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81話 恵みか絶望の雨

リッカの中学生の頃のあだ名は「愛人」でした。その母性溢れる魅力に不良はおろか女教師まで中てられてしまったことが命名の理由となりました。

「雨!ウララさん、火が」

「ダイジョーブ。【リンダリンダ】の最高火力だから、雨なんかに負けないヨ!」


これまで白昼夢みたいな眠そうな表情で闘っていたウララが、思いつめた顔で弓を引く。

 ヤマナミを早く助けるために、この闘いで初めての全力を出すつもりだ。


「なんというか、神々しい……」


 ヤマナミの傾いた視界に映る、弓を引き絞ったウララの後ろ姿。

 青い火の矢に照らされて立つその姿はまるで神話の一場面のようだった。


「【リンダリンダ】発射!」


 数千本の青い火の矢が一斉に解き放たれる。ウララたちの周りに漂ってきた熱気がたちまち消える。


「「「「「うわあああああ!!!青い火!!!!」」」」」


 【リンダリンダ】の矢がタオユエンの空を覆いつくすと、街から兵士たちの悲鳴が聞こえてきた。

 リイとセーレの出現、アキナの剛速球などによって、兵士たちの間に逆転できるかもしれないという雰囲気がどことなく充満していた。

 そんな楽観的な希望を空に浮かぶ矢の大群が打ち砕いた。青く燃える矢じりが自分たちに向けられているのだ。


「【リンダリンダ】の青い矢は絶対に消えない。街をすべて燃やし尽くすまで消えないヨ」

「でも雨の勢いがどんどん強く……単なる天気じゃない……?」

「インドラの火、燃やし尽くして!」


 ここに来てから数日ずっと快晴だったのに、いきなりの大雨。

 そのことにも疑問だったが、それ以上に何か引っかかるヤマナミ。

 だがそれが何かはわからない。ただ、とても重要なことを見逃している。

 その感覚はウララも同じだった。だから濡れる髪もいとわず、矢を降下させた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「ねえー!!ロウセエネ!!天変地異!これが噂の天変地異!!!」

「落ち着いてください、アキナ様。何が降ってこようと私の剣が防ぎます……!」


 さっきまでの反乱軍たちのテンションが一瞬にして下がる。

 無理もないことだとロウセエネは思う。今空を覆っているのはサーティーンズの1人、ウララの全力なのだ。


「だってさ!セーレ姉ちゃんもこっちおいで!!」

「ははあ。この剣、だいぶ酷使しましたね」


 ロウセエネの裾にしがみついて手招きするアキナと、いつの間にか彼の背後にいて剣をチェックしているニコ。

 だが、呼ばれたセーレは。


「……そんなに焦らないで。この雨、普通じゃない……」


 あっという間のゲリラ豪雨の中、セーレは手のひらに貯めた雨水を興味深く見つめる。


「この雨、魔力の含有が異常に高い。それに何より……」


 土砂降りの中セーレが見上げた空は、青く晴れていた。

 雨雲ひとつない空から大量の雨が降り注いでいた。

 セーレが試しに雨を口に含んでみたのと、ウララの青い火の矢が降り注いできたのは同時。


「セーレ姉ちゃん!!早くぅ!!」


 味見した瞬間セーレはすべてを理解し、安堵した。

 そして縁から身を乗り出して目を凝らす。

 一連の流れを仕組んだであろうソコルルの奥、沖の方で見つけた。

 ミリゥが天に向かって水流を吐いていた。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「そんナ……どうして……アリエナイヨ。なんで私の火が消えるの……」


 雨の中を突き進んだウララの矢が雨粒に触れるにつれて徐々に小さくなっていく。

 何本撃とうと誰も何も燃やすことなく空中で鎮火され、絶望的な兵士たちの上で霧散してしまう。

 本来ならば、雨粒など蒸発させて突き進むのがウララの青い矢なのだ。


「それが、ドウシテ……」


 目の前の現実が受け入れられず、呆然と立ち尽くしていた。

 最初にこの豪華な別荘に転移してはしゃいでいたウララは見る影もなくなった。


「こんな、こんなこと初めて。どうしよう、私」

「ウララさん、海です。海に神獣の反応が。そいつがきっと何かしてるはずです」


 ヤマナミに言われて沖に目を凝らすと、そこには天に向かって水を吐くミリゥがいた。


「ヤマナミちゃん。これ雨じゃないよ……海水だよ。神獣の攻撃だよ。ユキノはどうやってあんな怪物を手懐けた!?この状況でどうして誰からも連絡ナイの!!?」


 頭を抱えながら叫んで途方に暮れるウララ。何ができるわけでもなく、ただ右と左を往復するだけだ。

 その様子を見てヤマナミは、初めて自分の死を感じた。

 スマホの電源が10パーセントを切っていた。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「ふぅ~。人前で大口を開けるのははしたないですけど、でもこの背徳感は正直、クセになりますの」


