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56話 ソングⅡ

―――ビートルバム 宮殿―――

「あのね。この塔からあそこの塔まではだいたい100m」

「はい」

「これくらいの距離は、チート転移者の私たちなら立ち幅跳びで」


 そう言って、ヤマナミは窓の縁に飛び乗り。

 そのままジャンプした。

 100mくらいなら立ち幅跳びで余裕。

 その言葉の通り、現代日本で見たら合成を疑うような放物線を描き、あそこの塔の屋根に着地した。


「―――――――」

「聞こえないですー!」


 着地したヤマナミがこちらの塔にいるアキヅキに向かって何か叫んでいるがアキヅキには聞こえない。


「って、あのジェスチャーはこっちへ来いって言ってるのか」


 そう気づいたアキヅキは、ヤマナミと同じように窓に足をかける。


「何となく100メートルのジャンプ位大丈夫だとは思うけどな」


 窓から下を見ると、だいたい3階建てくらいの高さ。

 だがアキヅキは特に恐怖するわけでもなく、足に力を込めて跳んだ。


 異世界転移して以降、アキヅキには自分でもわからない感覚があった。

 全く根拠はないにもかかわらず、自分のやることはすべて上手くいくという確信にも似た実感があるのだ。

 あたかもこの世界のルールを無意識下で理解しているかのような。


「あ、困った。ちょっと足りない」

「掴まって!」


 ジャンプが下降線になって、どうやらあそこの塔には届かないらしいことがわかった。

 ヤマナミも気づいて、慌てて手を伸ばす。

 その手までも届かなさそうだ。


 だが、アキヅキは微笑んでいた。

 再び脚に力を入れて、思いっきり空を蹴った。

 ゲームじゃ当然のようにやってることだが。

 現実じゃあり得ないこと。

アキヅキもわかっているが、なぜかできる自信があった。

 当たり前みたいに成功して、そのままヤマナミの後ろに着地する。


「今、二段ジャンプした!?」

「した!」


 一瞬して理解したヤマナミが振り返ると、笑顔のアキヅキが着地していた。

 その姿勢は、完全なスーパーヒーロー着地。

 


―――数日後―――

「ヤマナミさん」

「え?」

「ロイヤルミルクティー、あの時のお礼」

「ありがと……ってファクトリーまで行ってきたの?」

「はい!空の旅は早かったですよ」



―――ハートランド ドラゴンの里―――

「ジャコメッティだな」

「現代日本ではこの状況をそういうんですか」

「いや、例えだ」


 凍結したユンクァンはまるで人体を細長く伸ばしたような状態だから、まるでジャコメッティの作品のように見えた。


「っていう例え」

「なるほど。ジャコメッティさん、売れるといいですね」


 あの後。

 目を覚ましたドラゴンの長老たちにユンクァンを凍結させた功績が認められ、俺たちは晴れてドラゴンの里に迎え入れられることになった。


「すまない。ビートル人だからって敵とみなしたのは僕の勉強不足だった」

「いや、敵とみなしていいと思うぞ。ただ俺を含めるな」

「ふっ、ふふふ。なんだそれ、建前でも謝罪を受け入れる態度を見せるかと思ったら。何と言うか、短いながらも接して思う、きみは捉えどころがないな」

「んーそうかぁ?別に謝る必要ないってだけなんだが」


 レッドアイズさんも言ってたろ。

 俺たち二人の主張はどっちも正しくて、相反するわけじゃないって。


「世の中そんなもんだ」

「幾つなんだ君は」

「ところで、その乗り物は何だ」


 そう言って俺が乗ってる電動車いすを指さす。

 ニコに作ってもらった電動車いすだよ。

 坂も段差も余裕のハイテクマシーン。


「傷病者だけでなく、老人にもいいかもしれないな」

「お、するどい。現代日本じゃじいさんばあさんが乗りまくってるぞ」

「そうなのか。ビートル人どもめ、どうしてこういう知識を広めてくれないんだ!」


 手足の欠損もセーレなら魔法で治せる。でも腕一本生やすのに10日徹夜して回復魔法を唱え続ける必要があるそうで、さすがに可哀想だから遠慮した。

 だからしばらくは車いす生活だ。



「ユッキー!!」


 ヒータンが飛んできた。

 ということはもうすぐ始まる。

ドラゴンの長老たちの重役会議。


「ユキノよ。まずは、ビートル人からドラゴンの里を守ってくれたことに感謝する」

「うん」

「うんってなんだ、うんって。きみは礼儀を知らないのか」


 てっきりドラゴンの重鎮が勢ぞろいしているのかと思いきや、一番トップのレッドアイズさんだけだった。


「然して、あの凍結したユンクァンは正直我々ドラゴンの手には負えん」

「はい」

「凍結を維持する手間が問題なのではない。里に置いてあってはビートルバムとの火種になる」

「じゃあ、捨ててくるよ。ビートルバムに投げ捨てればいいんだろ?」

「世界の果てに捨ててこよう」

「というわけで、族長。ヒータンにも手伝ってもらうぜ」

「応じよう」

「お安い御用っさ!」


 心なしか、レッドアイズさんもテンションが上がっている気がする。

 なんでだろう。やっぱりビートル人を倒したからだろうか。

 レッドドラゴンの言葉は続く


「ユキノと仲間たちにお礼の品を与えようと思う。何か望みを言ってみよ」

「じゃあ、俺と同盟組んでくれ」


 

