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68話 チュラのハーレム

「チュラって誰だよ」


 反射的にそう聞きかえした。

 前後関係からビートル人であることは確かだけど、どういうことだ。

顔が似てるとかか?


「とぼけたって無駄ですのよ。ビートル人の中でもチュラは我々の海を侵犯する敵。敵とつながりのある人間を海に入れたとなれば、リヴァイアサン族として一族に顔向けできませんの」


 ミリゥが圧をかけてくる。

 物理的に顔を近づけてきてもう鼻と鼻が当たりそうだ。

 とぼけてるわけじゃないだが、この迫力から察するに根は深そうだ。


「いや、大丈夫。殴り合いには発展しない」


 緊張した顔で戦闘態勢に入ったリイを制する。

 ミリゥの言葉がリイにはギャオンギャオンとしか聞こえてないからびっくりしたのだろう。


「そんなことより、チュラとかいうビートル人について教えてくれ。今人違いされてるところなんだ」

「チュラ!?ああまた聞きたくない名前……ユキノはあんなどスケベじゃないよ。だから……『私は人魚に興味はありません』って言えばいいと思う」

「私は人魚に興味ありません」


 リイに言われたことをそのままドラゴン語にしてミリゥに伝える。

 この短い会話でチュラとかいうビートル人のしでかしたことがだいたい把握できた。

 俺の言葉を聞いたミリゥは数瞬目をぱちぱちさせて、顔を遠ざけた。


「あら、そうでしたの。そこまではっきりおっしゃられると幾分か安心ですわ」

「いったいリヴァイアサンとチュラの間に何があったんだ?」

「それは……」


 ミリゥから聞いた話はこうだ。

 アシハラが異世界召喚を自分たちでおこない仲間を増やしてロンドに反旗を翻し、さらにカクラを滅ぼそうとしたとき。チュラは自身のチートを活かして海から攻めた。チュラの能力は魚類を従わせることができるというもの。強制的なテイムに並みのモンスターは逆らえずチュラの言いなりに。強力なリヴァイアサン族は跳ね返したが、問題だったのは人魚たちだった。


「人魚!人魚もいんのかこの世界」

「人魚たちは人の言葉も話せますし、下半身が魚である以外は普通の人ですの。そのせいでチュラの能力が中途半端に効くようで、チュラがチートを使うたびに人魚たちは苦しみます。チュラという人間は女好きでして、チートが効いた人魚たちをどんどん攫い会場に自分のハーレムを作っておりますの。人魚がいなくなったせいでリヴァイアサン族は人間たちとの交渉窓口を失ってしまいました。チュラに海を滅茶苦茶にされて我々リヴァイアサン族は怒り心頭です」


 要するに、チュラってビートル人が人魚を洗脳して独占してるってわけか。

 どいつもこいつもほんとに好き勝手してるな。


「あなたもビートル人なのでしょう?」

「いやお姫様。俺はビートル人だけどビートル人じゃない」


 ミリゥに手のひらの49を見せながら、俺がビートルバムの豪邸を離れてハートランドに来てまで国家を建設した理由を説明する。


「ふーむ、ビートル人も一枚岩ではないと知れたのは僥倖。それに、あなたの数字はチュラのものとは違いましてよ。あやつはたしか、8」


 数字を見せたのが効果あったようだ。

 っていうか、チュラとかいうやつのナンバー、8なのかよ。


「それにリイとセーレの国を直接ぶっ潰したって時点で俺たちソングⅡの敵でもある。人魚まで囲い込みやがって」

「敵、なのですね。あなたにとってビートルバムとは」

「もちろん。勝手に召喚しといて追放されたんだ。全員ぶっ潰す」

「血気盛んな男性は嫌いじゃなくてよ。それに、なんだかあなたはビートル人らしくありませんわ」

「へへへ、よく言われます」

「うっかり齧っちゃった謝罪もありますし、海流を操作してもよろしくてよ。どちらまで行かれるのかしら?」

「タオユエンだ。フルーツを食いに行く」


 その言葉を聞いた瞬間、ミリゥは首を傾げた。


「今から、行かれるのでして?今から?」


 今という部分をことさら強調するミリゥ。


「今からだけど、ダメか?なんか取り込み中?」

「いえ、海は無関係なのですけれど、タオユエンは今、ビートル人とカクラの反乱軍が争ってますの。またすぐ鎮圧されるかと望み少なく見ていたのですけど、意外ともちこたえてますわ」



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「おかえりなさーい。ヘビは人参と一緒に煮込むと美味しいんだって」

「あっさりした肉なので水炊きにしました。でも塩とレモンしかありません。タオユエンに醤油があるといいです」


 ありがとう、2人とも。

 鍋を弱火にかけたまま人数分の器まで用意して待っていてくれたところ悪いんだが、呑気に飯食ってる場合じゃなくなった。


「セーレ、ニコ。すぐ出発するぞ。タオユエンの街がピンチなんだ。このままだと、フルーツも醤油も消えちまう」

「「ええ!?」」


 ミリゥから聞いたことをセーレとニコに伝えると、2人も驚いて立ち上がった。

 ヘビの水炊きは俺も食べてみたいが、今はフルーツが優先だ。


「タオユエンで何が起きたの?」

「100万人規模の大反乱だ。ビートル人が鎮圧してるが、結構もちこたえているらしい。リヴァイアサンの姫から聞いた」


 詳しい経緯を2人に話しながら、俺たちは外に出る。


「あら、セーレさんまでいらして?お久しぶりです。わたくし誇り高きリヴァイアサン族の王位継承者!リヴァイアサン・ミリゥ!!!」


 小川で窮屈そうにしながらミリゥは自己紹介を極めた。狭い小川の中でポーズを極めたせいで川がプチ氾濫を起こす。

 ミリゥがここまで泳いでくるために小川の水位を増やしたからなおさらだ。


「おぉ……神獣をまさかこんな近くで」

「お前のこと覚えてるってよ」


 俺が通訳しながらセーレとミリゥがあいさつを交わす。

 

「さて、あいさつもそこそこに俺たちは今からミリゥにタオユエンまで連れてってもらう」

「とてもつもなく急ですね。急すぎて船も何もないですよ」

「本当にすまないが今から作って欲しい」

「ユッキー!切ってきたよー!!」


 空を見上げるとヒータンとソコルルが大木を切り倒して運んできた。

 

「また都合よくデカいのを持ってきましたね。そのまま切り出せば全員が乗れるだけの船、というかいかだにはなりそうです」

「いやもう、ほんとに、タオユエンに着いたらお前が一番フルーツ食っていいから。やってもらって当たり前とか思ってないから」

「いつもごめんね、ニコちゃん。まずはお昼食べよっか、私たちも手伝うし」


 ソングⅡを建国してからというもの俺たちはニコのスキルに頼りっぱなしだ。

平身低頭の俺たちをミリゥが不思議そうに見ていた。


「はて、どうして王であるユキノがあんなにも頭を下げているのかしら?母上には見えませんし、あの方が正妻なのでしょうか?」

いかかでしたか。

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たまたま読みに来ただけだよという方は、また気が向いたら読みに来てください。

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