58話 ホワイト企業の終わり
ホワイト企業ホワイト企業いうとりますけどもね、実際配属先の人間関係というか雰囲気というか次第なとこありますけどもね。
―――ビートルバム ファクトリー―――
「なあ、ネッドさんよ」
「なんだ、ラッド」
工場長としてファクトリーを見回っていたネッドを、ラッドが捕まえて質問する。
「俺たちが作ってるこれって、何なんですかねえ」
「それは、たしか、あれだよ。ほら、サッシってやつだ。ビートル人の窓」
「へえ、窓枠の一部ですか」
ビートルバムの宮殿で事故があり、その修繕のために建築棟が大忙しになっているということもネッドはラッドに教えてくれた。
「それで、久しぶりの8時間労働をしてるってことっすか」
「ん、まあ、そういうことで、頑張ってくれよ。ビートル人を欺くために、生産量を下げるわけにはいかないんだ」
そう言って、ネッドはラッドの肩を叩く。
かつては週6、12時間労働を強いていたファクトリーだが、ヒャクイチを斥けてからは週4、6時間のホワイト工場へと変貌した。
それを提唱したのはユキノだったが、実際に適用し運用しているのは現社長のアレクサンドリナである。
アレクサンドリナがあれこれと効率化を推し進めているおかげで、ファクトリーは生産力を維持したまま勤務時間を減らすことに成功した。
だから、今のラッドのようにファクトリーの工員たちは心にゆとりを持って働くことができている。
「もしこの働き方改革がビートル人にバレたら、せっかくできた余暇も取られちまう」
「そっすね。あいつら、俺たちが楽すんのきらいっすもんね」
「だが…‥ビートル人の力が使えないのも不便だ…‥」
そう言ってネッドは、瓦礫と化した寮の方を見やる。
ビートル人の1人であるラクがFeel Good Inc.を率いて襲来し、極大ビームDemon Dayzを放った。
そのせいでファクトリーの工員たちが暮らす場所は破壊しつくされてしまったのである。
「どうするんですかい、この復興」
「どうするもなにも、俺たちで片づけるしかねえだろ。ユキノもリイ王女もラクと一緒に消えちまったし、俺たちがファクトリーを守らねえで誰が守るっていうんだ」
建築棟の壁に貼ってあるファクトリーの旗をネッドとラッドが見たのは同時。
薔薇と龍。
ロンドとカクラの国旗を足したもの。
「リイ様、セーレ様、生きてますかね……」
「滅多なこと言うもんじゃねえよ。もしものことがあったら、ユキノのやつをぶちのめしてやる!」
そのとき。
ネッドのもとに、1人の事務員が駆けてきた。
「ネッドさん!ネッドさん!大変です!ビートル人が!!」
「ヒャクイチの野郎か!?」
「いえ、1人は見たことありませんが、とにかく、経営陣を集めろ。さもなくばファクトリーを燃やす、と」
急に曇り始めたファクトリーをネッドは全力疾走する。
「アレクサンドリナさん!!無事か!!」
建築棟からファクトリーの管理棟であるビルディングまでダッシュして、ドアを蹴り破るようにして会議室に転がり込む。
ネッドの目に飛び込んできたのは浅く座ったビートル人の男女。そして彼らに対面するアレクサンドリナさん、副社長のボスだった。
「ネッドも来ましたんで始めましょう。おい、こっち」
ボスさんに促されて、ネッドも席に着く。
席に着いたネッドは目の前に鎮座する4人のビートル人の顔を見る。
まず、ヒャクイチはいない。
つぎに端から。一番端にいるのは魔法使い見習いみたいな見覚えのない女子。
だが、その隣の愛想のない銀縁メガネには見覚えがある。カクラの戦場を神出鬼没に現れては攪乱しまくった野郎。
その隣を見て、ネッドは身構えた。
セブンの1人、アオミ。
(こいつら、ガチだ……!)
