78話 異世界の男は全員、死刑
リッカのチート【Straight Outta Compton】は、周囲のものを凍結させたり氷を生み出したりする能力です。 自分が氷になって攻撃を受け流す的なことはできません。
「それくらいお安い御用ですわ。今度は人間が流れないように気を付けますの」
ソコルルのお願いを二つ返事で引き受けたミリゥが海のなかへと消えていった。
後に残ったのは散らかった港と、静かな水平線。
「静かに眺めてみれば、きれいな景色じゃないか」
ヤシの木が植わる海岸に白い砂浜。
何より照り付ける太陽。
桃をつまみながらのんびり横になりたいものだ。
殺風景なハートランドではお目にかかれない風光明媚さに、ソコルルがそんなことを考えていると。
「今度は泥でべとべと~、でも水分があるなら私の出番かも」
ふわっとセットした髪も戦場に行くとは思えないオシャレな服装もすっかり泥にまみれてしまったリッカだが、砂に水分が含まれたのは彼女にとって有利だった。
「【Straight Outta Compton】この泥をすべて凍結させる」
自分たちにまとわりつく泥が全て凍る。
どっちにしろ動けないのには変わりないが。
「よっしゃ。固体ならやりやすいわ。おい、ネル!何埋まってんねん!いくで、風や!!」
もがきすぎて犬神家と化したネルの尻尾をケンが引っ張る。
すると巻き上がる竜巻。
凍った泥をすべてシャーベット状に粉砕して、ケンとリッカはようやく脱出することができた。
「ったく、えらい目にあわされたで。おい、ドラゴニュート!おどれただで帰れると思うなよ!!」
自由になったケンの怒りが爆発する。
「ま~ま~ケンくん。冷静にならないとさ~」
肩を怒らせるケンをなだめるリッカだが、すでに周囲の気温が氷点下近くまで下がっている。
のんびりした口調をしているが、リッカも内心ブチギレている。髪についた泥を手櫛で取っては地面に叩きつけて、取っては叩きつけている。
そんな様子を見たソコルルは。
「僕のおかげ命拾いしたっていうのに、生意気なビートル人だ」
牙を見せて唸るネルに、リッカを中心として広がる凍結のテリトリー。
1対3の不利な状況を前にソコルルは侮蔑の態度を崩さない。
つい最近ユンクァンに全く歯が立たず翼を引きちぎられたばかりだというのに、何か秘策があるというのだろうか。
「なんやて?なあリッカ、ドラゴニュートって異世界人語ちゃうんか?」
「人に、う~ん、よるんじゃな~い?」
リッカとケンのこの会話を聞いてソコルルはハッとした。ああそうか、ユキノと違って大抵のビートル人はビートル語と人間語しか喋れないんだった。
「闘る気ならやってやるが、仲間が心配してるんじゃないか?」
「はん?」
ケンたちが一瞬気を取られた隙に、大量の砂を巻き上げて2人に浴びせかけるソコルル。
その間に空へと逃走した。
「うぇ~せっかくキレイにしたのに~なんなのあいつ~」
「おい、お前逃げるんか!!」
そう言って顔を上向けたケンとリッカの目に。
ソコルルの砂が降り注ぐ。
「ああもぅ~いい加減我慢できないよ!」
「何やねん!ほんまなんやねん!!おい、ネル!!跳べ!!あいつ、どつきまわすぞ!!」
ついに冷静さを失ったケンとリッカがネルに乗っかりソコルルを追いかける。
ビルとビルの隙間を潜り抜けながらソコルルは考える。
「フェンリル使いのケンに氷のリッカ。それにどこかにウララもいるんだろう。こんな状況で正面から闘う真似なんてするわけないだろ。この闘いの目的はビートル人の制圧。手段は問わない」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
全然うれしくねえな。
90分間こんなことされるために2万そこら払うおっさんの気持ちが理解できない。
「まあ、お前にサービス精神がないからってのが一番の理由だろうが」
「何を言ってるのか理解できないのだけれど、私の頭が悪いのかしら」
誰もお前の頭が悪いなんて言ってないのに、ルナはヒールにさらに体重をかける。
頭蓋骨に穴が開く心配はないが、このままだと地面とキスするのも時間の問題だ。
それにドMでもないならいつまでも土下座で足蹴にされている理由もない。
俺はルナの足首を掴んで頭から引き離して、立ち上がる。
ルナのチートは相変わらずかかっているが、抵抗できないほどじゃない。
「そう、あながち非力でもないのね。けれどそれだけ」
俺の手を振り払って体勢を立て直したルナに評価してもらう。
なんというかこいつ、負けず嫌いだな。
いやもっと強い思想か。
「それで、あなたは一体どういうつもりでここへ来たのかしら。異世界で友達が出来たからって調子に乗って私たちにも勝てると思いあがったのかしら?」
「フルーツが、欲しかったんです」
俺の正直な答えに対し、ルナは眉根を吊り上げる。
絶対嘘ついたと思われたじゃん。
「嘘は時間の無駄だからやめてくれる?まあ、バカな男の考えることなんて聞かなくてもわかるのだけど」
「いや、嘘じゃ……」
「おおかた姫に色仕掛けでもされたんでしょ。まったく単純。どうして男が社会を回しているのか理解できないわ。それはさておき、彼女たちも問題ね。苦しいときに男を頼るなんてむしろ彼女たちこそ女性の敵」
「そもそも嘘じゃないって……」
おい、俺の話が全然届かねえぞ。
【全言語理解】効いてるよな?それとも日本語忘れちまったか?
