87話 幕間① ロックスター、ラハルにモンスターを討伐させる
70話以来放置してしまっていたフジオウとラハルの話です。
先言っておきますと、ラハルの前世がツガミだった、なんてことはありません。
「トカゲとクモならどっちが好きだ?」
「え~……え~……いやぁ……強いて言うなら、トカゲ……」
「じゃあ、クモか。爬虫類好きって珍しい趣味してんだな。」
「いや、トカゲ!トカゲ!クエストの話ならそうと言って下さいよ!」
トカゲ討伐の方の依頼書を戻しに行ったフジオウをラハルは慌てて止める。トカゲが好きだから狩りたくないのではなく、トカゲの方が嫌悪感が少ないという意味で言ったのに、フジオウに勘違いされてしまった。
ラハルは泣きそうな顔でため息をつく。
あの時奴隷マーケットで変態貴族に売られそうになっていた貧相な私をどういうわけか助けてくれたこの人は得体がしれない。
まるで遠くの国から来たような雰囲気なのだ。
もちろんビートルバムから来たのでそれは当然なのだが、フジオウはそのことも伝えていないし、そもそも自分の名前をゴオマだと偽っている。
「『ジェネラルリザードにキャラバンが襲われる被害が多発。このまま放置しておけば近隣の村にも被害が及ぶ』。ふぅ~む。トカゲ一匹の討伐がゴーレムより上のBランク」
「それはジェネラルリザードが馬を丸呑みするくらい巨大なトカゲだからです……それを私一人……しかもこんなその辺で買ってきた片手剣一本で……スパルタを通り越して拷問主人です……」
耳としっぽを力なく畳ませて、ラハルは馬車に揺られるのであった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
日時は少し遡り。ユキノたちがタオユエンに到着する数日前。
サマルカンの街に滞在しているフジオウは、ラハルに討伐クエストを受けさせると告げた。
それを聞いたラハルは絶望的な顔で絶叫。首がもげるくらい横に振った。
「無理無理無理無理無理無理の絶対不可能!!あ、もしかしてスライムとかですか!?なあんだ、そうならそうと言ってくださいよ~!ゴオマ様が討伐しやすいように弱いモンスターを狩れる力をつけておけってことですね!?もお~びっくりするなあ!」
「いや、単独で。そうだな、俺が今受注できる最高難度のやつ」
「はぁあああああああああ!?ワケを聞かせてもらおうかあああ!!?」
ラハルはつい最近まで体の弱っていた奴隷である。妙にお金持ちなフジオウのおかげでいいものを食べれるため本来の感情豊かさが戻ってきたが、それでもただの一般人。
いきなり独りでモンスター討伐なんて無理な話なのだ。
「悪いがそれはいえない」
「お~~ん!!??」
目が吊り上がったり犬耳が立ったり垂れたりしながら詰め寄るラハルだが、あいにくフジオウは教えることができない。
なぜならあの時奴隷の檻越しにラハルを鑑定して見えたことが自分でもまだ理解出来てないし、説明すると芋づる式に自分の秘密も言わなきゃいけなくなるからだ。
「ただ、でも、でもな、お前、絶対出来るよ。俺が保証する。お前にはその可能性がある」
「だからその理由を聞いてるんじゃい!!」
「あ、そうだ。冒険者ギルドってただで武器貸してくれるらしいぞ。ほらちょうどお前にフィットするサイズの片手剣があった」
「あれはポイ捨てされてたのとかクエスト失敗して死んだ人の武器を適当に箱に入れてあるだけです!!普通誰も使いませんよ、縁起の悪い!!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「地図によるとここら辺がジェネラルリザードの出没地らしい」
「はぁ……ついに到着してしまった……」
背の低い草が点在するとても乾燥した地域だった。赤い岩がぼこぼことして起伏が激しい。
岩の陰か木の上か。どこかで涼んでるのかジェネラルリザードの姿は見えない。
「心配するなって。危なくなったら俺が倒すから」
