76話 土下座させられたうえにヒールのカカトで踏んづけられる
ヤマナミの服装は特に変哲の無い普段着です。トレーナーにコンバースのオールスターみたいな感じです。タオユエンは暑いのでトップスはデカめのTシャツになってます。ニューバランスの黒を履く日もあるみたいです。
コロアネデパートの屋上に掲げられたソングⅡの国旗を撃ち抜いた火の矢。
そして矢継ぎ早に振る火の雨。
ウララの【リンダリンダ】だ。
「撃ち抜いたヨ。いったいどこの馬の骨?」
「ほんとに……生きていたんだ……」
ヤマナミのスマホにのみ搭載された高倍率ズーム。
そのカメラがとらえたのは、ユキノの顔。
「うげ。イタミが負けてる。49番、強いんだ」
「アラ。とてもかわいい」
「ああ見えて男ですよ」
「わかってるヨ?」
ユキノのいないところでお決まりのやりとりをするリイとウララ。
ただし、ウララはユキノが男なことをわかったうえで言っていた。
「彼の【チート】は何?」
「【ヒーリングファクター】」
「アララ、それはそれは……」
ルナもこれを聞いた瞬間顔色が変わった。同じくウララも、何か考えを巡らせているような表情だ。
彼女たちの頭にあるのはユキノのチートが自分たちビートル人にかけられた呪いを解くカギだということなのだが、そのことを教わっていない新入りのヤマナミたちは一体ユキノの何がそんなに重要なのかわからない。
「ヤマナミちゃん。この戦争はどちらが勝っても、戦局が動くヨ」
「私の背中で何してんじゃあ!!!」
ヒータンがそう叫んで、背中の上のルナに噛みつく。
マチェーテみたいな牙が身体に突き刺さった高飛車な女は、ドラゴンの背中から近くのビルに投げ飛ばされた。
すさまじい勢いで衝突し、ルナは瓦礫の中に見えなくなった。
「うっ、はぁ……!と、解けた……!ありがと、ヒーちゃん。ルナのやつ、私の目にヒール刺すつもりだった……!魔眼で幻覚見せてよかった……!」
俺の耳には言葉として聞こえるヒータンの怒りも、普通の人間からすれば龍の咆哮だ。
ヒータンの近くにいた気の弱いやつが気絶していた。
俺は氷の壁に飛び乗って足に魔力を込める。
「セーレ!!ソコルル!!ここは任せた!!」
客観的に見れば、まるでマンガのリーダーみたいな物言いで照れくさい。
だが俺はそんなことも構わず、込めた魔力で一気にヒータンの背中まで跳躍。
刺された左肩からの出血で、リイ服には血の染みが広がっていた。
かなり深くて俺の回復魔法じゃ止血にしかならない。
「まさか、ルナがいるなんて……あいつの言葉には人を従わせる力がある」
「無理して喋るな、動脈が傷ついてるかもしれない」
セーレじゃないと治せないな。
「おい!アキナ!!」
「なに!」
どこか気の抜けたリイとは違い、はきはきした口調だ。
リイとよく似た外見だが、目は少しきつめ。
得体の知れない俺のことを見て、余計にきつい顔になっている。
「セーレんとこまでお姉ちゃん連れてってやれ」
「………うん!!」
じろじろと俺のことを上から下まで見た後、元気よく返事した。
どうやら観察の結果怪しくないと判断したらしい。
「確かに、リイ皇女……ご無事そうで何よりです……」
向こうから走ってきたおっさんが恭しくリイにお辞儀する。
って、うお。
でっけえ剣。
「それで、お前。セーレと言ったのか……!?セーレ王女まで連れてきたとはお前は一体……!?」
「後で説明するからとりあえず従ってくれ。強いんだろ、あんたも」
突然現れて世界の姫2人を伴った俺に大剣のおっさんは興味津々だ。
一から敬意を説明してもいいけど、それだと俺がビートル人なのを言わなきゃいけなくなるから、確実にややこしくなる。
「大丈夫、この人味方だから」
リイの一言が後押しとなってアキナと大剣のおっさんがヒータンの背に乗り、コロアネデパートへと向かって行く。
俺はルナを探すために、衝突してできたクレーターからビルに入る。
中はオフィスフロアだったようで、荒れ放題だ。
しかしこのオフィス、なんというか。
外は現代日本風の高層ビルだが中は異世界風。
何をもって異世界風なのか自分でもわからないが、木の机に羽ペン、床中に散乱しているのは紙というより羊皮紙。
ファクトリーのリイとかヒャクイチがいたところは現代日本風だったけど、ここはなんだ、ローカライズか?