ネッドの思考が回転する。
アオミを連れてきたってことはこいつら、交渉の結果次第でファクトリーの破壊さえも辞さない。
(どうりで天気が悪くなったわけだ……!)
アオミは、ネッドがカクラ軍の切り込み隊長のころ戦場で見かけたのと変わっていない。
黄色のトレンチコートを着込んでフードを深くかぶっている。
そしてあまりしゃべらず、表情はおろか顔立ちもわからない。
ただ、口元と輪郭から女であることだけは分かっている。
その隣、一番端の男は見覚えがなかった。ただ一つ、さわやかな雰囲気を感じたが、まるで明後日の方向を向いていて、俺たちに興味なんてなさそうだった。
「遠いところからわざわざご苦労様だねえ。ま、AWL、きみがいればすぐさねえ」
緊急事態だというのに、アレクサンドリナ社長は動じているように見えない。
それにAWLを知っている?
出身がロンドだとは聞いていたが、この堂々とした振る舞いは、ロンド軍の実力者だったのか?
アレクサンドリナの挨拶を無視するように、AWLが口を開く。
「結論から言おう。ファクトリーの管理権は、アキヅキさんに移動する。きみたちは一段階降格だ」
そんなこったろうと思った、とネッドは思った。
降格するってことは、俺はどうなる。俺が副工場長になったとしたら、ラッドの役職が無くなるな。ま、いっか。
自分の行く末を考えている場合ではない。
ネッドも、ボスもアレクサンドリナさんの顔色を窺っていた。
「そう来るとは予想してたさ。私は別に社長の地位に執着なんかしてないから、返せと言われれば返してもいい。でもね、私は自分からなるっていったんじゃないよ。ファクトリーのみんなに頼まれて、社長のポストに就いてるんだ。だから頭が変わっちまったら、ファクトリーのみんな働かなると思うけどね」
「そー思いまーす」
ちょっと回りくどいのが気になるが、ネッドはアレクサンドリナのいうことに賛成していた。
だから、その気持ちを素直に述べた。
だが空気を読んだ発言ではなかったので、会議室が変な空気になった。
「お前は黙ってろ……!」
「は、はい」
ボスに制されて、ネッドはシュンとなる。
「ふむ……。それこそこちらの予想通りだ」
AWLはそう呟くと、隣に座る女の子に指示を出す。
すると、少女はポケットからスマホを取り出した。
ネッドには見覚えのない謎の板だ。少なくとも、カクラを侵略しに来たときにはビートル人はこんなもの持ってなかった。
「譲歩しないというのなら、実力で奪わせてもらう」
そうAWLが言った瞬間、ファクトリーを覆っていた分厚い雲が晴れていく。
鉛色の空が晴れていき、代わりに見えてきたのは、ファクトリーの空を覆うほどの火の矢だった。
「なんだよ!!」
ビルディングから建築棟や寮まで、広大なファクトリーの空を覆いつくす火、火、火。
窓から見えるアポカリプスみたいな光景に、ネッドは思わず椅子から立ち上がった。
「お前ら以外にもいたのか……。相変わらず、悪知恵の働くやつらめ」
ボスが悔しそうにそう呟いて、角兜を被る。
闘う気だ。
だが。
「お待ちよ、ボス」
「社長にしたがえ、カクラの敗け将軍。お前ら少しでも動いてみろ、あの火の矢がファクトリーを燃やし尽くすぞ」
AWLは立ち上がって、ボスの角兜を取り上げ、そのまま兜でボスを殴りつけた。
鮮血が会議室の机に飛び散る。
くぐもった声を上げてボスは倒れ伏す。
「勘違いするな。別にお前らがいなくたってファクトリーは回るんだ。お前ら全員死のうが働かせることだってできる!それがビートルバムの力なんだよ!!」
いかかでしたか。
おもしろかった・続きが気になる、そう思っていただいた方は、よろしければページ下部の評価ボタンを押していただければと思います。
また、ブックマークもしていただけると助かります。
助かるというかぁ、なんというかぁ、こう、救われる気持になるんやぁ




