88話 幕間② ビートルバム横断鉄道
今回初登場したビートル人を一覧にすると。
No.28 カリン チート【Bawitdaba】:大型トラック
No.38 ゴトウ チート【イート・イット】:精巧なコピーの量産
No.39 カダブラ チート【royals】:現代日本のネットスーパーにアクセス
―――ビートルバム 荒野―――
「あいつの!!あいつのせいだ!!あいつのせいで僕がこんなところで!!!」
乾燥した空気で鼻の奥が痛いというイライラをぶつけるために、ラクは自分をこんなところに追いやったやつに恨みを込めて叫ぶ。
「……」
「なんだよ!手え止めてんじゃねえよゴトウ!!さっさとやるんだよ!!」
数分に一回ユキノへの恨み節を言うラクのそばで、黙々とゴトウは作業する。
すでに幾度となく繰り返されてきた光景を、実際に手を動かす奴隷たちはもはや気にしない。
強い日差しの下、地面を均して石を敷き詰めその上に鉄を二本ひたすら並べていく。
鉄道を敷いているのだ。
ハートランドを除く世界島を支配するビートルバムは土地が余りまくっている。
彼らがいる見渡す限り茫漠とした荒野もそうだ。
ファクトリーを背中に遠く離れて数千キロ。
すでにロンド王国の国境は越え、カクラでもない中立の領域。
たまに通るのは、冒険者かモンスターか。
そんな不毛の地にキャラバンたちが長い年月を積み重ねて作った行商の道。
それを再開発という名で破壊して鉄道を通す。転移して以来ゴトウが従事している仕事だ。
彼のチート【イートイット】は左手で触れたものの正確なコピーを右手に出現させる能力。
鉄道工事に必要な鉄、石、ツルハシ、作業着……。それらをひたすらコピーし続けるのが彼の役目だ。
この能力を使ってヤマナミのスマホをコピーしたのだが、さすがに他人のチートを完コピすることはできなかった。
だからヤマナミ以外が持つスマホは機能が制限されているのだ。
一方のラクの役目はというと。
「……」
「んだよ。指なんか指して……ああ、過労か」
強制労働させている現地人の奴隷の1人が倒れている。他の奴隷はもはや他人を気遣う余裕などなく、無視して作業を続けている。
倒れた奴隷は細身の少年だった。渇いてひび割れた唇から苦しそうな息が漏れる。
自分と同じくらいの年齢だということをラクは理解はすれど同情はしない。ただ【Feel Good Inc.】を発動。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」
さっきまでの衰弱が嘘のように少年は雄たけびを上げる。
枝みたいな腕は丸太のように太く、キリギリスみたいな脚は熊のように強く、もはや別人となった少年は再び砂利を運び始めた。
「別に治療でも何でもない。あいつの寿命を燃やしただけだ。明日になったら死んでるぜ」
「……」
人員補充の手間を省くのがラクの仕事だ。
強制ドーピングで死ぬまで働かせるなんて現代日本でもドスブラック企業でしか聞かない非人道的行為だ。
それを見てもゴトウは喋らない。
喋らないのがゴトウだ。
おまけにサングラスをかけてしかも髪が目のところまで垂れて、あげく口元はマスク。
ゲーム実況者のように素顔を隠しているので、顔立ちはおろか感情さえわからず、体型から男だと分かるのみ。
ラクのやり方を認めているのか不快に思っているのかもわからない。
そんな二人が奴隷を酷使して鉄道敷設を進めていると。
遠くの方からトラックの音が聞こえてきた。
中世ヨーロッパ風の異世界にはふさわしくない、重厚なエンジン音。
「ああそうか、今日は配給の日か。カリンが来た」
「イェーーーーーーーイ!!みんなーーーーーー!!!!!!」
大型トラックの高い運転席からカリンという名のビートル人が、ラクとゴトウに向かってピースの手を振る。
そのすべての指先にはピンクや水色のカラフルで尖ったネイルが施されていた。
そしてクラクションを一発。
その音に気づいた作業中の奴隷たちから歓声があがる。
ラクとゴトウの前では見せない笑顔だ。
「みんなーーーーー!!ハッピーーーーーーい!!??」
「2人だよ」
「……」
ラクたちの目の前に停まったトラックから降りてきたのはピンクのTシャツに厚底のラバーソール、白い金髪のギャルだった。
直射日光をものともしない活気あふれる挨拶に、ラクは少しだけウザそうな顔で対応する。カリンを嫌っているわけではないが、男女関係なくやかましい人がラクは嫌いなのだ
ゴトウは何も言わないが、カリンから目を離さない。
「え?え?ちょ待って。2人ともお通夜モード入ってるやん。暑さでサゲな感じ?」
再びステップを登って運転席に戻ったカリンは、ドリンクホルダーにあった麦茶のペットボトルを差し出した。
「ほらほら鶴瓶飲み」
カリンが差し出したのは現代日本でおなじみ大容量ペットボトル麦茶だった。半分ほど減っているのでカリンが道中飲んでいたのだろう。