「【動くな】!!」
「うっ!!!」
その声が聞こえた瞬間、身体が硬直。
なるほど。これがルナの【チート】か
「無能のあなたが、どうやってユンクァンから逃れたのかとても知りたいのだけれど」
「だったら心臓にヒール刺すなよ」
天井にでも張り付いてやがったか、上から降ってきてミドルキック。
俺の心臓にヒールのカカトを突き刺してきやがった。
「【ヒーリングファクター】に覚醒したのは真実のようね」
「ところで、何でヒータンは動けた?」
人の身体で勝手に実験しといて自己完結しているところ申し訳ないが、俺の質問に答えてくれないかな。
一定範囲内のやつらを強制的に従わせる能力なんじゃねえのか?
「スぅ……【ぎゃおおおおおおおおおん!!!!!!!】」
「う、ううううおおおおおっ!!!」
俺の質問は一切無視してその代わりに大声を浴びせてきた。
単なる大声とは違う、リアルな重みのある衝撃が俺の全身を襲う。
そのままオフィス用品と一緒に窓際まで吹き飛ばされて、もう少しで落下しそうになった。
「あ、あぶねえ……落ちるところだった」
「【跪け】!!」
ルナの命令通り俺は強制的に地面に這いつくばる。
そして後頭部に尖った重み。
ルナのヒールで踏みにじられている。
「弱者オスの分際で次私にタメ口きいたら潰すぞ!!てめえなんざ能力がなかったら問答無用で潰してんだよ、わかったかゴルァ!!」
「きゃー!アキナちゃん。おっきくなったねえ」
「セーレお姉ちゃんもいるぅ!!夢みたーい!!!」
誰にも襲われずにヒータンたちは帰って来れた。
道中でビートル人に襲われるかと警戒していたのだが、そんなことはなく。
「ロウセエネ大将。ご無沙汰してます」
リイの傷をあっという間に治癒したセーレにロウセエネは驚く。
宮廷魔術師を凌ぐレベルだ。
いきなり現れた少年に言われるがままドラゴンに乗ってきたら、言われた通りセーレ王女がいて、それも結構元気そうだ。
一応敵国の姫ということになるのだが、ロンドとカクラは人間界の2大国なので一概に敵とも言い切れない。
「ああ……セーレ王女も……ところでこの壁は……」
ヒータンに乗ってコロアネデパートに向かう途中、屋上に爆速で壁が建設されるのをロウセエネは見た。
セーレの鎖にこんな能力はなかったはずだ。どうやってこんな早業をやってのけたのか。
「早さもさることながら、材料の調達はどうやって……?」
「私じゃなくてニコちゃん」
セーレが指さす先にいたのは、ドワーフの少女。
縛り上げられたビートル人の道具を奪い取って何かしている。
「これは何でしょうか……通信手段……いやもっと多機能な。私がいた時にはなかったものです……」
「集中してるみたいだから後にしましょう。あっちにドラゴニュートのソコルルが」
「ドラゴニュートまでいるのか……いったいあの少年は何だ……?」
セーレが探すものの、屋上にいるのはこれで全員だ。
「あれ?えっと?」
いかがでしたか。
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