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83話 死に至るチクチク言葉

 自分の能力を正確に把握することは大切だ。

 今俺は自分の鼓膜を自分で破って耳を聞こえなくした。

 敵のチートが「自分の言葉に相手を従わせる」能力だから。


 名案だ。

 俺は【ヒーリングファクター】の能力を持っているから、鼓膜は治せる。

 自分の能力を理解していたからできたことだ。


 目の前にいるルナは俺の行動の意味を理解すると、屈辱を受けたように顔をゆがめた。

 発想の勝利だ。

 悔しそうなルナは、それでも能力を使おうする。


 ここで重要なのは、俺の持つもう1つのチート、【全言語理解】だ。


 ルナの口が動く。


「【こ・ろ・べ】」


 その瞬間、俺は由来不明の強烈な力で押し倒され、ノー受け身で床に後頭部をぶつけてしまった。

 壊れた蛍光灯が何重にもブレて見えた。


「間抜けね。あなたのチートは読唇術までも解読してしまう」

「いやもう……仰る通りで。さっきまでのドヤ顔の自分を殴りたい気分だよ」


 自分の声がちゃんと言葉になっているかは聞こえないが、ルナが何を言っているのかは見えた。

 このままじゃ耳を聞こえなくした意味がない。

 だが、耳は塞げないが目は閉じればいい。

 閉じるまでしなくてもルナの口を視界に入れなければいい話だ。


 俺は落ちていた時計を蹴り飛ばす。

 時計は弾丸みたいな速さでルナの右ひざに激突。

 ぼさっと突っ立っていたルナはバランスを崩す。


 なんか口が動いた気がするが迂闊に見てはいけない。

 この異世界生活でどんどん精度が上がっているサッカースキルに感謝しつつ、俺はすかさず間合いを詰める。

 そして左ひざにローキック。

 

 さらに片膝をついたルナの顔面にサッカーボールキック。

 ルナの鼻血が弧を描いて吹き出し、壁から天井への染みとなる。


 今度はルナがぼやける天井を見つめる。

 なかなかえげつない攻撃だが、こいつの【ソニョシデ】は「死ね」と言ったら死ぬ能力なのだ。


「悲鳴が聞こえないのが、せめてもの救いだ」


 いつもいつも、どうしてビートル人を追い詰めるときの俺は悪役にしか見えないのか。

 今回は特にひどい。

 知らない人が見れば女性をDVする男。


 だがルナもやられっぱなしではない。

 速攻で意識を回復させて、グラウンドポジションから蹴りを放って俺をけん制する。

 尖ったヒールが当たって地味に痛い。

 スタンディングポジションのほうが本来は有利のはずなのだが、俺はルナの顔というか口元を見ることができないのでルナの攻撃を把握できない。


「【失せろ】!【失せろ】!【失せろ】!」


 おそらくずっと呟いていたんだろう。

 呪詛みたいに繰り返した【ソニョシデ】を俺は一瞬だけ視界に捕らえちまった。

 途端に体の自由を失い、俺は近くにあるひっくり返ったデスクの裏に飛び込んだ。


「確かに。これでルナの視界から消えたことになるが」


 それだけだ。

 俺はデスクを蹴り飛ばして再びルナの前に立ちはだかる。

 すでにルナはスタンディングポジションを取っていた。

 曲がった鼻筋を掴んで無理やり治しながら、俺から目を離さない。


「根性座ってんな、おい……ってあれ?おい!俺の足!!」


 ルナの目の前で余裕ぶっこいた俺だったが、今度は足が勝手に動いて棚の裏に入り込もうとしている。

 ちょっと待て。こんな隙間に入るわけないだろ。

 頭ではしっかり理解しているのに、身体は【ソニョシデ】を忠実に守ってルナの視界から消えようとしている。

 腕に力を込めてもだめだ。

 それどころか腕まで協力して身体を壁と棚の隙間に身体をねじ込もうとしている。

 やばい。

 肋骨がミシミシ言い始めた。

 だからデスクと同じように棚も破壊する。


「ったく、厄介な能力しやがって!」


 全身の骨のヒビが修復されるのを感じながら、再びルナの前に立つ。

 どんな表情をしているのかは見ていないから分からない。

 ただ見えるのは、顎の下から首すじにかけて流れた血の跡。そして苛立っているのがよくわかる腕組み。


「だが、もう俺が隠れるようなものは無くなった!」

 

 高いヒールを小刻みに揺らしているのを警戒しつつ、俺はルナに近づこうとした。

 その瞬間。

 突如視界が真っ暗になった。

 理由はすぐに分かった。

 ルナが布をかぶせてきたのだ。

 それも人が一人くるまれるくらいの大きな布。

 普段ならすぐさま引きはがせるが、顔を出そうとしてもむしろ俺の手はどんどん布で身体を覆いつくそうとしていた。

 傍目に見れば幼稚園児が幽霊の物まねをしているみたいな滑稽な映像だが、俺は焦っていた。

 視界が完全にふさがれた。


 その瞬間。

 股間に衝撃が走る。

 布の間から見下ろせば、自分の脚と脚の間にルナの足が見えた。

 ルナのヒールが俺の股間を潰していた。


 直後与えられるのは、来るべき激痛をむかえる猶予の時間。

 その一瞬に男はみな神に祈る。

 俺の場合【ヒーリングファクター】で治るのだが、痛みは発生する。

 だから祈った。

 イタミにしたことの報いが来たんだなんていう宗教観が頭をめぐったころ。


 激痛が脳に到達した。

 男に生まれたことを後悔したくなるような苦しみの中、それでも俺は膝をつかなかった。イタミがもだえ苦しむのを見ていたからか、一応女性の前だからっていうプライドのせいか。


(あいつ、女だから容赦がねえ!!)


 女は股間蹴られたからって特別な痛みはないらしい。

 だから男の気持ちなんてわからない。

 布が落ちて目の前に見えたルナは、自分の攻撃のダメージがわかりかねているようだった。

 最も視界がかすんでよくわからず。


「これがジェンダーギャップってやつか……」

 

 という、負け惜しみなのか皮肉なのかわからない言葉を言うのが精いっぱいだったが。


(この状況は、マズい……!)

 

 よほど強い力で蹴り潰されたのか治りが遅い。

 予想外に行動不能の時間が長くなってしまった。

 その隙を見逃すほど、ルナも馬鹿ではない。


 俺の両耳から生えた羽ペンを掴んで。

 一気に引き抜いた。


 途端に戻る音の世界。

 建物の中に吹く風の音。外にいる反乱軍たちの喧騒。

 そしてさらに強くなった雨足。


 それらの懐かしい音の中に、ルナがいた。

 もはや意味がなくなったので正面から見てやったルナの表情は、相変わらず高飛車だったが。

 どこか不安そうだった。


「【死ね】」


 その瞬間、俺は意識を手放した。



いかがでしたか。

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