60話 ロックスター、ギルドで絡まれる
ロックスターことフジオウさんは現代日本にいた頃、でかい小6に絡まれカツアゲをくらったそうです。襟足が長かったそうです。
振り下ろされた拳を、余裕を持って躱す。
さっきまで自分がいた地面にクレーターができる。
まさか外れると思っていなかったのか、ゴーレムがへこんだ地面と自分の丸いこぶしを交互に見る。
「別に殴られてもよかったな、あれくらいの衝撃なら」
並の人間なら死んでただろうが、あいにくビートル人は基本スペックがチートだ。
自分は戦闘経験が少ないからその辺の感覚が把握できていないのだとフジオウは理解する。
「【The Nobodies】」
大体わかったしもう終わらせよう。
フジオウはトールのチートを発動。透明人間と化す。
「!!?」
5メートルはあろうかというゴーレム。
そのごつごつした顔が驚愕に変わる。
「フェフェルの火」
フジオウがゴーレムに向かって指パッチンすると、たちまちゴーレムが火に包まれた。
ロンド王フェフェルの能力。
それは万物を火に変える力。
突如として発火した自分を理解できないまま、ゴーレムが片膝をつく。
「この能力、神になった気がしてくるぜ」
フジオウが取り出した剣に炎光が映る。
ワルシャの街にいた新人冒険者のものだ。
盗み聞きしてわかったが、この剣は鍛冶屋が特別に作ったものらしい。
フジオウは崩れつつあるゴーレムに向かってジャンプし、一閃。
バターみたいにゴーレムの首を切り落とした。
「【剣士】のスキルがあると、身体が勝手に動いてくれて助かるな」
―――ビートルバム タブリー―――
「はい、ゴオマさん。こちらがゴーレム討伐の報酬です。お疲れさまでした」
ギルド受付嬢から金貨を受け取るフジオウは淡々としていた。
「そして。今回の依頼達成により冒険者ランクがCに上がります。おめでとうございます!」
うつむいて金貨を数えていたフジオウは、受付嬢の溌溂とした声に思わず顔を上げた。
「ああ……どうも……」
「ありゃっ……あんまり嬉しそうじゃ、ないようで。結構スピード出世ですよ?」
星三つですみたいにギルド中に響き渡るくらいに宣言したのにフジオウのリアクションが冴えないので、受付嬢は拍子抜けしてしまった。
「いや……えーっと、ああ、どういうメリットがあるんでしたっけ」
「はい、DからCへの上昇は結構大きいですよ。初級から中級へのレベルアップですので、報酬も増えますし、社会的信用も上がります。何より、C以上になると世界中のギルドで仕事ができます」
社会的信用も上がります。の時点で受付嬢が机の下からオシャレな住宅のカタログを出してきたのを見て、フジオウは間を埋めるために質問したことを後悔した。
要するにCランク冒険者ってのはGAFAのどれかで仕事した経験がありますみたいなもんなんだろう。
だから世界中で仕事ができるし、オシャレな住宅を勧められる。
「はぁ、そうですか。世界を飛び回るなら家は買わなくても」
「ま、まあ確かに。C以上ならギルド指定のホテルに安く泊まれますしね」
だったらなおさら何で俺に住宅を勧めてきた、と喉まで出かかったがフジオウはこらえた。
早く切り上げて帰りたかったからだ。
そもそも、ギルドカードはワルシャで殺した新人冒険者のものだ。
通常Fから始まるところを、あいつは優秀だったようでEからだった。
だからギルドカードも新人冒険者の名前であるゴオマで登録されている。
ワルシャの町を全滅させた後、フジオウは隣にある大きな街であるここ、タブリーにきていた。
来たはいいものの、特にやることも見つからなかった。
最初の数日は中世ヨーロッパ風の街並みを観光して楽しんでいたが、中世ヨーロッパレベルの都市なので数日歩けば一通り回りきれた。
そこで、ゴオマのカードを使って冒険者として働いてみることにした。
銭はワルシャの人間から奪った分があるので困ってはなかったが、自分の実力を客観的に把握するためにギルドの依頼を受けてみることにしたのだった。
「ではこちらはいかがでしょう。上級冒険者を目指すのであれば、一つ上の馬車を」
住宅に興味がないことが伝わったのか、受付嬢は机の下から馬車のカタログを出してきた。
