55話 ROCKSTAR
状況をまずは丁寧に描写しよう。
俺は今までいた位置から結構移動している。
距離的に考えて、誰かにぶん投げれられた。
なるほどね。
「今はない」なんつって気取った答えした後、カジマは俺を投げたのだろう。
なんでかな。答えるのが嫌だったのかな。
それはさておき。カジマの手を離れた俺は止まった時の世界から退場。
気づいた時にはすべてが終わっていた。
「……あれ?」
「どうしてここに?」
「全く意味が解らないぞ」
「ユ、ユ、ユッキー!!!ユッキーが芋虫になっちゃったよ!!」
しかも、セーレたちをこっちに移動させるというおまけつきで。
目の前にユンクァンはいない。
あるのはただ、焼けた砂の山だった。
「セーレさんの鎖で砂を溶けるほど熱して、それでユキノさんごとユンクァンを埋める計画でした。そうすれば、金属の身体が維持できなくなると思って」
「なるほど。素晴らしいアイデアだ」
セーレの鎖を握ったままのニコがプランを説明する。
俺がターミネーターになる可能性が大いにあるのが気になるが。
カジマが文字通り全部終わらせやがった。
「ユキノさんがここまでユンクァンをおびき寄せてくれたこの時を見計らって、砂を落とそうとしていた時でした」
「なるほどねえ」
「もちろん過去の実績からユキノさんなら耐えられるだろうという想定のもとですよ?」
うん、まあ。
まあ……それくらい派手なことしないとあいつを止めるのは不可能だ。
「来たんだよね?カジマが」
「よくわかったな。ちょっとお話して帰ってったよ。俺のために一仕事するって言い残して」
リイが一発で正解を導き出す。
「こんな早業あいつくらいしかできない。ああ嫌な思い出」
「ユキノが来てからビートル人が派手に動き始めたけど、どうしてだろう?」
その答えもカジマから教えてもらったが。
それより。
「でも、これだけじゃユンクァンはおそらく止まりません。砂より融点が低いとは思えませんし、いずれ復活する」
「マジか。もう大概しんどい」
今まで見下げてばっかりのニコを見上げながら、ターミネーターより厄介な敵にうんざりしていた。
溶鉱炉、その辺に落ちてないかな。
なんてことを考えながらずーっと見てたら、ニコが俺をヒータの首に巻き付けてくれた。
手に持ちっぱなしになってたセーレの鎖を使って。
「おお、ありがと。身長2メートルになった気分だぜ」
「ねぇー。ねぇー。どうして余裕なの?手足切られてるじゃんユッキー」
「斬られたんじゃない。ロケットパンチだ」
「ほんと!?すっげー」
「くだらない会話しないの」
なんで俺が下らない会話してるってわかった、リイ。
と、その時。砂山のてっぺんが弾けて銀色の液体が噴き出してきた。
液体は意志を持ってるみたいにまとまりがあって、やがて人の顔を形成していく。
どう見てもユンクァンの面だ。
「ニコ!!この後冷却するんだろう!」
「そうです!!」
俺の友達はみんな口と同時に手も動かす仕事のできる奴らだ。
ソコルルの叫びとニコの指示に従って各自ポジションについて、氷魔法を展開。
そして一斉照射。
あたり一面の気温が爆速で下がっていく。
「ぎぃ、ぎぃ、ぎぃ」
まだ喉まで復活してないユンクァンが何か言葉を発して、上空に逃げようとしたが。
上にはヒータンがいる。
「不思議な結末だ。我々は今、曲がりなりにもユンクァンを封じ込めている。この世界を破壊した張本人の1人を」
「しかもカクラとロンドとドラゴニュートとドワーフとドラゴン。世界島のみんなが集結してるっつーね」
「ビートル人が来るまで互いにいがみ合ってばっかだったのに。って、うん?ロンドの私が言うと不味い?角が立つ??」
へぇ。
なんかチーム、ワンチームって感じが出てていいんじゃねえの。
俺ヒータンの首からぶら下がってるだけだけど。
ただ。
ずーーーっと、目が合ってんだよな。
鈍く銀色に光ったユンクァンと。
下の方の身体はすでに凍り始めて、もはや歪なろくろ首と化しているが。
それでも、この氷地獄から逃げようと顔を伸ばし続けている。
いや俺を倒そうとしてんのか?
銀色に濁った眼の奥にみえるあれは、憤怒?嫉妬?羨望?執念?
もしかして、恨?
まあとにかく。
「俺はお前を殺せない。だからしばらく凍ってろ」
まるで現代日本のように。
―――ハートランド・元カクラ国境 乾燥した土地―――
「はぁ……はぁ……」
まるでRPGで最初に冒険する場所みたいだ、と辺りを見回してフジオウは思った。
周囲360度、芝生みたいな草と砂地があるだけの土地。土地。土地。
せめて装備一式が入った宝箱でも置いといてほしかったが。
「死ななかっただけ感謝しろってか?ふざけんなよ…‥」
まさかロンドとカクラの姫と鉢合わせするなんて。
気が動転して、ラクのFeel Good Inc.から飛び降りちまった。
あの上空から落下して、地面に叩きつけられて。
それで全身骨折で済んでいるのは、俺も一応はチート転移者というべきか。
「それでも一週間、指一本動かせず寝たきりだった」
モンスターに食われるんじゃないかという恐怖の中、頭に思い浮かべ続けたのは殺す瞬間のトールの顔だった。
歩ける程度に回復した後、ギシギシ痛む身体で何とか交易路を見つけて歩き続けている。
「せっかくの異世界転移だってのに、俺にはハーレムもチート生活もなかった……!あったのはただ、向こうと変わらない地獄……!!」
現代日本だろうがビートルバムだろうが、人間を虐めるのが趣味の野郎はいる。
身をもってそのことを痛感し続けた日々だった。
「おーい。そこの方」
ぐつぐつと黒い感情をため込むフジオウに心配そうな声をかけてきた人がいた。
フジオウが声のした方を見ると、恰幅のいい商人が馬車に乗ってこちらへ向かってきた。
それを見た瞬間フジオウは、自分の身体の芯に生きる力が灯されたのを感じた。
「こんなところを歩いているなんて、追剥にでも襲われたのかな。近くの街へなら私が送ってあげよう」
「…‥」
「それにしても、見かけない服装だ。出身はどちらかな?」
「……俺のチートは、【ロックスター】……」
ヘネシーを飲んで、女とヤる。
ヒルズに住んで、ホテルの窓からテレビを投げる。
気分はまるで、ロックスター。
「ロックスターのように生きる……」
「ろっくすたー……?……その言葉遣い……もしかしてお前!ビートルじ……」
その瞬間、フジオウはチートを発動。
商人の生命とスキルを、商人の身体から抜き取った。
「ふむ。おっさんの生命力じゃ、骨は繋がんねえか。だが、【乗馬】、【鑑定】、【セールストーク】。この辺はありがたくもらってくぜ」
フジオウのチート、それは。
「この世界に来てようやく、なろう主人公らしいことができたぜ」
相手の生命や能力を盗んで自分のものとする。
「俺はこの世界で幸せになってやる。ロックスターのように生きてやる!」
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