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74話 空から姉

ケンのチート【Who Let the Dogs Out】は、フェンリルとなった飼い犬ネルを従える能力です。

「【動くな】!!!」

「うぐっ!?か、からだが……!」


 大剣を振りかぶった状態から一歩も動けなくなったロウセェネにルナが回し蹴りを食らわせる。

 高いヒールを履いたルナの一撃が、ロウセェネのわき腹にめり込んだ。


「耐久力だけは認めてあげるけれど、あなたに私を倒すことは不可能よ」

「なんてこった……ロウセェネさんが、手も足も出ねえなんて……」


 一方的な闘いに反乱軍の間から絶望の声があがる。


 あの後、両脇をふさがれ背後に火を放たれたロウセェネ部隊は前進を余儀なくされた。

 その途上でアキナを探していたルナと遭遇。

 そして戦闘。


「もしもし。ヤマナミさん。そちらは相変わらずかしら。ええ、ところで大きい丸なのだけれど、そう、ほとんどいないわね。総数の方は、失礼、【吹き飛べ】!!!!!!……そう、1万くらい。それならもうすぐ終わりそうね」


 元カクラ軍大将との闘い中に電話をかけるルナ。そこに反撃を加えようとしたロウセェネだったが、【ソニョシデ】によって言葉のとおり吹き飛ばされた。 


「あなたってば相変わらず、剣を振り回すことしか知らないのね。よりにもよって相性最悪の私と出会ったのが運の尽き。消えなさいカクラの残党」


 そう言ってルナが【死ね】の2文字を発しようとしたその時。

 ルナの左側頭部に剛速球が命中。

 衝撃でルナが片膝をついた。

 どろっとした血がルナの顔面を流れていく。


「残党だけ消して何になるっていうんだ、小娘が。カクラの希望はまだ消えちゃいねえぞ……!」


 ロウセェネがその巨大剣を振り上げる。

 すさまじい重量の衝撃にルナはゴルフボールみたいに吹っ飛んだ。


「最初から俺は時間稼ぎだ。アキナがお前の射程圏外に出るまでのな」

「Foooooooooooooooooooooo!!!デッドボーーーーール!!!試合終了!!!!!」


 遠くのビルからアキナの歓喜が聞こえる。

 それを聞き逃すほどルナも素人ではなかった。


「【ぎゃおおおおおおおおおん】!!!!!!」


 自分に乗っかった瓦礫ごと大声で吹き飛ばす。

 チートと魔力で具現化したルナの大声は、勢いそのままにアキナのいるビルに衝突。


「うおおおおおおおおおお!!!?ビルが!ビルが!ロウセェネ!ロウセェネええええええ!!」


 猫みたいなすばしっこさでひっくり返る床と崩れ落ちる瓦礫を跳び歩いたアキナだったが、やがて瓦礫の中に見えなくなった。


「死んだか!クソガキ!!」


 顔面の半分を血で濡らしながら、怒りを言葉に乗せて吐き捨てる。


「貴様ああああああ!!」


 ルナの無礼な物言いに激昂したロウセェネが大剣を横薙ぎにして斬撃を飛ばす。

 だがそれをルナはヒールのかかとで受け止めて、蹴り飛ばして明後日の方向に受け流した。


「【潰れろ】!!!!!!!」


 瞬間ロウセェネの全身が見えない力に押し付けられる。魔力で押さえつけられているわけではないので、腕を突っ張っても無駄だ。

 肺から空気が抜け出して、悲鳴みたいな声が漏れた。


「さすがは元大将といったところかしら。といってもカクラ軍は女性の指揮官が少ない遅れた組織だったけれど」

「何の話だ……。今更、過去の栄光か……」

「だから潰したっていう事実の話なのだけれど」


 頼れる武器も今は自分を圧殺する重しだ。

 魔力障壁を展開して何とかルナのチートに抵抗しているが、それも時間の問題。

 足の指が耐え切れずひしゃげ始めて。

 顔が半分、土に埋まり始めている。


「……何の音だ……?」

「幻聴なら少し黙ってくれる?……グループ通話?」


 さっきからずっとスマホが振動しているので取り出して見れば、ヤマナミから全員へのグループ通話だった。


『あ、出た!ルナさん、すぐ避難してください!!リヴァイアサンが!津波を起こしてやってきました!!』

「は?」

『もう港に到達したのに、勢いがやみません!内陸までいきます!!』

『僕とイタミはビルに上ったから大丈夫。でもケンとリッカ』

『それで、ケンさんとリッカさんが沿岸に……!』

『俺らもう間に合わんわ!!リッカの氷でどこまでいけるか……』


 そう叫んでケンが退出した。

 最後の画面に映っていたのはケンの必死な顔とその後ろで大波を凍結させているリッカ。


「いったいどういうことかしら……」


「「「「「「逃げろおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」」」」」


 見ると、反乱軍が海のほうからこちら側に走ってきた。

 みんなルナへの恐れなど忘れて、その奥の巨大な波から逃げるのに必死だ。

 大波が何もかもを飲み込んで、こちらに迫って来る。

 木々を、船を、家を。

 その合間から見えるのは憤怒に燃えるドラゴンの顔。


「ロウセェネ!!説明しなさい!!」


 足元で伸びているロウセェネを蹴り飛ばし、胸ぐらをつかんで問いただす。


「リヴァイアサンはカクラと交流があったでしょ!そのコネクション!?」

「そんなわけないだろう……お前らの犬とは違う神獣だぞ……」

「だったらなんで……!!ああもう!!!」


 コロアネデパートに船が突き刺さった。

もうすぐここまで波が迫って来る。

 ルナはロウセェネをもちろん見捨てて、高台へと避難した。



「てめえええええええ!!!ミリゥ、何してくれてんだコラァ!!」

「ひっ!お、お許しくださいませ!我ら海を統べるリヴァイアサン族、海を好き勝手するのは許せませんの」

「波はゆっくり引けよ!さらわれるときが一番被害大きいんだ!」


 言う通り、ミリゥはゆっくりと波をひいてくれた。

 飲み込んだ木や家や人を海に引きずり込まないように。

 あの後。

 ミリゥが吹っとばしたイカダを止めるために、俺とヒータンとソコルルがセーレの鎖を引っ張って勢いを殺した。


「さてっと。元気かお前ら」

「んああああ!」

「マジでビビったあ。魔眼は自分に効かないもん。内心バックバクだったよ」

「鎖投げたの察してくれてありがとう、ユキノ。ヒータンもありがとねえ」

「あの姫様、危なすぎるだろう」


 逆さになったイカダからニコを引っ張り出すと、そのドワーフの怪力で投げ飛ばしてくれた。

全員の無事を確認した俺は周りを見回す。

 見渡す限りの荒れた街。


「あーあ、控えめに言って大惨事。我が国はしーらねっと、ビートルバムとリヴァイアサンとの外交問題だこれは」


 燃えた家にひっくり返った馬車。

 看板という看板が飛び散っているし地面はめくれ上がっている。

 ……てかこのビルを取り囲む氷の壁なに?

いかがでしたか。

おもしろかった・続きが気になるという方は、ページ下部の☆をクリックしていただけるとありがたいです。

私たまたま読みに来ただけですねんっていう方は、また気が向いたら読みに来てください。

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