「……つっても、どのみち正直に言ったところで『はいそうですか』って帰してくれるわけでもなし」
「まあそれでも、カクラの姫を助けに来たのは紳士的で称賛するわ。欧米の男性を見習って、あなたたちも女性の権利向上のために改善を尽くすべきよ」
「欧米か。なら、ユーゴスラヴィアでもいいか?」
「……私はマジメな話をしているの」
おっと。ようやく自分の世界から帰って来てくれた。
ルナ。
ナンバーがいくつかは知らないが、凄みがユンクァンに匹敵する。
それに、自分の言葉に相手を従わせる能力はかなりチートだ。
「私の【ソニョシデ】をもってすれば、あなたを屈服させることなんて造作もない。だけどそれじゃダメなの。服従させるだけじゃ、それは男が女にしてきたことと同じ。私たちが欲しいのは自主的な奉仕」
「そいつが男だろうが女だろうが自分より優れているやつに従えばいいんじゃねえの?ていうか、片方が奉仕するんじゃ男女平等にはならねえだろ」
「……」
【ソニョシデ】ていうのか、こいつのチート。
どいつもこいつも気取った名前つけやがって。
そんなことより。うっかり反論したらルナのやつが黙った。爪を噛みながら恨めしそうにこちらを睨み付けている。
(キレたか……?)
メリケンサックに力を込めて警戒する。声が能力なら、距離を取った方がいい。遠くなれば声は小さく聞こえる。
「そうね……あなた個人の態度を先に尊重すべきだったわ。それがディベートだもの。そう、私たちがしているのはディベート」
そう言ってルナはひっくり返った椅子を整えて、脚を組んで座る。
まるで女王様だ。そして俺は下僕。
イメクラM性感かよ。
「いや、別に、個々の思想が違うのは当然だ。ディベートって言われてもな……俺の目的はお前らビートル人を全員、現代日本へ送り返すことだ。まだ方法はわからねえけどお前ら全員を元の世界に追い返して、セーレたちの国を元に戻す!!」
明らかな宣戦布告。
ビートルバムの幹部相手に、「お前ら全員倒す」って言っちまったんだからな。
だが俺の主張はいわば、不法移民を強制送還すると言っているのと同じ。
「そう……そんなこと言われたら、ますます見逃すわけにいかなくなったのだけれど」
「ああ、わかってる」
「フェアであるために、私の結論もあなたに言っておくわ。真実を学び多くのことを経験して、ようやく出した結論」
「是非聞きたいな」
「異世界の男は全員、死刑」
まるで当然のことのようにルナは言い放った。
その表情には一点の曇りなく、眼は澄んでいた。
「そんなこと言われちゃ、絶対にここでお前を潰さざるをえなくなった」
そして気づいた。
敵を目の前にしてどうして椅子なんかに座ってディベートなんて言い出したのか?
椅子が大切なんじゃない。
椅子に座るという行動は、注意をそらすため。
自分の攻撃を強化する道具を取り出すための。
「力はあるようだけど、それだけ。馬鹿な男の考えることなんてみんな同じ。私が自分の能力の弱点に気づいてないとでも?何の対策もせず、この戦場に来たとでも?女は常に男より愚かであれと?」
「クソ……!メガホンなんていつの間に……これじゃあ射程距離なんて関係な……!」
「【爆ぜろ】!!!!!!」
いかがでしたか。
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