―――ハートランド 丘の上―――

「え!?で、組んだの?」


 レッドアイズさんとの面談を終えて。

 結果を聞いたリイが珍しく大きな声を上げる。


「組めた。でもまだ仮締結」

「ユッキーすごい!大胆不敵っていうのかな。レッドアイズさんのぽかんとした顔なん初めて見た!!」

「正直死んだかと思ったぞ」


 試しに言ってみた同盟案。不遜すぎて怒られるかと思ったが、意外と真面目に対応された。


「国として承認するのは構わんが、国土がいるって言われてさ。だから誰も使ってない土地教えてもらって」


 それでこの丘の上に来たってわけ。


「うーん、国ってそんな感じで作るの?」

「建国を宣言して、周辺諸国が承認すれば国として認められるよ。ほら、セーレもフェフェルパパが名を上げた貴族に領地をあげてるの見たことあるでしょ。あんな感じ」

「あーなるほど。で、もしかしてこの地面に引いてある線が」

「そ、国土」


 車いすに棒取りつけてえっちらほっちら引いてたこの線が俺の領土。

 うん。少なくとも学校の校庭よりは広いな。

 

「で、ここに城を建てようと思うんだよね。ほらいつまでもヒータン家に居候してるのも悪いじゃん?だから、ニコ」

「………城って、どんなレベルのですか」


 すごくめんどくさいオーラを感じる。

 今で何か造るってなったらニコを頼ってばっかだったし、そろそろ疲れてくるのも当然だよな。


「いやーゆっくりでいいっすよ。城っつってもみんなが住めたらいいんだし」

「まあ、考えておきます。とりあえず水回りがあるのであそこの川まで領土を拡張してください」


 はい。すぐします。


「とにもかくにも。ユキノもそんなんだし、私たちはしばらくハートランドに足止めされるね」

「手足が生えたらビートルバムにぶっこみかけるからな」


 みんなはどうか知らないが、俺は転移して初めてであったミノタウロスのミノのこと忘れてねえからな。


「とりあえず休憩休憩。あ、ニコちゃん!私お風呂おっきいほうがいい」

「はいはい。みなさん各自希望をまとめておいてください。出来るだけ反映します」

「それで、君の国は何という名前だ?せっかくの縁だ。僕もドラゴニュートの長に言うだけはしてみるが」

「おーありがと!えーっとな、ソングⅡっていうんだ」

「……ソングⅡ?ビートル人の言葉か、意味は」

「意味は多分ないけど、強いていうなら」

「うん?」

「ビートルバムの次」



―――ビートルバム ワルシャ―――

「いよいよ私たちも冒険者デビューだね!」

「おう!俺たちの伝説はこの生まれ故郷ワルシャから始まるんだ!」


 ビートルバムの宮殿から数百キロ離れた小さな町ワルシャ。

 今日2人の新人冒険者が初クエストに挑まんとしていた。


「おってめえらもついに冒険者デビューか!!はじめてみたときゃこんな鼻垂れ小僧だったってのに」

 

 近所のおじさん的な先輩冒険者が10代前半くらいの男女の新人冒険者に近づいて、男のほうの背中をバンバン叩いてる。

 ほほえましい光景ってやつか、とフジオウは他人事のように見ていた。

 全く知りもしない人間だから他人事なのは当然だが。


「屈強な男女が18人。受付嬢が5人」


 田舎の道の駅みたいな規模の冒険者ギルドにいる人間の数は総勢23人。

 勝てるかどうかの自信は正直、フジオウにはなかった。


 入り口を蹴破ってギルドを急襲し、中にいるやつらの命とスキルを片っ端から吸収してやろうと、馬から降りて入口に来るまでは思っていたのだが、いざドアの前に立つと少なくない人数がいるらしいことが賑わいの大きさからわかって、結局普通にドアを開けて、飲みたくもないビール的なものを飲んでいる。


 着席して10数分。

 一番左上にあったからという理由でとっさに頼んだこの異世界のビールが全然減っていない。苦いだけじゃねえか、とフジオウはやり場のない怒りを異世界アルコールにぶつける。


 まずい。そろそろ周りに怪しまれている。

 冒険者ギルドに入って来てビールだけ飲んでる見慣れないやつに、新人冒険者の男女もその近所のおじさんもいぶかしげな眼を向けている。

 多くの人間にじろじろ見られるのはフジオウには苦しかった。

 

 フジオウがうつむいて何も言わないので、ギルドの受付嬢の1人が様子を確認しに近づいてきた。

 フジオウの心臓が跳ね上がる。

 商人のおっさんを殺した時は衝動的だった。

 だが今回は意志もってやる。

 ここでやったら、次からずっとやり続けることになる……。

 だがここでやらなかったら、昔のように逃げ続けることになるじゃないか……。


「あの、お客様。失礼ですが、冒険者カードをご提示いただけますか?」

「……だ」

「はい?」

「……俺は、ロックスターだ……!」



 数十分後。ワルシャの町から人が消えた。

 人口数百人程度の町だ、冒険者ギルドでの騒ぎはあっという間に町中に広がって、フジオウは皆殺しを余儀なくされた。


「…‥これで少しは現地人っぽく見えるか……?」


 新人冒険者の服装を着た自分を鏡で確認しながらそう呟く。

 最後はかなり激しい乱闘になってしまったが、今の自分には傷1つついていない。


「ふむ……俺ってもしかして自分が思うより強いのかもしれない」


 鏡越しに見える死体の山を見ながらフジオウは呟く。

 それほど心配しなくても大丈夫だ、そうさ、今日から俺はロックスターなんだ。


いかがでしたか。

おもしろかった・続きが気になるという方はブックマーク・評価等お願いします。

山をお持ちの方は、タケノコください。

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