70話 ロックスター、奴隷の女の子と服買って飯食う
ロックスターことフジオウさんは現代日本にいた頃、勇気を出して裏路地の服屋に入ってウン万円もするシャツを買ったことがあります。オシャレすぎてクローゼットのどの服とも合わなかったそうです。
―ビートルバム サマルカン-
「ここだな」
タブリーとは比べ物にならない大都市のサマルカンの喧騒に疲れながらも、フジオウは目的の店に辿り着いた。
「服屋だよな?看板に絵がないからわからん」
「え、ええ。結構高いところですけど、買うんですか?」
首をかしげるラハルはまだ奴隷らしい服装をしている。
ズタ袋みたいな貫頭衣を一枚着て裸足。それを特に問題とも思っていない。
「いや、俺じゃなくてお前の」
「…………………ええええええええええ!!????」
目ん玉が飛び出そうな勢いで絶叫するラハル。
「ど、奴隷にこんな高い服を着せるなんて、ご主人、も、物好き……。物好きを通り越して、変態。新種の変態」
「おい、こんな街中で変態呼ばわりするな。貧相だろ、そんな恰好」
あの後。
独りでタブリーの街を後にしようとしたフジオウをラハルは必死に追いかけ、旅に付いてくことを認めさせた。
フジオウはまさかラハルが自分についてくるとは思っていなかった。そんな自信はなかったのだ。
サマルカンに来たのはラハルのアイデアだ。
タブリー近郊のでかい都市ということでラハルが提案、フジオウは方角さえ怪しいレベルだったので言われるがまま。
「ま、ということで入るぞ」
「は、はい」
偉そうな口ぶりだがフジオウだって現代日本にいた頃はこんなオシャレな服屋に足を踏み入れたことなんてなかった。
アパレル?ブティック?
入店した服屋はそう言った方が正確だ。
「いらっしゃいませ。冒険者の方ですね。本日はどういったものをお探しで?」
「いや俺じゃなくて、ラハル」
異世界でも服屋の店員てのは話しかけてくるものなんだなとうざさを感じながら、そばにいる女の子を示す。
「はぁ……奴隷に服、ですか……」
プロフェッショナルらしく表情は変えなかったが、その瞳の奥には侮蔑が見えた。
この客儲からねえな、って浅い問題でもなさそうだな。
「奴隷じゃない。腕輪がないだろ」
「あ~、確かに。失礼しました」
棒読みの謝罪だけ言って、店員はそっぽを向いて離れて行ってしまった。
ラハルとフジオウは入り口に取り残され、後からやってきたお客さんと肩がぶつかった。迷惑そうに舌打ちさせた。
(おい、ほんとにこの店って高いところなのか?)
(あの店員が失礼な理由は、むしろご主人の格好です。一般冒険者の格好だから見下されてるんです)
フジオウが着ているのはワルシャの町にいたゴオマから奪った冒険者の服だ。
言ってしまえば、見た目が田舎者の新人冒険者なのだ。
そして横にいるのは奴隷と見紛うほどみすぼらしい獣人少女。
そんな底辺はこの店じゃ相手にされない。
「要するに、客扱いされてないってことか」
「居心地が悪いです……か、帰りましょう」
「別に、出てけって言われたわけじゃないだろう」
委縮して小さくなっているラハル。
だがフジオウは不敵な笑みを浮かべ、店の真ん中にあるマネキンに近づいた。
木偶人形が着ているのは黒いマント。
服に疎いフジオウが見てもわかる。
この商品が一番高い。
「これくれ」
フジオウがレジに持っていく。
店員が怪訝な顔になる。
「『こいつ払う金あるんか』って顔してやがるな。あるに決まってるだろ」
そう言ってフジオウがポケットから出したのは手のひらいっぱいの金貨。
その瞬間、店員の目の色が変わる。
「そんなこと思っておりませんよお。お買い上げありがとうございます。お連れ様の服はよろしかったでしょうかあ」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ふむ、味がしないな」
「それは……トッピングを何も注文してないからです……」
ラハルが落ち着かない様子でツッコんだ通り、フジオウはランチを適当に注文した。
結果提供されたのは、小麦粉を生地にして焼いたナン的なもの。
わずかな塩味があるだけのモサモサした異世界ナン、チャパンは食べていて退屈だ。
「チャパンは普通、こうやっていろいろ付けて食べるんですよ」
「なるほど」
対するラハルが注文したのは、チャパンのセット。
ヨーグルト的なものとハーブで煮込んだ肉が添えられている。
フジオウは隠してるつもりだが、羨ましそうにしているのがラハルにはバレていた。
「……追加します?」
「お願い」
「うーん……お願い……。えっと、この辺が肉で、こっから下が魚系です」」
自分は奴隷なのだから命令でいいのに。
そう何回か伝えられても、フジオウはラハルを対等に扱う。
曰く、「現代日本に奴隷制度がないから」
「ところでご主人、お金持ちなんですね」
あの後。
フジオウは一番高い服を勧めたのだが、ラハルは強めに首を振って拒否。
そこそこの値段のものを選んだ。
いかにも中世ヨーロッパらしい服装だなとフジオウは思った。
ただ具体的にどこの国かと言われるとわからない。
「私こんないい服着たことなかったです。それにあんなにたくさんの金貨も初めて見ました。ただ、どこであんな大金を?」
「あぁ、この前ソロでゴーレムを倒したんだ。その賞金」
これは嘘だった。
本当は、肩をぶつけてきた客のポケットから【ロックスター】で奪ったのだ。
ゴーレムを倒したお金ではラハルの服しか買えない。
マントの値段は奪った金貨のほぼ全てだった。
「へえええ!ご主人、強いんですねえ!」
「まあな」
「よかったですぅ。てっきり私、ご主人様がどっかで強盗してきたのかと思って。だったら私、付いていく人を間違えたことになるから」
「はっはっはっ………………」
ぎこちない笑みを浮かべながら、チャパンをちぎって口に運ぶフジオウ。
さっきよりぱさぱさしていて食べづらい。
本当のこと言わなくてよかったと心の底から安堵した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「アイスクリームなんて、この世界にもあるのか」
「あります、よ?さすがにビートル人のファクトリーほどおいしくはないですが」
「ほう?」
食後、フジオウとラハルは街の広場に座って、異世界アイスをほおばっていた。
「なんか、奴隷とは思えないくらいのどかです。今日は何も予定がないのですか?」
「あ、言ってなかったな。昼からクエストに行く」
「え、あ、はい!私、足腰には自信あるので、ポーターとして使えると思います」
「いや、お前が討伐するんだ。そのために手に入れようとしたんだから」
「えええええええええええええ!!!!??!?!?!?」
いかがでしたか。
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