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85話 死神の伝言


「……いや、どこだよ……」


 寝心地があまりに悪くて腰に痛みを感じて俺は目覚めた。

 ホームレスに優しくないベンチだ。

 その視線の先にあるのは黒いコンクリート。ガムやタバコが無造作に捨てられていて汚い。その先には線路。これまた中身の入った炭酸のペットボトルが捨てられている。


「地下鉄?」


 それも単線のホームに俺はいる。向こうにあるはずの反対方向行きのホームはなく、無機質な壁が広がっている。

 広告が入るスペースは空で、壁には黒く水の垂れた後がある。

 ベンチの近くに設置されている自動販売機は鈍く光って、プラットホームを照らしている。並んだドリンクは一昔前のものばかりだ。

 何より重要なのは他に乗客がいない。


「無宗教が行く死後の世界がこれなんか?」


 俺が耳刺した羽ペンを引っこ抜いてルナが発した言葉は、【死ね】。

 俺はあいつのチートを跳ね返せずあえなく死んでしまい、クリスマスを祝った後年末にお寺に行き神社に初もうでする有様だったがためにこんな死後ライフを送る羽目になったと?


「いやいやいやいやいやいやいやいやいや。だったら俺の両親だっているだろ。それにもしそうなら戦後の日本人全員送り込まれて通勤ラッシュの再現してなきゃおかしい」


 ビートル人を全員現代日本に送り返すんだろうが、何死んでんだよ。

 そう思い階段に向かう。

 地下鉄のホームには当然ある地上への階段が当然のようにあった。けれどその入り口はシャッターで重く閉ざされていた。


「凹みもしねえ……」


 拳が裂けるくらいぶん殴ってみたが、傷1つつかない。それどころか俺は自分の拳を見て仰天する。

 骨が露出したまま治りも出血もしないのだ。


「死体じゃねえかよ……」


 その時。聞きなれたメロディが聞こえてきた。

 かつて現代日本で毎日飽きるほど聞いたこれは、間もなく電車が参りますの知らせ。

もちろん行先表示の電光掲示板には何も表示されていない。


 やがて風圧を音を引き連れて電車が到着した。

 目の前を通過する鈍い銀色の車両は煌々と明るかった。だがその緑色のシートには誰一人座っていない。

 だが次ホームに滑り込んできた車両に人影が見えた。

 そいつはドアの前に立っていて、この減速具合だとどうやら。

 俺の前で停止する。


「こんちゃ。私は死神」


 お嬢様学校の小学生みたいな女の子は、ドアが開くなりそう俺に告げた。


「死亡確定じゃん」


 死神がそう言うなら俺は死んだんだろ。

 ただ目の前のこいつは本当に死神か?


 その姿はまるで朝の通勤ラッシュにもめげず通学中にまで教科書を開いて勉強するお嬢様小学生。シックな制服と目立つ黄色い帽子。馬革のランドセルは現代日本らしく薄紫色だ。まさに俺が毎日みかけていた小学生のようだ。

 いや、ちょっとまて。本物のお嬢様は車通学か。

 毎日ホームの端に立ってたあの子は、ただ制服の小学校に通っていただけの庶民だったのか。


「私まだ何も言ってない。あなたはまだ死んでない」


 磁器のように白い肌と、血のように赤い唇。真っ暗な瞳。生きてるのか死んでいるのかわからない人形のような死神少女は淡々と続ける。

 俺、死んでねえのか。


「正確には死にかけている。ここは生と死の間。あなたの【ヒーリングファクター】とルナの【ソニョシデ】が衝突して、どっちつかずの状態でここに来た。あなたは今、ネットに弾かれたボール」


 テニスの試合でネットに当たって上に弾かれたボールは、どっちに落ちるかわからない。それは神様が決めること。

 卓球でもそうだな。


「そして、私は神様」

「あ、なるほど。お前が俺の生死を決めるのか」

「決めない」

「なんなんだよ」


 死神は俺の脇を通り過ぎて、自販機でジュースを買った。

 動くんかいこの自販機。

 電車はドアを開けたまま。車掌の姿もなく、無機質な明かりでホームを照らしている。


「私は決めない。試合のプレイヤーじゃないから。決めるのはボールであるあなた。甘くて強炭酸」

「また不健康な缶ジュースを選んだな」


 ケバケバしいデザインのカフェインてんこ盛り飲料を一息で飲み干した死神は缶をポイ捨てして、俺に指を2本立てる。


「選択肢を2つ。ひとつ。このままこの電車に乗って死ぬ」

「なるほど」

「もうひとつは、そこの階段を上って現世に帰る」

「現世に帰る、で」


 いったいどんな選択肢かと思ったら、そりゃ当然現世に帰るに決まってるだろ。

 死神はさっき俺が殴った階段を指さしていて、いつの間にかシャッターが上がっていた。

 

「あの階段上ればタオユエンに戻れるんだな?ありがと、死神」

「最後に、ツガミからの伝言」


 背を向けて走り出した俺に死神はそんな一言を投げかけた。

 振り向いた俺を見つめる死神の表情は淡々としている。


「私が来た真の目的がこれ。彼曰く『フェニックスのように』」

「ちょっと待て。ツガミってあのアシハラの友達か?」


 俺の問いかけに死神は無言で首肯する。

 ってことはセーレパパが召喚した異世界人の1人で、カクラ帝国を打倒した勇者。

 つまり今のビートルバムの元凶。

 そいつが俺に伝言だと?


「伝言って簡潔でわかりやすくないといけないだろ。簡潔なだけで意味不明だ」

「ツガミはあくまでもヒントにとどめたかった。ネットに弾かれたボールはジャンプボールではない。プレイヤーが手繰り寄せられるものではないし、神も見えざる手を差し伸べてはいけない」

「え、ってことは、ツガミって今神なのか?どういうこと?寿命が来て死んだんじゃねえの?」

「ノーコメント。ボールに出来ることはせいぜい風を当てるだけ」


 死神は全く意味の取れないことだけ喋って、電車につかつかと戻る。俺が何か言う前にぷしゅーという音がしてドアが閉まって、電車が動き始めた。

 ノーコメント?神?ボール?

 全く訳の分からないことを言った死神は無表情のままホームを後にした。

 電車の風圧で死神がポイ捨てした缶がコロコロ転がって、線路に落ちた。



 目を覚ました俺の周囲にあるのは羽ペン2本。ぶちまけられたファイル類。散乱した書類の山。


「……戻ってきた」


 死神とやらに言われた通り階段をひたすら上り続けたらやがて光に包まれて、俺はタオユエンに帰ってきた。

 定まってきた焦点がとらえたのは、腕組みして片足に体重を乗せているルナ。

 俺が死んでるのをずっと眉間に皺寄せて見下ろしてたってのか?


 いや。

 そうじゃないらしい。


「そう。死を、乗り越えたの」

「そりゃお互い様のようで」


 なんてことない口ぶりだが、ルナの目から頬には赤い筋の跡がついている。

それに辺りに広がる赤ペンキをまき散らしたような光景。

 何とか髪だけは整えたようだが。


「跳ね返った死じゃ、死神にも会えなかったか?」

「宗教を信じるほど弱くないから。それに、どうってことないわ」

「そうかい。それじゃ……」


 そう言って俺が一歩踏み出した瞬間、ルナは崩れ落ちた。

 心はまだ強かったが、身体はとうに限界を超えていたようだ。





いかがでしたか。

おもしろかった・続きが気になるという方は、ページ下部の☆を押していただけるとありがたいです。

私たまたま読みに来ただけやしっていう方は、気が向いたらまた読みに来てください。

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