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54話 2nd

 静止したユンクァンに触れないようにカジマは離れる。

 相変わらず俺の肩を踏んだままだが。


「なるほどねぇ。お前に踏んでもらわねえと俺も時間停止するってわけか。男に踏まれる趣味はねえんだけど」

「わかってんなら、俺の能力の説明は飛ばしていいな。で、どうやっても死なないなんて異世界にうってつけだねえ」

「そうか?」

「わかってないのか。異世界転移者は寿命が短いんだぞ」


 どういうことだ。


「俺たちは、異世界の環境に適応しきれない。そりゃ異物だからな。別の言い方をするなら、強大なチートと引き換えに命を切り売りしてる」

「マジかおい。衝撃の事実」


 異世界転移にそんな秘密があったなんて。

 じゃあ、アシハラとマコが死んだ理由って寿命?


「転移者である俺たちの寿命が本来の半分もないことに最初に気づいたのがアシハラ。以来、俺たちは血眼になって生きながらえる方法を探している。その1つが」


 そう言ってカジマは俺の左の腕を持ち上げる。

 こいつ、気安く触ってくるタイプ。

持ち上げられた左腕を自分でも見て気づいたが、少し伸びてる。

ゆっくりだが、回復してきてる。


「死なないチートを持ったやつを転移させること。まるでガチャみたいな話だが、49回目で当たったんだしあいつらツイてる」

「一度捨ててるけどな」


 なるほど。これでラクがあんなに喜んでた理由がわかった。

 だが、ちょっと待て。


「それで、お前が俺のチートを取り出しに来たってのか?」

「いいレスポンスだが、外れ。俺はビートル人辞めてんだ」


 衝撃の事実その2。


「え、ビートル人って辞めれんの!?ビートル人ってあの全身凶器ペプシマンの同胞だろ。指詰めた?指詰めないと脱けれんだろ?俺なら無限に詰めれるけど」

「あそこまで傾倒してんのはあいつぐらいだよ。それに、辞めれてない。だからアシハラに追い回されてる」

「……あ、ちょっと待て!!アシハラって生きてんだな!?」


 2回名前が出てようやく気付いた。

 脱ビートル人の先人が言ってるんだからそうなんだろう。

 あの墓に眠ってるのはアシハラじゃなくてツガミだ。


「その疑問が出るってことは、あの墓見たのか。うっかり墜落したハートランドでしかもドラゴンの里に来てる時点で、だいぶ縁もってるとは思っていたが」

「お前、俺のストーカーか?」


 何で俺のここ最近の動向を把握している。

 ひょっとして、ラクのクジラの中にいたセーレパパの魔法使ったやつか?


「俺じゃねえな……って、それはほんとうか?」


 俺の疑問にカジマは深く考え込んだ。

 この先戦局がどう動くかを読んでいる、そう見えた。


「……いいねえ。お前とは話がトントン進む。俺は何事も早いやつが好きだよ」

「そりゃどーも」

「セーレパパの魔法使ったのはフジオウだ。気を付けろ、肌の白いオタクだ」

「ふーん?」

「3時間くらい、アシハラが追いかけて来ない時間があった。そうと知ってりゃ反撃に出たんだが」


 なんか意味深なことを言ったカジマはポケットから時計を取り出しながら立ち上がる。

 あの時計、現地調達だな。

 アンティーク感が凄いもん。


「じゃ、そろそろ行くわ。お前に会えてよかった。暇が出来たらまた会おうな」


 カジマが俺を拾い上げる。


「両手で拾い上げてくれたのはありがたいんだが、ラグビーボールみたいな持ち方はなんか、止めて欲しいというか」

「贅沢言うな。お前のために今から一仕事してやろうってんだから」


 まあ確かに、お姫様抱っこされたとしても俺もコメントに困るって言うか。


「ところで。最後に一個聞いてもいいか?」

「なんだ?」

「お前も人殺したことあんの?」


 俺の質問にカジマはどう答えていいか迷っているようだった。


「最近は、ない」

「じゃあ昔あったんじゃん」


 って、あれ?

 ここどこだ。

 ハートランドのドラゴンの里には違いないが、物の配置が滅茶苦茶変わってる。

 いや違う。俺が移動したんだ。

 そう気づいて元居た場所を見たら。

 すべてが終わっていた。




―――ビートルバム 宮殿 中庭―――

「なんか、CMと違くない?このソシャゲ」


 広告ではメタRPGなホラーゲームみたいに見せてたのに、実際やってみたら全然そんな要素がなくて、残念がればいいのか怒ればいいのかヤマナミは迷う。

 だが怒るにしても、異世界から現代日本に向けてメールの類は一切送れない。


「って、どうして私は異世界まで来てソシャゲで時間を潰しているの?」


 ヤマナミたち40番台は世界征服が完了してから召喚された世代のために、争いらしい争いを経験していない。

 せいぜい突発的に起きた暴動の鎮圧をしたくらいだ。

 戦闘向きでないチートであるヤマナミはなおさら、先輩たちが築き上げてきたものの上澄みだけを享受できている。


「うーん。やることなくて全く自由って言うのも正直退屈って言うか……」


 世界最高の一等地に建てられたこの宮殿は毎日お日様がポカポカしている。

 今日も今日とて暖かいお日様の下で背伸びをしたヤマナミのそばに。

 アキヅキが降ってきた。


「きみ、何してんの」

「自主練です」


 早朝ジョギング途中の一流商社マンみたいな爽やかな笑みでアキヅキは答えた。

 ヤマナミは振り返る。塔の上の方にある窓が開いていた。


「耐久力の練習ってこと?あれくらいの高さなら私でも平気だよ」

「人が降って来たのに動じてない。さっすが異世界の先輩」


 その程度のことはこれからたくさん起きるよ、とヤマナミは言えなかった。

 どうしてかは分からないが、それくらいアキヅキはとっくに知ってるようにヤマナミには思えたのだった。


「耐久力じゃなくて、空を飛ぶ練習してたんすよ」

「空を飛ぶって、無理よ」

「ありゃ、そうなんすか」

「生身でってことでしょ?そんなのアシハラさんにしかできないよ。どうしてもっていうならラクさんに頼んで背中に翼を生やしてもらうか」


 アキヅキの目標をヤマナミは切り捨てる。

 浮遊魔法で浮かべたものに乗るのでも翼を持つわけでもなく空を飛ぶのはこの世界の法則に反する。


「つまり、世界のルールを一時的に曲げるだけの魔力が必要。そんな無限みたいな力を持ってるのは世界でただ一人アシハラさんだけ」

「えー……」

「私も転移したばっかりの頃は頑張って飛ぼうとしたんだけど」


 痛みに強くなって終った。この異世界は自由に飛べる世界ではないのだ。

 新人はいつの時点かでこの事実にぶち当たり、結構落胆する。

 だがアキヅキは。

 むしろ楽しそうだった。


「法則!!そうか!そういうことだったのか!!やっぱり先輩の意見は聞いてみるものだね。ありがとう、今度ジュース奢らせてくださいよ!」

「え!?……え、え!?ええ……じゃあロイヤルミルクティー」


 ロイヤルミルクティー了解!

 アキヅキは最後にヤマナミの手を握ってあらためて感謝の意を伝え、また塔に上って行った。

 その後ろ姿を見ながらヤマナミは、転移してきたときのアキヅキが妙に落ち着いていたことを思い出していた。


いかがでしたか。

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