「はぁ」
「正直、冒険者は見栄の世界ですよね。だからある程度恰好つけとかないと、舐められるというか」
「へぇ」
「ゴオマさんの実力でしたら今後Aランク、もしくはSランクまでも狙っていけるかと思いますので、今のうちから少しランクの高い馬車を持っておくというのも悪い話ではないのかなと」
立て板に水。
もはや口が勝手に動いているレベルのセールストークをしながら、受付嬢はパラパラとページをめくり見開きでドーンと載っている豪華な馬車を見せてきた。
シートが革張りで、ゆったり。乗り心地抜群みたいなキャッチコピーが書いてある。
いい加減うんざりしてきたフジオウだったが、気になるワードが出てきたので聞いてみた。
「Sランクってどれくらい強いんですか?」
フジオウの質問を聞いた受付嬢は、目をぱちぱちさせて少し逡巡した。
「どれくらい、と言われると難しいですね。その力はもはや国家戦力と言ってよろしいかと。宮廷で主要なポストに就く人もいますし、それでなくても王侯貴族と対等に会話できるくらいの地位でした」
「かつては?」
「ほら、ビートル人ですよ、ビートル人。ロンドもカクラもどっちも、みんなが信じたS級冒険者が、ほとんど全滅しちゃったでしょう。生き残ったS級冒険者たちもどこで何をしているのやら。確か、ジブラルタのほうでエルネストさんがロンドを復興させようと動いているとか聞きますけど」
どっかで聞いたことある名前だとフジオウは思った。
どこだったかと思い出しかけたところで。
「おい!いつまでくっちゃべってんだガキ!!」
ごっつい手がフジオウの肩を掴んで、そのまま椅子から引きずり倒した。
フジオウは後頭部を強かに打ち付けたが、そんなに痛くなかった。
現代日本にいた頃、座ろうとした椅子を引かれてそのまま転んだことがあったが、その時に比べればマシだ、嘲笑うやつらもいねえし。
天井を見ていたフジオウを覗き込んできたのはプロレスラーみたいな男だった。
禿げた頭に筋骨隆々の身体。上半身は肉体を誇示するためか最低限の防具しかつけていない。
「あ、ちょっとダーストさん、やめてください!」
同じく受付嬢が机から身を乗り出してこちらを覗き込んでくる。
ダーストとかいうやつ、酒臭いな。
「てめえがS級冒険者になるだと!?夢みてえなことぬかしてんじゃねえよ!!そんなひ弱な身体でビートル人に勝てるとでも思ってんのか!!」
ダーストが絶叫する。
人を殺したことがあると怒鳴り声も平気になるんだな。
なんてことを考えながらフジオウはゆっくりと立ち上がった。
「おい、あのチビ、やる気か……?」
「知らねえだろ、ダーストはA級だってこと」
親切なモブがフジオウに情報をくれた。
それを聞いたフジオウは、喧嘩する風に見られていることに驚いた。
そうか、ゆっくり立ち上がったからか。
それはただダメージもないしダーストにビビってもないからだったのだが。
A級冒険者ってのも、ビートル人に比べれば大したことないだな。
ふっ。
「てめえ何笑ってやがるんだ!!」
思わず笑みがこぼれたフジオウに、ダーストは青筋を立ててぶちギレた。
フジオウの胸ぐらをつかみ上げると、そのまま身体を持ち上げる。
「フェフェルの火」
瞬間、ダーストの身体が発火した。
「あ、あぎぁああああああああああ!!」
火だるまと化したダーストが断末魔を上げながらギルドを転げまわる。
ギルドは文字通り火がついたように大騒ぎとなった。
みんながみんな水魔法をまき散らしたので、ギルド内はイベント期間中のUSJみたいな有様となっていた。
襟を直したフジオウは、こんな状況下でも受付嬢が冷静なことに感心した。
人が目の前でバーニングマンになったのにさすがプロだな。
「あ、今日はとても勉強になりました。結構序盤でうんざりしてたけど、家も馬車も興味はありますよ。なんせ、俺はロックスターになるんで」
そう言われた受付嬢は「はぇ……」と間抜けな声を出した。
なんだ、パニックのあまり固まってただけか。
いかがでしたか。
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