 恥ずかしいやらでもそれが気持ちいいやらでクネクネするミリゥ

 あの時たくさんの雨をタオユエンに降らせてほしいとソコルルにお願いされたので、水をたくさん吸って大きく吐いた。

 ミリゥの体内を通っているので海水には神獣の魔力が混じっている。


「……たくさん、とはどれくらいのことをいうのでしょう?私聞き忘れてしまいました。う~ん、人間の言うたくさん……。リヴァイアサンの感覚で行うとまたユキノさんに怒られてしまいそうですの」


 そう言ってミリゥは独り首をかしげる。

 この時点ですでにタオユエンの街の排水量を若干オーバーしているのだが、そんな現状もよくわかっていない。

 だからもう一発吐けばいいのかどうか迷う。


「なんか、ミリゥ悩んでるっぽいよ」


 ミリゥがくるくる回っているのを見てリイも彼女が判断に迷っていることに気づいた。

 そばにいるソコルルもミリゥの回転を目で追う。


「……動きながら考えるタイプのようだね。もう僕のしてほしいことはしてくれたから撃たなくてもいいんだけど」

「でもあの顔は、街が洪水になりかけてるのにもう一発撃ちそうな顔だよ」


 くるくる回りを止めたミリゥはもう一発撃つことに決めたらしい。周りに魔力が集約していく。


「ちょっと止めてくる。ここはもう任せていいかな」

「うん。もうほぼほぼ、終わってるし」


 雨の中を飛んでいくソコルルを見送って、リイはビルの縁から下を覗く。


「おい!どうなってんねん!!もう嫌んなってくるわ!!!」

「凍らせても凍らせてもキリがないよ~!!!」


 でたらめな方向に発生するブリザードと、ひたすらビルの周りを走り回るフェンリル。

 彼らの目に映っているのは、リヴァイアサンとドラゴンの大群だ。

 それはリイの緑の魔眼による幻覚で、ケンとリッカとネルは四方八方から大小さまざまなリヴァイアサンとドラゴンに攻撃を加えられていると思い込んでいる。

 地面をリヴァイアサンが泳ぐなんてあり得ないが、それを疑問に思わないほど緑の魔眼が効いている。


「クソクソクソ!!!どんだけ援軍呼んできたっていうねん!!海の彼方までおるやんけ!!もう泣けてくるわほんま!!!」

「そかそか、あの氷女の氷に反射させたから、その分魔眼の威力が上がってるのか」

「ウェーイ!!ウェーイ!!火炎放射ウェーイ!!!」


 自分の魔力が予想外に効いている理由を呟きながら、とても楽しそうにケンたちに向かって火を吐くヒータンを目で追いかける。

 実際に攻撃されている感覚がないと万が一幻覚が解けてしまうこともあるので、こうしてヒータンが攻撃を加えている。

 そして、うまく攻撃の方向を調節して延々とビルの周りを回らせるように。


「ビートル人を追いかけまわしたなんて一生自慢できるっす!とことんやってやるべし!!」


 もうすでに数十周もしているためにネルは疲労困憊し、舌をだらしなく垂らして足取りもおぼつかなくなっている。

 乗っているケンとリッカも魔力が付き始めているし、ヒータンの火炎で服や髪が焦げ始めている。

 彼らが力尽きるのも時間の問題だ。


「……あとはユキノだけ、頼むから勝ってよね~……」


 タオユエンの反乱は最終局面を迎えていた。

 残る闘いはユキノvsルナ。

 ビートル人との闘いは全員を倒し切るまで油断ができない……!




いかがでしたか。

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私たまたま読みに来ただけですねんという方は、また気が向いたら読みに来てください。今より面白くなっているはずです。


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