。
アキナはリイに付いていったって朝起きた時にニコから聞いたが、サボったのか?
「ちゃんと手伝ったよ!!今はお昼休みなの!リイお姉ちゃんは寝てるの」
「昼休みだもんな。寝てたいよな」
「もー!!お姉ちゃんと同じこと言う!」
高校生くらいの年齢になれば昼休みに外出て追いかけっこなんてしなくなるんだよ。
そういえば何回か、ニコとアキナがキャッチボールしてるの見たな。
ドワーフの怪力とアキナの剛速球がぶつかり合って遊びとは思えない迫力があった。
「あれ?ニコは?」
「さっきデパート行ってみたけど、『サングリアを作ります』ってお酒飲んでる」
なにやってんだよあいつ。
あー、ドワーフって酒好きな種族か。
それであいつ、街のみんなからの贈り物に酒があったって嬉しそうだったのか。
ロウセエネだけがテンション上がってるように見えて、実はニコの口角も数ミリだけ上がっていた。俺以外に気づいたやつはいなかっただろうけど。
「あ!!これマンゴー!!?もしかしてミリゥ様のとこ行くの!?」
台車に載ったマンゴーを指さして、自分も行きたいというオーラを出すアキナ。
だから一緒に向かうことにした。
道中アキナに聞いたところによると、リヴァイアサンは海を治める神獣。古くからカクラ帝国では海上交易の繁栄と安全を願って、代々の王を奉っていた。最近代替わりしたミリゥも同じ。
「感謝を表す祭りだって言われて参加したことあるけど、そんときも重たい服着てめんどくさい手順があって大変だった」
「ふーん、へぇ……そう……」
俺がミリゥを叱り飛ばしたことあるって聞いたら、アキナは目をまん丸にしてビビっていた。
「しかしタオユエンって広いよな。これで首都じゃないっていうんだから、カクラってデカいんだな」
「カクラは広いの。そうだ!!ユキノ!!ルビンも取り返してよ!!私たちのお城にビートル人が住んでてムカつくの!」
「そりゃムカつくなあ。ぜってえ取り返してやるよ」
「でもフマっていうNo.1がいてそいつめっちゃ強い!!」
ルビンっていうカクラ帝国の首都は今ビートル人に占拠されている。アキナたちが住んでいたホンロン城もNo.1のフマの手に落ちている。
「わたしとロウセエネで何回か攻め込んだけど、ダメだった。フマ以外にも強いビートル人がいっぱいいるの」
カクラの現状について話をしていたら、別荘や魚屋、民宿が目につくようになってきた。
そろそろ海だ。潮風が吹いてきた。
……ん?
ミリゥが誰かと話してる。
俺以外であいつと話ができるのってソコルルぐらいだよな……。
「ひ~~~ん!!!申し訳ないですの!!!あの時は頭に血が上っていましたの!!!」
「申し訳ないではすみませんぞ!!!あなたが海流を滅茶苦茶にしたせいで、ここら一帯の生物が大迷惑したのですぞ!!!」
浜辺に来た俺たちが見た光景。
それはミリゥがでっかいおっさんに追いかけまわされている光景だった。
でっかいおっさんは海を逃げ回るミリゥを泳いで追いかけている。
それもフォークみたいな三叉槍を持って。
「あのおっさん、バタ足だけでミリゥのスピードに追いついてる」
「そこ!?」
「ええい!!いい加減逃げるのはやめてください!!!何もイジメようなどとは思っておらんのです!!!」
そう叫んでおっさんは海面からジャンプ。
ミリゥの頭に飛び乗って抑えつけた。
それでわかった。おっさんは人間じゃなかった。
正確には地上人じゃなかった。
「うげ!!あのおじさん、人魚だ!!!初めて見た!!!」
「俺も。とりあえず、止めに行こう」
ミリゥの頭の上。三叉槍を振り回すおっさん。その魚の下半身は、青や緑の鱗。タオユエンの陽射しに照らされて輝いている。
俺とアキナはマンゴーを放り出して、ミリゥのもとに走った。
いかがでしたか。
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