ミネラル豊富とプリントされた麦茶をゴトウは受け取る。
とっさに受け取ったのか、手に持ったまま飲もうとしない。
「あれ?あれあれ?もしかして間接キスが嫌な感じ?」
「……」
「は~マジつらなんだが~」
1トーン下がった声で悲しみを表現しながら、カリンはゴトウの肩に頭を載せる。ゴトウのほっぺたをつっつきながらチラチラとサングラスの隙間を覗き、目を合わせようとしている。
ゴトウは何もしゃべらない。サングラスとマスクで表情もわからないため、今のこの状況を楽しんでいるのかイラついているのか一切不明だ。
「そんな飲みかけなんかより、ちゃんと運んできてくれたんだろ」
「運んできたー。受け取ってくれてありがと」
「……」
コンテナを叩いてラクが急かしたのでカリンの意識がそちらに向く。
鶴瓶の麦茶はゴトウの手からカリンのもとへと戻った。
一瞬だけだった。
ゴトウの軽くなった右手が名残惜しそうに閉じたり開いたりしたのだ。
その悲しそうな動作を見逃すラクではなかった。
(あいつ……飲みたかったのかよ)
だがその動作だけだった。あとはいつもの得体の知れないゴトウだ。
「みんな!!今日持ってきたのはこちら、でーーーーーーす!!!!!!」
カリンがそう言うと長いコンテナが開く。
中に積まれていたのは、新鮮な水と食料。きれいな服に新しい寝袋だ。
同時に自分たちのところへと降りてきた冷気に、奴隷がとろけた顔をする。中には手のひらで掬って頭からかぶろうとする者もいた。
奴隷たちとラクとゴトウに必要な物資の運搬。それがカリンの仕事である。
陸の孤島と化したラクたちに食料や衣服を届けるために、数千キロの距離をトラックで日々往復している。
ラクとゴトウにはしぶしぶ従っているだけの奴隷たちも、カリンのことは好いていた。
なにせカリンのチートである現代日本の大型トラック【bawitdaba】は冷蔵機能付き。おかげでファクトリーで製造される料理がそのまま届くのだ。
いつの間にかゴトウがコンテナの上に立ち、てきぱきと奴隷たちに積み荷を配分していく。
「ゴトウ~。いつもありがとう。端においてあるの、カダブラがあたしらのためにネットスーパーで買ってくれたやつやから~」
カリンの呼びかけに頷きで答えるゴトウ。それを見てラクは確信する。
あいつ、カリンのこと好きなんだ、と。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「これマジな話。ラクがこっち来てすぐくらい、宮殿に氷が降ってきたんやって」
「氷?」
荷下ろしが終わると、カリンは報告があると言ってラクとゴトウを運転席へと集めた。
「で、あたし堕ちてくるんは見てないんやけど、もうマジでいきなり降って来たらしくって。墜落したんは誰もおらんとこでそれはよかったなって感じ。でもその氷っていうのが、なんと、ユンクァン。ヤバない!?」
「ヤバいなんてレベルじゃないだろ。負けたっていうのか、ビートルバムのNo.4が」
ユンクァンはユキノを仕留めると言ってビートルバムを出て行った。そいつが帰って来た時には氷漬け。
ユキノに返り討ちにされたということなんだろう。
「だからユンクァン今めっちゃ萎えてて、『ユキノを仕留めるまでこの宮殿には戻らん』とか言って」
「でもユキノのチートは超回復だ。リッカみたいな能力は持っていない。仲間だろ、やったのは」
「やんな。それで、もうセブンの人らとかサーティーンズとかとりあえず、宮殿にいる人たち全員集めってなって、フマさんもルビンからワープさせて。まだ会議している。だから、あたしらも早く鉄道通さんとなって話」
その時。3人のスマホ同時に振動した。
ということは全員への一斉送信だ。
会議とやらの結果が出たのかと思いそれぞれが画面を見ると。
そこに表示されていたのはユキノの写真だった。
送信者はイタミ。
そう。タオユエンでイタミが撮影したユキノとその仲間たちの写真だ。
「生きてやがったのかあのクソ野郎。しかも姫とドワーフも連れてやがる」
「え、しかも見切れてるのこれドラゴンやろ。ていうか、このユキノメッチャ盛れてるやん」
「……」
「ああクッソ。ルナがいるじゃねえかよ!俺が殺すつもりだったのに!!」
悔しそうに天を仰ぐラク。
ルナ、ケン、ウララ……タオユエンに派遣されたやつらを思い出してその戦力の強大さを確認する。
都市1つくらいなら絶滅させられるメンツだ。
「こわ~。殺すやって。言葉怖いな~、ゴトウ」
「……」
世界島のど真ん中。
世間から隔離された3人は、ルナたちが敗北するなど予想だにしていなかった。
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私たまたま見に来ただけですねんという方は、また気が向いたら読みに来てください。