「うぅ……こんななまくらじゃ闘うも何もないですよ」
「それなんだが」
そういってラハルの持つ片手剣を取り上げるフジオウ。
そして土魔法で錬成したのは砥石。
今や怪奇事件としてまことしやかに語られる「ワルシャの街の皆殺し事件」。
狂ったS級冒険者かハートランドのモンスターの仕業かと様々な憶測が飛び交っているなか、犯人であるフジオウはこの時数百人分のスキルを奪っていた。
そのうちの1つ【鍛冶】を発動。
フジオウ本来のチートスペックによって増幅されたことによって、片手剣は新品当時以上の切れ味を獲得した。
「はあああああああああ!!!!???!?!?!??」
「あと、ほれ」
白目をむいて驚いているラハルに、差し出したのは煙。紫色のそれがフジオウの手の上で滞留している。
「え……なんですか、この紫のモヤモヤ。危ないクスリですか?」
「違うよ。とにかく吸ってみ。吸えば剣の達人になれるから」
「やっぱ危ないクスリじゃないですか!!!」
その時。馬車の動く音が聞こえた。
見ると、恐竜みたいな大きさのトカゲがよだれを垂らして馬を追いかけている。
分厚い鱗の肌に、太いしっぽ。刺々した背びれに長い乱杭歯。赤い斑点模様の表皮。
ジェネラルリザードだ。
「あいつか。ほら、早く吸えって」
「いやああああああああ!!!こっちきたああああああ!!」
馬がよりにもよってフジオウたちのいるほうに逃げてきた。当然ジェネラルリザードもこちらに向かってくる。
ラハルは流石の犬獣人の脚力であっという間に逃亡。
仕方がないのでフジオウは【乗馬】のスキルと【硬化】のスキルを発動。
触れて馬の気分を鎮めた後、そのままジェネラルリザードの下あごと正面衝突。
一歩も後ずさることなく、数トンはあろうかという巨大トカゲを止めた。
「ふんっ!!」
そのまま持ち上げて投げ飛ばす。数十メートル先まで空を舞ったジェネラルリザードは背中から着地してじたばたしている。
「ほら。ラハル、今がチャンスだ」
「も、もはや、ご主人の方が怖い……」
目の前で起きる出来事に思考がついていかなくなったのか、ラハルは大人しくフジオウの差し出す紫の煙を吸い込む。
それはワルシャの街にいた剣士のもつ【剣術】のスキルだった。
しかもフジオウが奪ったことでチート増幅されている。
吸った瞬間。
ラハルの頭に剣の使い方が流れ込んだ。剣術の動きが、理解するというよりも直感で把握できた。
拾って来たこの片手剣も今や数十年連れ添った相棒のように手に馴染んでいる。
「ウソ……なにこれ……わかる……」
「だから言ったろ。ほら、トカゲがキレてるぞ」
人間に投げられたことでプライドが傷ついたジェネラルリザードが雄たけびを上げてこちらに走って来る。
今度はラハルは逃げなかった。
ただ身体に任せて剣を構える。
「せりゃああああああああ!!」
ジェネラルリザードを圧倒しながら、ラハルの心には奇妙な感情がこみあげてきた。
それは懐かしさ。
剣術にではなく、フジオウの煙そのものに。
吸い込んだ瞬間、まるで故郷のようなにおいを感じたのだ。
気づいた時にはジェネラルリザードは動けなくなっていた。
四肢と目を潰され出血多量で息も絶え絶えである。
「よくやった。お前はやっぱり特別だ」
【ロックスター】を発動し、死ぬ前のジェネラルリザードからスキルを奪うフジオウ。
【毒耐性】という便利なスキルを習得しながら、あの時のことを思い出す。
それは檻の向こうで縮こまるラハルを鑑定した時。
平凡以下のステータスが並ぶ中で、末尾に記された特記事項。
おそらく世界の秘密に関わることだから完全には読めなかったが、それでも一言だけ読めた。
異世界転移者******の******、と。
いかがでしたか。
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私たまたま読みに来ただけやしという方は、また気が向いたら読みに来てください。今より面白くなっていること思います。




